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世界初、自動制御自動車、無人砂漠横断レース開催 ロボット車両実用化目指す

2004/03/22 20:24

週刊BCN 2004年03月22日vol.1032掲載

 ハンドルもブレーキも自動制御の自動車があったら、レンタカー返却もボタン1つでOKだし、目の不自由な人も移動は自由自在だろう。そんな夢のロボット車両の実用化を目指して13日、世界初の無人レース“DARPAグランドチャレンジ”が開かれた。

 主催者は、インターネットの原型「ARPAnet」(アーパネット)の開発で知られる国防総省国防高等研究計画局。「2015年までに戦闘用車両の3分の1を無人にして、人命被害を抑えること」と議会から厳命を受けたはいいが、年限が年限だけにロッキードのような大手契約先に任せっきりというわけにもいかない。そこで今回のようなレース形式のコンペに踏み切った。

 制限時間10時間以内にゴールを決めたトップに贈られる賞金は、なんと1億余円。政府新規開発事業の初期費用としてはケタ違いに安いが、公募レースの賞金としては遜色ない。2年前に告知が広まるや全米からコンピュータ科学や人工知能の専門家、ロボット愛好家などプロ&アマ問わず数百組が名乗りをあげ、レースは最終選考を通過した15組で争われた。

 コースは、カリフォルニア州南部のバーストウを起点にラスベガス近郊に至る砂漠の全長142マイルだ。道なき道を行く障害競争にハプニングはつきもの。途上には渓流もあれば潅木、穴もある。しかもルートはスタート2時間前まで未公開である。

 この時点で参加者全員に通過ポイント2600か所の緯度・経度と制限速度を記したGPS(全地球測位システム)のCD─ROMを配り、あとは無人の車がこの地図と目の前の視覚情報だけを手掛かりに荒野を突っ走る。リモコン操作は一切なし。どんな悪路でも進路の状況を的確に把握するセンサー、各地形に合わせて最適な動きを識別する人工頭脳、これらの性能が勝負の分かれ目だ。「ひょっとしてNASAの火星探険装置開発以上に難しいのでは?」(専門家)との声まで出た。

 UCバークレイからは、自宅に下宿人を住まわせて得た賃貸料を開発資金に充てたレヴァンドウスキー氏率いるチームが参加。アーノルド・シュワルツェネッガー・カリフォルニア州知事ご愛用のHummer(ハマー)など全地形型車両を繋げた車で臨んだが、スタート前にヨロヨロと横転して大破。同じくスタートライン前後数百ヤードを迷走の挙げ句、棄権に追い込まれたチームは7組、0.5から1.5マイルで退場したチームは4組に上った。

 過酷なレース展開のなか、トップを独走したのは、インテルやボーイングなど企業群から350万ドルもの資金を集め“今大会期待の星”と騒がれた、カーネギー・メロン大学だ。ロボット工学の権威、ウィリアムL.ホイッテカー氏をリーダーに、ハマーの改造車で今大会最高の7.4マイル走破を記録した。

 142マイルには遠く及ばないが、「毎日少しずつスピードを上げていくだけさ」と気長に構えるホイテッカー氏。次回大会は1年後。いつかはライト兄弟のようなスターが生まれるのだろうか?(市村佐登美)
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