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光和コンピューター、「本屋で売る電子書籍」のビジネス戦略をトップが語る

2010/02/19 10:08

 電子書籍をダウンロード購入する場所を書店に限定するユニークな販売方法で、先行する米国勢を追撃する――。光和コンピューターの柴崎和博代表取締役は、「あくまでも研究段階」と前置きしながら、電子書籍ビジネス戦略を披露した。強調したのは、「出版文化を健全に育てる」という点だった。

――2010年は国内の「電子書籍元年」といわれているが、出版業界向けシステム構築に強い光和コンピューターとして、電子書籍をどう捉えているか。

柴崎 当社でも電子書籍専用端末の発売を検討している。米アマゾンや米アップルなどのネームバリューにどう対抗するかという課題はある。しかし、やり方次第で十分対抗できると思っている。

――日本は他国に比べて電子書籍が普及していていないが。

柴崎 理由の一つに、日本の出版業界の古い体質が挙げられるだろう。出版社は、アマゾンやアップル、グーグルを「黒船」と受け止めて、あまり良い印象を持っていない。歓迎していないわけだ。加えて、ソニーやパナソニックなどの家電メーカーは日本市場で端末を発売したが、失敗に終わっている。

――それでも、やり方次第でチャンスはあるということか。

柴崎 日本には独自の文化があって、普及は遅いとみている。小学生は近所の街の書店に本を買いに行き、本を読んで育つ。書店は地域の“文化センター”の役割を担っており、書店がなくなるということは文化の衰退を意味する。出版産業にとっても国にとっても、書店がなくなることはマイナスだ。こうした状況を踏まえて、「書店で電子書籍を販売する」という発想に至った。

――発想はユニークだが、今の小・中学生はインターネットに慣れている。すでに書店は“文化センター”ではなくなっているのではないか。

柴崎 利便性だけを考えたら、携帯電話からダウンロードするだろう。コミックに関してはそれでいい。しかし、ケータイ小説は衰退している。

――端末はどのようなものを検討しているのか。

柴崎 すでに市場には、複数の電子書籍専用端末が揃っている。当社の電子書籍専用端末は、台湾メーカーが製造したものを販売する。日本での総販売元になるだろう。具体的なことは話せないが、「iPad」のような大きなサイズではない。「Kindle」もそうだが、大きすぎて、はたして読者が持ち歩くどうか疑問だ。

――どのように業界を巻き込んでいくのか。

柴崎 日本電子出版協会(JEPA)などと相談していくことになるだろう。「Kindle」などにどう対抗するのか、協議して方向性を決めようとしているところだ。日本独自の、いわば“ジャパンモデル”をつくったらどうか、と提案するつもりだ。

――御社の“ジャパンモデル”で、書店でのダウンロード方法は?

柴崎 PCかダウンロード専用端末を置くことを検討している。技術的にはどのようにもできるので、今後、詳細を詰める。電子書籍端末も書店で販売する考えだ。過去を振り返れば、出版社には、電子辞書で失敗した経験がある。利益はメーカーに取られ、出版社の手元には、ほどんど利益が残らない状況だ。これは書店も喜ばない。

――場所を問わずにダウンロードできないのは不便だと思うが……。

柴崎 確かに読者からすれば、インターネットやコンビニでダウンロードできれば便利だと思う。もちろん技術的には可能だが、あえてそれはしないつもりだ。あくまでも書店でダウンロードできる仕組みをつくりたい。このこだわりがあるので、普及率は「Kindle」などのほうが高くなるだろう。

――どのように差異化を図るのか

柴崎 顧客の利便性を考えればインターネットがいい。ただ、それは出版社の協力がないとできない。書籍と電子書籍を並行して確実に売っていく出版文化を、これからも育てていかなければならない。書店を守るのではなく、出版文化を健全に育てるという観点だ。利益優先だけで考えていいものか、疑問を抱いている。これからの出版社は、我々の目指す“ジャパンモデル”を採用する会社と、「電子書籍だけ販売できればいい」という会社とに分かれるだろう。私はそうなったとしてもかまわないと思っている。

――発売するとしたら、いつか?

柴崎 具体的な時期は明かせない。あくまで研究段階だと断っておく。

柴崎和博代表取締役
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光和コンピューター=http://www.kowa-com.co.jp/index.html