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アクセンチュア、各国のクラウド事情を調査、クラウド利用の勘どころを提言
2011/03/28 10:25
レポートを踏まえながら、篠原淳テクノロジーコンサルティング本部パートナーと、長部亨テクノロジーコンサルティング本部IT戦略・インフラグループシニアマネージャーに、クラウドがもたらすビジネスの変化などを聞いた。
調査レポートによると、大企業と公的機関の44%はアプリケーションにクラウドサービス(プライベート/パブリック)を利用している。このうち日本は、重要なアプリケーションにクラウドサービスを利用している企業が26%。重要性の低いアプリケーションは33%という結果だった。重要なアプリケーションにクラウドサービスを利用している比率が最も高かったのは、33%のフランス。重要性の低いアプリケーションと合わせて68%が利用している。対照的に、利用率が著しく低いのが中国で、11%に過ぎない。
レポートでは、2012年までには、アプリケーションにクラウドサービスを利用している企業・公的機関が54%に達すると予測。最も利用率が高くなるのがブラジルで76%。次いでドイツが65%となっている。日本は、重要なアプリケーションでは22%に減少するが、全体では53%となる見込み。ブラジルやドイツの企業は、中国や米国、英国と比較して、早い段階でクラウドサービスを採用することがわかった。
パブリッククラウドを利用する際の懸念事項として、最も大きな比率を占めるのが「データ・セキュリティ/プライバシー/機密性の問題」で86%に上る。「信頼性/稼働時間/ビジネス継続性の問題(84%)」「既存システムとの連携(83%)」「サービス・アグリーメント/保証/契約の問題(83%)」「クラウドコンピューティング市場の成熟度(82%)」「業界基準の欠如(82%)」「法的要件、規制要件、監査要件に対するコンプライアンス(81%)」「法務的、規制的あいまいさ(81%)」などが続く。
篠原パートナーは、「各国で共通しているのは、セキュリティやプライバシーなどへの懸念。ただ、それぞれ考え方は異なっている。面白いのは、企業がデータがどこにあるかを気にする日本とオーストラリア。共通しているのは島国であるということで、データセンターが海の向こうにあったりする場合があるからだ。ヨーロッパはEUで経済的なつながりあるし、プライバシーに対するコンセンサスなどもある。ドイツの企業は、フランスにDCがあっても、大きな懸念を抱かない」とお国事情の違いを語る。
自国外にDCを設置しているベンダーからクラウドサービスを受けることに、どの程度積極的かという設問に対し、大いに積極的/おそらく積極的/場合によっては積極的と回答した割合は、英国が47%、米国が40%、日本が67%。一方、ブラジルは91%、ドイツは88%と、海外のDCの利用に積極的だ。
すでに、事業部門の責任者の60%が「プライベートクラウドをパブリッククラウドと連携させている」と述べている。レポートでは、2012年までに、プライベートクラウドを使用する企業・組織の割合が77%になると予測している。
篠原パートナーは、「先端の企業はプライベートクラウドを利用しているが、すでに思ったほどは安くならないことに気づいているだろう。技術の進化が速く、3か月前にできなかったことができるようになっており、現時点では難しい基幹系システムなどをパブリッククラウドに乗せていく時代はそう遠くない。実際に米国などでCIOと話すと期待値が高い」と語る。
レポートは、「クラウドによるコスト削減は出発点に過ぎない」と指摘している。クラウドを導入を検討するにあたって企業が重視しているのは、「ITの初期投資コスト/資本支出を抑える」(70%)や「自社保有のITインフラの運用・保守費要を削減する/回避する」(70%)だけでなく、「標準化された効率性の高い業務プロセスのプラットフォームを提供する」(66%)、「新規サービス/製品や改良版を迅速に開発する」(64%)、「業務プロセスを迅速に変革する」(64%)、「異なった地域で統一されたプロセスを確立する(62%)」など、多岐にわたる。
長部シニアマネージャーは、これについて「単にコスト削減だけでなく、ビジネスコスト全体を見直すことが重要。ITのコスト削減という一本足打法のストーリーをつくると、まずROI(投資回収率)は出ない。オペレーション全体をローコスト化しないといけない。業務自体の生産性を抜本的に変える必要がある」とアドバイスする。
また、篠原パートナーは、「クラウドの本質的な価値は、新しいビジネスの創出だ。新しいビジネスを立ち上げていくための技術革新が起きていることを、IT業界の関係者だけではなく、ビジネスサイドでも理解してもらい、最大限に活用してもらう方策を考えていかなければならない」と指摘する。
クラウドは、必要に応じて必要な分だけITリソースを割り当てることができ、例えば膨大なデータの処理や季節変動のある作業に効果を発揮する。また、新システムの迅速な開発環境のほか、ユーザー数やデータ量が急増した場合の応答状況のテスト、インターネット上で利用するサービスを構築する手段などを提供できる。篠原パートナーは、「これまで1年かけて取り組んでいた開発の期間は、より短くなる。コストは下げられるし、早く効果が出る。単純にSaaSやIaaSを活用するのではなく、ビジネスにどのように適用していくかを考えていくことが重要だ」とする。
同社は、企業のクラウド利用を支援するにあたって、クラウドの適用範囲を分析し、導入計画・ロードマップを策定するプログラム「Cloud Jump-start Program」を用意している。経済産業省クラウド・SLAガイドラインに準拠した約1000個の診断項目を用いて、2週間で現状把握とクラウド導入機会の評価を実施し、適性を確認する。そのうえで、システムの重要度とビジネス上価値の二軸でクラウドの適用範囲を設定し、導入施策を選定する。
次に、導入効果の効果分析とロードマップを策定。クラウド導入による期待効果や投資規模、期間、課題などのカルテを作成し、導入ソリューションの適正を見極める。その内容を踏まえて施策の優先度とロードマップを策定し、最後に報告書を作成する。マイクロソフト製品とセールスフォース・ドットコム製品を活用した同様のプログラムも用意している。
長部シニアマネージャーは、「CIOの意気込みや力量によって、クラウド推進の取り組みが変わってくる。クラウド化が目的になってしまうと、プロジェクト全体を俯瞰できなくなってしまうことがある。われわれは『Cloud Jump-start Program』でクラウド戦略の策定を支援している」という。
レポートは、クラウドによるコスト構造の違いを見極め、クラウドベースのシステムと従来のシステムやアウトソーシングを比較することのほか、明確なガバナンス構造の確立、クラウドの業界への影響度の調査、スキル育成・リスク対応のサポートなど、事業部門の責任者に求められるポイントを挙げている。
また、ベンダーの選定後も、財務面での安定度や機能面の改善、サービスレベルの向上、バージョンアップ保証、契約履行などの実施面を継続的に評価していく必要があるという。クラウドの導入にあたっては、情報システム部門以外の人員をプロジェクトチームに引き入れることを提言している。
長部シニアマネージャーは、「情報システム部門は、これまではシステムを開発したり保守したり、安心・安全に運用することが任務だった。今は、ITの視点で業務改革を推し進めていくことが求められており、変わる必要がある。業務部門と対話し、密接に連携しながら戦略を練っていくべきだ」としている。(信澤健太)
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