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使った分だけ支払うオン・デマンドの時代

2002/11/25 16:36

週刊BCN 2002年11月25日vol.967掲載

IBMの大胆な賭け

 IBMのサミュエル・パルミザーノCEOは、会長就任決定後初の演説で“オン・デマンド・コンピューティング”を柱とする今後数年間の新戦略を打ち出した。投資総額100億ドルはIT業界最大。コンピュータが水道や電気のように使える未来図は、果たして新会長の思惑通り実現するのだろうか。

 「確かに大胆な賭けだ。だが、リスキーとは思わない」

 新会長サミュエル・パルミザーノ氏は約200人の顧客とアナリストを前にこう語った。

 使いたい時に使いたいサービスを選び、使った分だけ課金するオン・デマンド・コンピューティングは、コンピュータ設備とネットワーク、ソフトウェアの一括アウトソーシングのことだ。コンピュータをあたかも「水道や電気のように」扱うことから、またの名をユーティリティ・コンピューティングという。

 新会長が就任決定後初めて行うスピーチは関心を集めたが、オン・デマンド時代の到来を予測する企業は何もIBMだけではない。ヒューレット・パッカード(HP)、コンパック、サン、マイクロソフトなど競合相手はどこも取り組んでいるし、言葉の起源は数年前に遡る。HPの担当幹部が言うように、今さらオン・デマンドそのものに「新味はない」のである。

 ただ100億ドルの投資額は業界内でも最大なうえ、主要各紙に同時掲載した8ページもの全面広告は否が応でも目をひく。

 97年から年間5億ドルの広告費を投じてeビジネス事業に法人顧客を引きつけたと同じ手法で、IBMは今度もタイムマシーンをモチーフにオン・デマンドの用途と具体的な未来像を示してきたのだから侮れない。

 オン・デマンドの利点はコスト、柔軟性、スピード。例えば新製品開発時にはスーパーコンピュータ並みの技術が必要な企業も、終わればその必要はなくなるわけで、単純に言ってしまえばこうした事業の流れに合わせてコンピュータ環境を伸縮できる点にある。

 実現の第一歩としてIBMは、顧客が事業案や新製品をテストできるデザインセンターを日米はじめ世界4か所に開設する予定だ。

 さて新機軸に邁進したいパルミザーノ氏は1973年入社の生え抜きの営業マン。業界では技術通としても知られる。Linux採用などIBM内で数多くの事業を進めた中心人物で、今年3月CEOに就任後は米大手会計事務所プライスウォーターハウス・クーパーズのコンサルティング事業を35億ドルで買収し、コンピュータ・コンサルティング市場での優位を固めた。

 IT不況下の発動には悲観論もつきまとうが、「企業は技術によるコスト削減に期待している」と氏はあくまでも前向き。オン・デマンドでIBMはガースナー前会長の古巣のアメリカン・エクスプレス社と今年2月、向こう7年間で40億ドルの大型委託契約を結んだ。この提携でア社は数億ドルのコスト削減を見込んでいるといい、数少ない応用例として成果が待たれる。(市村佐登美)
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