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TIS サービス系の比率を5割へ拡大
2009/07/27 21:35
週刊BCN 2009年07月27日vol.1294掲載
クラウド対応を加速 開発環境の整備進める
ITホールディングスグループのTIS(藤宮宏章社長)は、クラウドコンピューティングへの対応を加速させる。今年10月をめどに自社で構築するクラウド環境向けの開発環境の試験運用をスタート。クラウドへスムーズに移行するための技術開発に取り組む。IBMや富士通などハードベンダーがクラウドビジネスに本格進出しており、ハードを持たないTISのようなSIerの主戦場はアプリケーション開発で差別化する必要がある。クラウド環境でのアプリケーションの開発生産性の向上を図ることで収益力を高める。クラウド対応の開発環境は、TISが独自に構築したクラウド基盤(PaaS/HaaS)上に構築する。現在、開発を進めており、まずはTIS自身で使う社内用業務アプリケーションの開発用として10月から一部試験的に活用する方針だ。改良を重ね、段階的に顧客向けのアプリケーション開発にも応用していくことで、「クラウドを前提とした開発体制を構築」(同社の前西規夫副社長)し、他社との差別化を図る。
クラウド基盤上に仮想的な“プロジェクトルーム”をつくり、TISの開発者や顧客企業の情報システム部、外注先、海外オフショア開発人員などがネットを経由して開発に従事するスタイルを想定している(図参照)。これまでのシステム開発では、本稼働時に使うシステムとは別に、開発用のハード・ソフトを用意していた。システムが大規模になればなるほど、開発時に使う基盤への投資額が「本番環境と同じか、それ以上かかる」ケースも散見された。開発環境のクラウド化は、クラウド基盤へのシームレスな移行のみならず、開発基盤への投資を最小限に抑えられるメリットもある。
TISでは、クラウド対応に向けて今年5月、大阪市にある心斎橋データセンター(DC)を大幅に拡張。2011年4月には東京都心に最新鋭の御殿山DCを竣工させる予定で、着々と準備を進める。心斎橋と御殿山のDC設備とクラウド対応の開発環境の整備などを合わせると、数百億円規模の先行投資になる。だが、GoogleやAmazonが規模で勝り、IBMや富士通など大手ハードベンダーがクラウドに本格参入。御殿山DCが完成する2011年には、競争はより激しくなるのは必至だ。そこで打ち出したのがクラウド型アプリケーションの開発生産性の向上である。
もともと同社は、大手クレジットカード会社や製造業、流通サービスに強いSIerであり、他社との優位性を確保するためには、「例えば、カード会社の基幹システムに耐えうる、高可用性があるクラウド基盤の構築が必須」(前西副社長)と考えている。リアルタイム処理が求められ、停止が許されない分野への本格的なクラウドの適用は、技術的に解決しなければならない要素が多い。このハードルを乗り越えれば、従来から培ってきた業種ノウハウを生かした展開がより容易になる。
昨年度(09年3月期)のTIS単体売上高に占めるアウトソーシングなどのサービス関連ビジネスの構成比は約30%だったが、御殿山DCの稼働後の2012年3月期には同関連の構成比を約50%にまで高める。受託ソフト開発に比べてアウトソーシング系は粗利率が高いこともあり、利益面でもクラウドを軸とするサービス系を柱に据える。
TISが属するITホールディングスグループ全体で見ると、2010年春に中国・天津に新型DCを開設する予定であるほか、英ブリティッシュ・テレコミュニケーションズ・ピーエルシー(BT)と戦略提携し、BTが持つ世界のDCと相互接続する構想を掲げる。御殿山DCの開業後は国内で19拠点、総延べ床面積約11万m2と、SIerとしては最大規模のDC保有量を誇る。クラウドへの移行をチャンスと捉え、グループの総力をあげて2012年3月期までに連結売上高4000億円、営業利益350億円を達成し、トップのNTTデータに迫る構えだ。(安藤章司)
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業種・業務ノウハウに活路
クラウドコンピューティングで主導権を握るには、膨大な投資を要する。残念ながら、国内にはGoogleやAmazonのように世界規模のパブリッククラウドを展開できる投資体力や戦略性を持ったITベンダーはいない。富士通やNECなど大手ハードメーカーは、自前でハードを揃える能力はあるものの、SIerはクラウド用のハードをそうしたメーカーから調達する。したがって、少なくともクラウドのハード階層での差別化は困難となる。ハード階層の上に位置するOSや、VMwareやXenのような仮想化ソフトも、大半が米国のソフトベンダー製かオープンソースソフト(OSS)。最上位のアプリケーション層にしてもSAPやOracle EBSなど、近年は外資系が幅をきかせる。そこで有望株として注目されるのが、クラウド環境上でアプリケーションを連携させる開発基盤である。ハードウェアや仮想化ソフトよりも上の層で、かつアプリケーションをつなぎ合わせるクラウドシステムの構築こそがSIerの強みを生かしやすい領域。もともとSIerは、マルチベンダーの商材の組み合わせや業種・業務に特化したアプリケーションの受託開発で成長してきた経緯がある。TISクラスになると、金融機関の大規模な基幹システムを運用してきた実績もある。
ただし、クラウド上での開発環境は、どのベンダーも経験不足。SIerとしては、信頼性が低いシステムでは自身の価値を発揮できないため、必然的に高いサービスレベルを求める。例えば、大規模ユーザーの基幹システムを支える堅牢性や、他のクラウド上で動作するSaaSなどと連携可能な相互接続性、古いアプリケーションをクラウド基盤上に移行しやすくする仕組みづくりなど多岐にわたるが、いずれも一朝一夕ではつくれない。規模のメリットでビジネスを組み立てることが難しいSIerは、高い付加価値領域で独自のクラウド環境を構築することで勝ち残りを図る。(安藤章司)
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