中堅SIerのクロステック(横浜市、渡辺安好社長)のエンドユーザー向けビジネスが堅調だ。顧客企業の情報システム部門経由の受注を含むエンドユーザー向けの昨年度(2009年6月期)売り上げは、厳しい経済環境にあっても微増で推移。今期も「底堅い引き合いがある」(渡辺社長)という。同社は大手コンピュータメーカー系SIerからの仕事も多いが、外注費削減の煽りを受けて苦戦。地元の横浜・川崎を中心に、粘り強くエンドユーザーを開拓してきた努力が実を結んだ。
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渡辺安好社長 |
クロステックでは、この不況で直近の通期売上高はおよそ1割減少した。だが、中身をみると大手メーカー系SIerからの受託ソフト開発(同業者間取引)は減ったものの、自らが開拓してきたエンドユーザー向けのビジネスは、「減るどころか、むしろ増えた」(同)と手応えを感じている。ここ数年、横浜や川崎など地元企業への直接営業に力を入れてきた。システム構築の受注後は、定期保守契約を結び、地元SIerならではのきめ細かなサービスで顧客の支持を獲得。通期売上高の5割弱をエンドユーザー系ビジネスが占めるまで拡大させてきた。
例えば、神奈川県は横浜港を抱え、羽田空港も近いことから物流センターが多数ある。運送業向けの業務アプリケーション開発はクロステックの得意分野の一つであり、まずは運送業の顧客を重点的に掘り起こした。地元自治体や関係団体など地元SIerの地の利を生かした営業にも注力。古くからの顧客も含めて30事業所余りからの受注が、厳しい状況下での“命綱”として機能した。今年度(10年6月期)も大手SIerの外注費削減が続いていることから、通期売上高は数%減の見通し。だが、エンドユーザー向けのSIやサポート・サービスを安定収益源として、売り上げの底上げを図る。
今後は、データセンターを活用したSaaS/ASPなど新しいITシステムの提案などを拡大。一過性のシステム構築ではなく、保守サポート契約を前提としたITシステムのライフサイクル全体を受注する提案を積極的に推し進める。こうした企業努力が評価され、今年8月には高い付加価値を生み出す企業として「横浜価値組企業」の認定を横浜市から受けるなど、評価が高まっている。クロステックの取り組みは地域SIerが勝ち残る一つのモデルケースといえそうだ。(安藤章司)