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ウイングアーク 目指すは世界に冠たるベンダー 新DBなどプロダクト拡充へ

2009/06/22 21:34

週刊BCN 2009年06月22日vol.1289掲載

 帳票ソフトウェア最大手のウイングアークテクノロジーズ(内野弘幸社長)は、帳票関連プロダクトを軸に世界のデファクトスタンダード(事実上の標準)になる日本発の製品開発を目指す。帳票ソフトやBI(ビジネス・インテリジェンス)製品などで潜在需要が見込まれる中国などアジア圏へ進出し、段階的に欧米へ市場を拡大。この間には、帳票類などの情報蓄積環境で課題を残すデータベース周りの製品を自社開発するなど、システム全般の生産性を向上させるソフトを揃えていく。将来的には、世界のメガソフトベンダーと肩を並べるために、年商を現在の10倍になる1000億円まで引き上げることを視野に入れる――週刊BCNの独自取材で、内野社長はこうした構想を明らかにした。

 ウイングアークは4月、同社で「第4世代のコンセプト」と呼ぶ、企業のアウトプット運用の適正化を図る新ソリューション「OPM(アウトプット・パフォーマンス・マネジメント)」を発表した。同ソリューションは、バリュー・エンジニアリング(製品の機能分析評価手法)によるコスト削減や、システム最適化、効果検証と効果の最大化を3ステップで展開する仕組み。これらをはじめとして、次世代に向けた取り組みを本格化させている。

 同社は創業当初から帳票作成・帳票出力ソフトの「SVF」と帳票型入力画面「StraForm」の帳票関連を軸にプロダクトを展開してきた。だが、創業時から「情報インフラの生産性を上げることを支援することを使命としている」(内野社長)と、特定領域にこだわらない姿勢をとっている。このため、帳票関連製品に加え、業務データを集計・分析して可視化する自社製品のBI「Dr.Sum EA」を融合させ、企業データを戦略的に有効利用する環境を整えてきた。

 しかし、内野社長は「ヒトと帳票システムをつなぐインタフェースは揃った。いまは蓄積された企業データを活用することで、システムが戦略上高い価値を生むと考える企業が増えた。その要求を当社は満たしていない」と分析。企業の資産であるデータを経営に生かして営業活動や経営判断につなげる“攻め”のシステムが必要不可欠と、「情報を溜め込む領域」へプロダクトの範囲を広げることを検討。現在の商用RDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)では補えない機能を満たすソフトなどを構想する。

 昨年2月には、こうした先進技術の研究開発を目的とした開発子会社としてフォー・クルー(田中潤社長)を設立した。同社は「より一層の創造」を目的としたR&D(研究開発)組織としての役目を担う。ここを中核に、新たなデータベースや企業システムの運用負荷軽減、業務改善、生産性向上に役立つ新プロダクトを企画・開発する。

 海外進出の第一弾としては、6月5日に現地法人「文雅科信息技術(上海)有限公司」を設立。BIの「Dr.Sum EA」の中国版製品を今年9月から中国企業へ販売開始する。日本の現地法人向けにソフトを販売する日本のソフト会社は多くなっているが、中国企業に対し、中国のパートナー経由で製品販売する例は珍しい。日本のソフト市場は年間約10兆円規模といわれる。これに対し中国は現在、約3兆円でITビジネスの年率成長率が40%の勢いで伸びるほど潜在需要が高いため、「中国を足がかりにアジア圏に進出し、欧米へ展開することを視野に入れる」(内野社長)。

 同社の2009年2月期連結決算は、売上高が約81億円。「1000億円に到達しないといけない」と、世界のメガベンダーに肩を並べ、日本発のベンダーとして世界で認められるには、この程度の売上高規模が必要と判断している。海外進出して業績を伸ばし、株式上場をして資本力を増強しつつ、M&Aを手がけることなどで、必要なプロダクトやソリューション能力を高める。帳票は中国や欧米にないソフト領域。この文化を世界に根付かせることができれば、同社全体構想の実現は難しくない。(谷畑良胤)

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中国を足がかりに

 ウイングアークテクノロジーズは2004年3月、翼システムが新規分野事業として立ち上げていた「帳票ツール開発・販売」を独立させて設立された企業だ。内野弘幸社長によれば、「偶然、帳票ソフトウェアがあっただけ」で、創業当初からオープンシステムで基幹の業務アプリケーションの開発効率化を図ることを念頭に置いたベンダーとして立ち上げたという。一定の収益と知名度を獲得できたことから、創業当初の目的を果たすべく技術開発やマーケティング戦略を転換させているものとみられる。

 現在同社は、日本の帳票ソフト市場でシェア50%を獲得する。日本の商慣習や多様なビジネスロジックが必要な「帳票/レポーティング」をテーマにした開発分野では、デファクトスタンダードだ。95年発売の帳票システム「SVF」は中堅・大企業を中心に1万6000社に、01年にリリースしたBI(ビジネス・インテリジェンス)「Dr.Sum EA」も2400社に導入した実績がある。

 しかし、国内帳票ソフト市場には成熟感が漂う。現在、残る領域として中小企業に手を伸ばしているものの、安価な製品だけに、急成長に必要とされる収益を稼ぐのは難しい。そこで6月に設立した中国・上海の子会社を皮切りに世界へと市場を広げることを目指した。一方で同社は、SaaS事業にも力を注ぐ。内野社長は「SaaSが定着すれば、当社の持つアウトプットに関連するサービスを多様に付加できる」と、SaaSで海外へ進出する可能性を見出している。

 世界に冠たるベンダーになるには、年商1000億円規模に成長することが必要だろう。日本のソフトベンダーが海外で売り上げる率は、全体の数%といわれる。日本で使われる業務ソフトの元は、ほとんどが海外製品だ。「帳票」という日本文化で世界進出を果たせるかどうか、注目していきたい。(谷畑良胤)
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