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【被災地レポート】仙台の地場ベンダーは元気、案件は減少していても、ITで地元を元気にする!
2011/04/14 10:26
復興には5年、全国へ案件を求める
SRAグループで仙台に拠点を構えるSRA東北も、地元中堅会社向けに開発した販売管理システムの検収・納品直前に震災にあった。納品先は沿岸部にある会社で、津波で事務所や工場が損壊した。しかし、その会社は「先々に同じシステムを導入する」と明言しているという。SRA東北の3月期末には間に合わなかったが、来期中の納品はかないそうだ。阪神淡路大震災でボランティアを経験したSRA東北の阿部嘉男社長は、「阪神淡路大震災は3年程度で復興したが、東日本大震災の被災地域復興には5年は必要だろう」とみる。そのため、「現状では、東北地方で売上げを見込むのは難しい」と、SRAグループに協力を仰いで、SRA東北発のシステムを全国の顧客に展開することで、当面をしのぐ考えだ。大阪の餃子店「大阪王将」など、大手小売店での実績をもつポイントカードシステムや、ASP型のCRM(顧客情報管理)などを主力事業とするテクノウイングが居を構えるビルは、いまもエレベータが故障中だ。4階にある事務所に入ると、社員の明るい声が聞こえる。事務所の被害はあっても、ここに表面上の悲壮感はない。同社の横山義広社長は「震災後に、大阪王将さんからポイントカード30万枚の追加注文をいただいた。真意は聞いていないものの、被災地ということで応援してくれたのだろう」と感謝する。
だが、先行きについて質問すると、表情が曇る。「とにかく先が読めない」。ストックビジネスが売上高の5割を占めるという安定した事業形態とはいえ、「自粛ムードや関東地区の計画停電がどう影響するか分からない」と横山社長。同社は、システムの8割近くをPOSレジ端末の販売会社が代理販売している。現在、その販売会社はPOS端末の復旧に専念していて、「システムのような付加価値製品の販売は後回しになる」と懸念する。ただ、横山社長には秘策がある。少しずつ始めていた中国での展開だ。現在は香港の会社に一部納品している程度だが、いまある人脈を生かして、進出を本格化する時期を検討している。記者はそこに、事業人の根性をみた。
「関係者が貢献できる復旧・復興業務は多くある」
一方、東北電力企業グループの東北インフォメーション・システムズ(TOiNX)のように、震災の影響が極めて軽微だったベンダーもいる。MISAの会長でもある石塚卓美社長は、「宮城県沖地震を想定して免震構造にした仙台市内にある2か所のデータセンターはビクともしなかった。あれだけ大きな地震でも無事だったことには驚いた。停電中も非常用電源で安定して稼働し、1秒も止まっていない」と話す。東北電力関係の基幹システムや地元企業のシステムも預かるデータセンターは、観測史上最大の地震に耐えた。その一方で、「地元ベンダーの従業員のなかには、震災で自宅が損壊した人や、避難所生活を送っている人がいる」と、地元ベンダーに多くの案件を発注する立場から、地域の復旧・復興に全力を傾ける覚悟だ。石塚社長はいま、MISA会長として、地元ITベンダーが地域の復旧・復興に何ができるかを思案している。電子情報技術産業協会(JEITA)や日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)などが、4月7日、パソコンなどを被災地に無償供与する「東日本大震災 ICT支援応援隊」を設立した。MISAなどは、これに乗るかたちで、地域のボランティア団体や自治体、一般企業などに効率よく分配する役割を果たそうとしている。今後、宮城県などと協議して実行に移す考えだ。石塚社長は「パソコンを供与されただけでは、使うことができない。ブロバイダの選択から通信回線をつなげ、使い方まで支援する必要がある」として、MISAが窓口になって、自治体などと一緒に支援していく。
その自治体関係者も、地震後の復旧に追われている。最近、自治体の担当者と会ったトライポッドワークスの佐々木賢一社長は、「例えば、宮城県の情報産業振興室の担当者は、避難所生活を送る人たちの名簿づくりでExcel入力に追われる毎日で、それ以外のことを考える余裕がない。被災地の状況や避難所などの問い合わせを受けるコールセンターも、24時間体制で身動きが取れない」と現状を語る。続けて、「データ入力なら、IT関係者のほうが数倍も早い」と、関係者が貢献できる復旧・復興業務は多くあると指摘した。
現在、仙台市内のベンダーの多くでは、案件の凍結・延期が相次ぎ、また、導入先に派遣していた技術者が会社に戻つつある状況で、技術者を用立てることができそうな環境になっている。アルゴソリューションズの宮崎正俊社長は、「当社は地元中心に技術者を派遣しているが、事業所の損壊などの影響で、その多くが戻ってきている」と嘆く。東北大学名誉教授で、地元ベンダーの“頭脳”でもある宮崎社長は、「すでに研究を進めていたクラウド環境でシステム開発を行う環境構築を急ぐ」という。企業に技術者を派遣するのではなく、自社でクラウド環境を使って企業システムを担う事業だ。宮崎社長は、「これが完成すれば、人材を効率よく活用できる」と断言する。ただ、「現状では地元案件は取れそうもない。北海道や関東から南で仕事を見つける」と、苦渋の決断を迫られている。
無償のクラウドが使えない! 関係者の支援が必要
仙台市に入って、多くのベンダーと接して、いくつかの課題が見えてきた。その一つが、東京地区の多くの大手バンダーが無償で提供しているクラウドサービスだ。無償で場所を貸し出し、被災企業や避難所のボランティア団体などに使ってもらう仕組みだ。だが、これがほとんど使われていない。トライポッドワークスの佐々木社長は「教える人がいなければ、使うことができない」と、IT関係者の支援が必要と訴える。サイエンティアの荒井社長によれば、「自社の無償クラウドサービスが使われているか、東京の大手ベンダーから意見を求められた。現状は使えない状況だと伝えたが、もしかしたら、こうしたベンダーから資金援助などを得られるかもしれない」と話す。被災地域の復旧・復興にITが果たす役割は大きい。しかし、それを有効利用するためのノウハウや技術を使う側がもっていない。誰かが支援しなければ、ITは無用の長物となってしまう。地元の技術者が担うにしても、通常業務と並行して実施するという苦難が伴う。さらに、地元の技術者が支援するのであれば、いくばくかの報酬を提供する必要がある。世界や日本全国から寄せられている復興支援金の一部は、こうした人材の活用資金にも回してほしいものだ。それは確実に、被災者の支援と被災地の復興につながる。
本日(4月14日)は仙台市を離れ、津波で甚大な被害を出した石巻市を取材する。避難所のボランティアの方々と会い、IT業界の果たすべき役割を聞く予定だ。(谷畑良胤)
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外部リンク
アテネコンピュータシステム=http://www.athene-cs.co.jp/
宮城県情報サービス産業協会=http://www.misa.or.jp/
サイエンティア=http://www.scientia.co.jp/