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MIJSのASEAN視察ツアー、シンガポールの日系SIerらと交流、「進出する覚悟が必要」
2013/06/21 18:34
ここ数日のシンガポールは、インドネシアやマレーシアから飛来する泥炭・森林火災が原因のヘイズ(煙霧)の状況が過去最悪で、視界不良。そんななか、MIJSと現地法人をもつ日系SIerが会場のMホテルに集まり、シンガポールや東南アジア市場のIT投資状況やビジネスモデル、日系企業とローカル企業のIT投資判断基準や日本製品の採用状況、ソフトウェアベンダーに求められるサポートや提供製品のレベルをテーマに熱い議論を交わした。
冒頭、挨拶に立った美濃理事長は「シンガポールは、日本を抜いてアジアで最も豊かな国に発展した。昨年、海外展開委員会はタイのバンコクを訪れて地元ベンダーと交流したが、シンガポールでも協力関係を築きたい」と述べ、日本のソフトを現地で販売するSIerにエールを送った。このあと、MIJSから参加した加盟各社が1分間ずつ自社の紹介を行った。
この日、自社の紹介を行ったソフトベンダーは、NTTデータイントラマート、WEIC、ビジネスブレイン太田昭和、システムエグゼ、エンカレッジ・テクノロジ、ヒューマンセントリックス、スーパーストリーム、アプレッソ、トヴァ、NRIセキュア、パナソニックソリューションテクノロジー、SGシステム、電通国際情報サービス、ネクスウェイ、ウイングアーク。
続けて行ったラウンドテーブルでは、ウイングアークの内野弘幸社長がモデレータとなって議論が進められた。最初のテーマは、シンガポールを含む東南アジアの景況感と、この地域に進出する日系企業のIT投資の現状など。最初に口火を切ったのは、巨大ソフト会社の世界トップ100社を担当するシンガポール拠点担当者だ。
その担当者によれば、「シンガポールの進出企業で減っているのは製造業。非製造業に関しては進出が増えている。具体的には、過去に相談を受けた世界700社のうち1割が実際にシンガポールに拠点を構えた」と、進出企業のカテゴリは変わったが、依然として進出は途絶えていないとした。これに対し、アジアでデータセンター事業も手がける某SIerは、「東南アジアでいえば、民主化したミャンマーの勢いを感じる。実際に現地へ行くと、ホテルは日本人だらけ。数年後には、タイ経済を抜くことも考えられる。シンガポールを含めて、すでに企業進出が多いアジアの国は、工場などの労働力として低賃金労働者をあてにしづらくなる。最低賃金が軒並み上がっているからだ」と危惧を表明した。
シンガポールは人材の集積地
東南アジアのなかで、シンガポールに拠点をもつ意義を語ったのは、グローバルでハードウェアとソフトウェアを販売する某メーカー担当者。「シンガポールは、ASEANのハブという位置づけは定着している。それ以上に、人材の集積地であることや世界各国の人材と交流できるメリットがある」として、シンガポールに拠点を構え、関係者とコミュニケーションを取ることで、「ビジネス・アイデアが浮かんでくる。米国IT企業のスタートアップが来るケースが増えた」という。同じように、シンガポールのビジネス上の利点を話したのが、日本の大手SIer担当者だ。「通信回線などITを使うインフラが整い、空港からのアクセスもよく、教育機関が充実して生活が安定している。タイの郊外に事務所を構えるより利点が多い」と、物価高であるにもかかわらず、シンガポールに日本企業が拠点を置くメリットを語った。一方で、シンガポールなどでビジネスを展開する際の課題も少なくない。金融系を得意とする日本の大手SIerは、「ERP(統合基幹業務システム)など、ライセンス販売をASEAN全土で展開する際、関税や人材供給の面で苦労が絶えない」と苦悩する。人材に関しては、定着率が低く、大卒入社で平均2~3年の在籍という状況で、流動が激しいという。だが、別の大手SIerは、シンガポール政府の取り組みに触れ、「シンガポールには生産性・技術革新控除(PIC)があり、IT導入で効率化を高める案件に対して時限措置として税を控除している」と、政府主導でIT導入を促進していることを告げた。
日系企業のアジアへの投資額では、タイ、インドネシア、シンガポールが上位を占めるが、他のアジア地域に目を向けるITベンダーもある。アジアを中心に世界でセキュリティ製品を販売するソフトベンダーのシンガポール拠点担当者は「フィリピンに期待している。インドネシアの平均所得は3000ドルで、フィリピンは2800ドルまで急激に伸びてきている」と話す。給与水準が上がれば、ITスキルレベルがアップし、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の拠点としては最適だという。日本の大手ハードメーカーも、同じように「フィリピンやベトナムなどに注目している。パソコンやサーバーなどのハードウェア販売には、どうしても導入サービスや顧客教育などのサポートが必要だが、こうした人材の集積地として注目に値する」と語った。
アジアは人材の定着率が低い
次に、東南アジアでの日本のIT製品・サービスの評判や導入判断の基準などについて意見を交わした。アジアに多拠点を配置する日本の大手SIerは「日本製品は注目されている。例えばERPは、早くから進出している製造業でも、製販一体体制を整備する際に必要になっている。アジアにある現地法人で従業員が20~80人の拠点では、ハード面も含め1000万円程度の案件が出ている」と現状を語った。また、タイ拠点で社長を務める日本でグループ会社を形成している大手SIerの幹部は、「アジアに進出する日系企業が導入を検討する際のキーワードは、多言語・多通貨、マルチカンパニーだ。その場合、現地拠点で決済できる額が小さいので、オンプレミスというよりはクラウドコンピューティングの提案が有効だ」と述べたうえで、「機能別に料金体系を設定できるクラウドがあれば、もっと普及する」と、MIJS加盟社に対して提案した。米国の大手ソフトメーカー担当者も「タイム トゥ マーケットだ。どれだけ短い期間で結果を出せるかが問われるので、クラウドという選択肢は有効だ」という。
来年4月、シンガポールで個人情報保護法が施行
議論はTシステムを導入する際の価格にも及び、某大手SIerは「日本国内では、割引率を問われるケースが多い。だがアジアでは、ほとんどの製品・サービスがオープンプライスで、場合によっては日本国内より高額で売れる」と語った。このあとは、コンプライアンス(法令遵守)や内部統制の観点からアジア現地拠点のセキュリティ意識について話が進んだ。「日本国内に比べ、セキュリティ意識が低い」(セキュリティベンダー担当者)、「製品・サービスといっしょにセキュリティ強化面を提案する必要のある日本国内に対し、提供ベンダーにとっては煩雑なセキュリティ面を問われることが少ない」(大手SIerの担当者)と、総じてセキュリティに対する関心が薄い。ただ、大手メーカー系の大手SIerは「IT資産管理製品の引き合いが増えている」と、一部で意識の高まりがあると指摘した。シンガポールでは、来年4月、日本の個人情報保護法にあたる法律が施行されることなどに起因しているとみられる。
ラウンドテーブル最後のテーマは、海外でのIT導入方法やサポート体制について。セキュリティベンダーの担当者は「競合ベンダーで、多拠点を置かずに法人向けで製品販売を伸ばしているケースがある。現地のディストリビュータの存在を知ることは、製品拡販で重要だ」と、現地の状況を伝えた。アジア地域で競合するケースが多い外資系メーカーの戦略に触れた米国ソフトメーカーの担当者は、「欧米ITベンダーは、代理店開拓の前に自らローカル企業などの大口案件を複数獲得し、その実績を背景に代理店施策の構築へと移っている」と、日本のソフト会社も、覚悟をもってアジアで実績づくりをすべきだと強調した。
MIJS視察ツアーは、このあとインドネシアのジャカルタに赴き、インドの経済事情などを日本貿易振興機構(JETRO)やみずほ銀行に聞いた。
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