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<インタビュー>注目高まるゲーミフィケーション、ゆめみの深田浩嗣社長に聞く
2012/04/13 10:49
──ゲーミフィケーションに注目が集まっています。さまざまな定義があるようですが、この言葉を深田さんはどのように捉えていますか。
深田 私は、「利用者を動機づけるためにゲームの要素をゲーム以外に活用すること」と定義しています。グーグルトレンドなどをみると、ゲーミフィケーションという単語が登場したのは2010年の後半です。
これには、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及が大きく影響しています。ソーシャルグラフ上でソーシャルゲームが遊ばれるようになりました。プレイヤー同士を競争させたり、協力して遊べるようにしたり、コミュニケーションをとったりと、いろいろできますよね。やがて、「これはゲーム以外にも活用できるのでは」という発想が出てきました。ゲームを遊んで育った世代が成長して、ゲームに対する抵抗感が薄れてきたことも無視できないでしょうね。
──ゲーミフィケーションの事例としては、任天堂の「Wii Fit」やタニタの「からだカルテ」などがよく取り上げられます。これらがSNSの動向と関係しているのですか。
深田 いや、あまり関連はないでしょう。こうしたことが状況をわかりにくくしています。ゲームの力を娯楽以外に活用しようという考え方はわりと以前からあって、シリアスゲームや代替現実ゲーム(ARG)などに分類できます。SNSの普及によるゲーミフィケーションの盛り上がりは、一つの流れです。
ゲーミフィケーションの捉え方は人によって異なっていて、「ゲームはゲーミフィケーションではない」という意見もあります。「Wii Fit」や「からだカルテ」は、どちらかといえば、シリアスゲームに近いといえるでしょう。
シリアスゲームは、ゲームを現実の課題解決に応用しようとするもので、10年近い歴史があります。アカデミックな領域でよく活用されてきました。例えば、タンパク質の構造解析をゲーム化して、エイズ治療のカギを握る酵素の構造を解明した事例があります。ARGも同じ文脈でよく語られるもので、商業キャンペーンでよくみられます。最近では、現実世界で脱出ゲームをプレイする「リアル脱出ゲーム」があります。
──ゲーミフィケーションを業務に活用している事例はありますか。
深田 米国でみられるゲーミフィケーションの活用例は、マーケティング用途と従業員向けが半々といったところです。マイクロソフトでは、Microsoft Officeの機能でわからないものがあれば、マニュアル代わりにゲーム感覚で順を追って勉強できる仕組みを用意しています。このほか、ロイヤルティ(忠誠心)やモチベーションの向上を促すSaaSアプリケーションも多くみられます。これには、セールスフォース・ドットコムが買収した米Ryppleのソリューションなどがあります。
──ゲーミフィケーションをうまく活用するには、どのような条件が必要ですか。
深田 誤解されやすいのですが、バッジやコインのようなゲームの要素を採り入れればいいというわけではありません。利用者のモチベーションにフォーカスしているかどうかが重要です。モチベーションを維持し、なおかつ高い効果を得られるようにするには、金銭などの外発的なものではなく、おもしろい、魅力的と思えるようにすることが必要。金銭で利用者を釣るのは、よく見られる失敗パターンです。
楽天レシピとクックパッドとの対比がわかりやすいでしょう。楽天レシピはクックパッドに比べて、盛り上がっていません。大々的に立ち上げて、レシピの投稿者に楽天ポイントをあげるキャンペーンを打ちましたが、あまりうまくいきませんでした。なぜかというと、楽天ポイントの取得が投稿の目的になるので、質の高い投稿が集まらないのです。すぐれた投稿が少ないので、サイトを訪れた人は再訪しない。そうすると、投稿のモチベーションも上がらない……という悪循環に陥ってしまいました。
──実際のサービスに導入する際には、何を、どのような手順で進めていけばよいのでしょうか。
深田 われわれが定義するゲーミフィケーションのフレームワークでは、まず「目的と利用者」を考えることから始めます。どういう動機で使うのか、何を求めているのかを理解します。次に「可視化」していきます。
例えば、英語の上達状況をどのように可視化するかを考えてみましょう。聞き取れるスピードや難しさなどを数値化し、さらにブレークダウンして「目標」を設定します。日常会話を聞き取れるようにするのが第一目標だとすると、それをクリアすればビジネス英会話、その上で字幕なしの映画……といった段階を踏むようにする。次に、「ソーシャルアクション」を考えます。プレイヤー同士で互いに学習状況を確認したり、ランキング化したりすれば、「頑張らなきゃ」という気持ちになるでしょう。
勉強でもスポーツでもそうですが、難しすぎる課題を与えられると不安になってやる気をなくします。簡単すぎても退屈でいけません。利用者のレベルに応じた課題を提示することで、「プレイサイクル」に乗ることができるようにします。ちょうどいい具合に難しい課題を常に用意することが、ゲームの重要な要素です。その際、わかりやすい設計でとっかかりやすくする「オンボーディング」を忘れてはいけません。最初は、すべてをプレイヤーに見せてもわかりませんから、慣れるまでは一歩一歩進んでもらうようにします。適用後には、改善と運用を繰り返していきます。
──どうもありがとうございました。
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