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アカウンティング・サース・ジャパン 会計事務所向けSaaSを始動
2009/06/29 21:34
週刊BCN 2009年06月29日vol.1290掲載
アカウンティング「A-SaaS」の名称で開始
6月1日に設立されたSaaSベンダーのアカウンティング・サース・ジャパン(森崎利直社長)は、大手3社の寡占化が進む会計事務所向けシステム市場に参入する。同社は、会計専用機ベンダーである日本デジタル研究所(JDL)元取締役の森崎社長や米国で活躍するIT技術者ら12人で設立。一般的なソフトウェアベンダーとは異なり、会計事務所から会員を募り、会員と同社が共同でSaaSシステムを構築するのが特徴だ。来年9月には、財務システムのサービスを開始。この後、段階的に税務システムなどを付加する。今後3年間で6000事務所の会員登録、4年後には売上高22億円を目指す。同社の特徴は、開発ベンダーとして自前でソフトウェアを開発するのでなく、「SaaS会計事務所プロジェクト(略称:A─SaaS)」を立ち上げ、会員となる会計事務所のニーズを集約してSaaSのアプリケーションを協力して企画・開発することにある。会計事務所業務に不可欠な決算・税務、顧問先などのシステムは、財務システム開発完了と同時に順次追加される。来年9月には、財務システムを稼働させる計画だ。基本システムが揃ったあとは、決算、税務、顧問先などに対応したシステムの追加開発を適宜行い、3年間ですべてのシステムを揃える。データセンター側で開発作業などが実施されるため、会計事務所側でバージョンアップの作業負担がなくなる。
従来のようにハードウェアやソフトウェアを保有することなく、毎月一定料金(月額2~3万円)を支払うことで利用可能。会員となる会計事務所は、システムを格納するデータセンター(PaaS)へアクセスするだけで、すべてのアプリケーションを使える。さらに、会員事務所の顧問先企業は、VPNなどネットワークやセキュリティ環境を整備するなどで、会員事務所が提供する「自計化システム」をSaaSで利用できる。SaaS/PaaSシステムは、米シリコンバレーで活躍するIT技術者が最新技術を採用して築く計画だ。
国内会計事務所の多くは、TKC、JDL、ミロク情報サービスの大手3社などの会計専用機や専用サーバーにある財務・税務の業務ソフトを利用している。一般的な会計事務所では、財務、決算、税務など20本程度のソフトを常時利用している。また、専門性の高いシステムが求められ、法令・税制改正なども多いため頻繁にシステム再構築作業が発生し、関連経費のIT投資が避けられない。兼務でITに関わる会計事務所職員の作業負担も増すばかりだった。
一般的に国内会計事務所の年間IT投資総額は、全体で1000億円弱といわれている。森崎社長は「税理士法改正(2001年)による規制緩和を受けて、より高い専門性と幅広いサービス提供が問われる“変革と競合の時代”に入り、淘汰の波が押し寄せている」とみる。こうした時代背景に応じて、柔軟性が高く安価なシステムが求められている、と「A─SaaS」立ち上げの理由を説明する。
同社は今年9月までに、SaaS/PaaSの置き場所となるデータセンターと、会計事務所のニーズに応じて行うアプリケーション開発の委託先を選定する。
現在、全国にある会計事務所は約3万8000事務所。その顧問先企業は約280万社に達している。同社ではこのうち、3年後に約6分の1を占める6000事務所の会員を募ることを目標に掲げている。将来的には1万5000事務所・顧問先90万社が利用するSaaSに成長させる計画。会計事務所市場の新興勢力として“台風の目”になりそうだ。(谷畑良胤)
【関連記事】会計専用ベンダー大手3社と差異化
専用機に比べ5分の1のコスト
アカウンティング・サース・ジャパンの森崎利直社長は、日本デジタル研究所(JDL)取締役として活躍した。森崎社長はJDL退職後に「会計事務所業界にイノベーションを起こしたい」と、旧知の仲で米シリコンバレーでSaaSの基礎研究をする石原康男氏(同社副社長に就任)に相談し、同社を設立した。同社が提唱する「A-SaaS」は、会計事務所業界に詳しい森崎社長が現状を徹底調査し、コンピュータ環境の問題点を洗い出したことが根底にあり、会計専用機の大手3社と切り口の異なる、会計事務所と「共同開発」という方式をとった。
会計事務所業界は、2001年の税理士法改正で大幅な規制緩和の波を受け、事務所の統廃合や廃業が進んだ。また急激な景気後退を受けて、事務所経費の多くを占めるITを効率化し、投資を抑制することが求められている。こうした時代背景に目をつけたのが「A-SaaS」である。
同社試算によると、標準的な会計事務所の専用機システムと「A-SaaS」を5年間利用した場合のコスト比較は、10人(ライセンス)規模で「A-SaaS」が536万円なのに対し専用機が2504万円と、実に5分の1ほどに低減できる。さらに特徴的なのは、会計事務所に対する顧問先のシステムが「無償」ということだ。データセンター側で同じアプリケーションを会計事務所と顧問先で利用でき、データをリアルタイムに共有できるメリットがあるという。
国内中小企業のIT化やパソコンで会計処理する「自計化」は、世界に比べ遅れているといわれて久しい。このため、経済産業省が「JーSaaS」を設立。森崎社長は「J-SaaSは中小企業向けで、A-SaaSは会計事務所向け。中小企業のIT化促進という観点で目的は一緒」と語る。
「A-SaaS」は3年後にすべてが整う。業務ソフトベンダーが開発・販売する会計ソフトなどに影響を及ぼしそうだ。(谷畑良胤)
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