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みんなが情報を共有できる世界に

サイボウズ 代表取締役社長

青野慶久

取材・文/藤岡堯 撮影/馬場磨貴

2024/08/12 09:00

青野慶久

週刊BCN 2024年08月12日vol.2026掲載

 サイボウズは次のステップを踏み出した。ノーコードによるアプリケーション作成ツール「kintone」を軸に現場起点の業務改善を支援してきた中で、新たにエンタープライズ企業や全社への導入促進に向けた施策を打ち出し、顧客規模の拡大へかじを切った。青野慶久社長は「みんなで情報共有ができる世界を目指す」と語り、その基盤としてのkintoneの価値を訴求したいと意欲を見せる。
(取材・文/藤岡 堯  写真/馬場磨貴)

今の売り方は「不本意」

──kintoneのさらなる成長に向け、エンタープライズ企業や大規模導入向けのパートナー認証制度や、最小契約数1000ユーザー以上の顧客を対象とする「ワイドコース」を設けました。狙いをお聞きします。

 kintoneは発売から13年が過ぎ、契約社数が3万5000社を超えました。テレビCMの効果もあり、裾野はさらに広がっていますが、そこからどう育てていくかが悩みとしてあります。現在、部門導入にとどまっているお客様が多く、いかに全社的な情報共有プラットフォームにしていくかという方向へシフトしていかなければなりません。そうしなければ、お客様の側としても、一部では便利だけど、全体ではあまり利便性を感じられません。

 ワイドコースもブランドづくりが目的で、全社で導入するメリットを示しています。スタンダードコースでは、開発できるアプリの上限は1000までとなっていますが、1000人、2000人、3000人という規模で導入し、アプリが数千ほしいとなった場合はワイドコースのライセンスでカバーできます。

──2023年12月期の決算説明会では、ARR(年間経常収益)の成長率が低下傾向にあり、その要因をkintoneが部門導入にとどまっていることによる単価低迷にあるとしていました。認証制度やコースはその対策となるのでしょうか。

 ARRの問題も確かにあります。ただ、本質的にkintoneは部門向けの製品ではないのです。僕たちはグループウェアの会社であり、全社で情報共有するとなったときに、ノーコードでアプリをつくれる製品としてkintoneがあります。営業でも総務でも開発でもアプリを使えて、みんなで情報を共有できる。そういう世界を目標につくりました。

 ですので、今の売り方というのは、僕たちにとっては不本意な面があるので、(部門導入は)取っ掛かりでしかないことを改めてはっきりさせたいです。売れているから、皆さんが便利って言ってくれるから、と満足してはだめだと、これは序の口だよと伝えたい。やはり、既存のお客様の利用を深めて、広めていくことにリソースをシフトしたい。今回の認証はそのきっかけの一つです。

──全社導入のソリューションになるということは、他社の業務系SaaSと真っ向からぶつかることになりませんか。

 業務に特化したSaaSを否定するつもりは全くありません。そのいいところをkintoneと組み合わせていただきたい。例えば、営業のSaaSに良い機能があれば、営業部門の人にはそれを使っていただき、一方で、情報が営業部門だけに閉じていてはもったいないので、データはkintoneに連携させて、開発や総務の人も把握できるようにする。こんな使い方をしてもらえたらと考えています。

 僕たちは競合するというよりは、プラットフォームになりたい。kintoneは、全社で広く、どの部門の人とも情報共有できるグループウェア基盤としての役割を果たします。個別に使っているSaaSをどんどんつなげて、必要であればそのデータでアプリをつくってもらい、さらに業務を効率化していただく。仮に「DX基盤」という言葉あるとするならば、僕たちはそれを目指しているのかもしれません。

──24年11月にはクラウドサービスの価格体系の改定を控えています。額面上では値上げとなり、kintoneなどで最小契約ユーザー数を引き上げます。

 ここ10年ぐらいは価格を変えていませんでしたが、賃金や電力費用のこともあり、僕らなりに粘ってはいたんですが、時代に合わせないといけなくなりました。もちろん、いただいた分はプラスアルファでお返しをしなければ申し訳ないので、さらに開発や運用などに投資していきます。

 最小契約数については「中小企業を見捨てるのか」といった反応もありますが、そうではありません。僕たちも悩んだところですが、kintoneはグループウェアなので、(引き上げ前の)5ユーザーで閉じてしまったらもったいないんです。全社で、もっと言えば社外の人も巻き込んで情報共有するように使っていただきたいとの思いもくみ取っていただければと考えます。

 中小企業の皆さんも、企業を超えて情報を共有していただいたほうがいいと思うんです。仕事は自社だけで完結せず、連携して動いていますよね。せっかくのクラウドなんだからつないでいこう。こういう動きにしないと、日本全体で見たときに、一部の企業だけが便利になって、全体では効率化されないなんてことが起きかねません。
この記事の続き >>
  • AIでkintoneを強化
  • 顧客の横に立つのはパートナー

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サイボウズ=https://cybozu.co.jp/