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シリコンバレーの就職難はインドのせい?

2003/06/09 19:23

週刊BCN 2003年06月09日vol.993掲載

 英語ができる優秀な技術者がインドからシリコンバレーに流れ込んだのは90年代の話。しかし今はこの辺りも高失業率(8.3%)で帰国も増えた。ところが米国で仕事が減った分、低賃金で質の高い人材が雇えるインドでは海外からの下請け需要に支えられて逆に仕事は増えており、空洞化を懸念する声も出てきた。

ITサービスの空洞化進む

 製品サポートでも伝票確認でもいい。アメリカのフリーダイヤルは、相手が同じ国内という保証がない。9000マイル離れたインドから英語を操っている場合もあり、これに限らず不景気の今は「人件費が浮くなら賃金の安い国に回すのが一番」という考え方が盛ん。

 コールセンター、CRM(顧客情報管理)など財務、経理、人事の社内業務を外注に回すことを「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」というが、インドは“BPO現象の中核国”、“世界のセクレタリー国家”と呼ばれる。給与水準は米国の2-3割程度。月6万も払えば経験2年の立派なソフトウェア・エンジニアが雇えてしまう。BPOにかかるコストは米国の3分の1から半分。雇用流出は当然の成り行きにも思える。

 今やフォーチュン上位500社の少なくとも4社に1社はインドにバックオフィスを移転済みか移転予定という。フォレスターリサーチが今年発表した調査によると、米国から印露中などの低賃金国にシフトするサービス部門就労数は2015年までに3300万人、賃金に換算すると1360億ドル相当だ。まさに「サービスの空洞化」で、その影響を最も強く被るのがIT産業とされる。

 現地法人拡大では、オラクルが年内に1500人をインド国内で新規採用予定で、インテルは来年末までに同国内の従業員を倍増する。困るのは米国内の失業者と行政で、中には「アメリカ人を切ってインド人ばかり優遇するのは不当」と元雇用主のサン・マイクロシステムズを訴えるケースも出てきた。また、コールセンターについては海外発注を禁じる法案を検討する州もある。

 そんな反発を尻目にインドのソフトウェアサービス部門は成長を続けており、今年3月までの1年間で雇用人口は25%近く増えて65万人に達した。

 もちろん悪影響もある。参加ランナーが増えればそれだけ、競争は激しくなる。ましてや現地の平均給与に3割も上乗せするかたちで海外からビッグブランドが続々と乗り込んでくるのだ。現地企業もある程度は賃金を上げてやらないと良い人材が残らない。この悪循環で、ソフトウェア商社の国内最大手インフォシスは今年中に利益成長率が3分の2に落ち込むと発表し、業界に波紋を呼んだ。

「僕の里帰りでもあちこちの企業から誘われたよ。親父が一生見たこともないような高給でね」とその人材争奪ぶりを語るのはインド人博士の友人U。「でも、進み過ぎてても使えないだろ?僕はインドで王様のように暮らすより今の暮らしがいいな」という。(市村佐登美)
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