“防御中心”を全面的に見直し
――丸岡社長がトップに就任されるのと前後して、NTTコムのサービスで不正アクセスによる情報流出事案が起こっています。
法人顧客の工事情報などが流出した可能性があり、あってはならないことで、痛恨の極みです。海外拠点を含む複数の拠点を経由した「なりすまし攻撃」でした。発覚後すぐに発表しましたが、その後、不正アクセスの全体像をつかむまで1カ月を要してしまったことも大きな問題だと認識しています。今も一部法人顧客には継続して対応中で、ネットワークを本業としている当社にとって大変恥ずべきことです。
従来の防御中心のやり方では、今回のように一旦内部に侵入されてしまうと簡単に被害が出てしまいます。今後は攻撃者の振る舞いから侵入をより早期に検知し、被害が拡大しない仕組みを導入したり、ゼロトラストネットワークの考え方を積極的に採用する方針です。防御、検知、対処のスピードを格段に高めるなど今回の教訓を生かすとともに、リモートワークやクラウドネイティブの利便性、生産性を損なわない仕組みを追求していきます。
――海外事業を担当する英国NTTリミテッドとの連携はどうですか。
ご存じの通り、19年7月のグループ再編で、グローバル中間持ち株会社の下に国内事業を担う当社と海外事業を担う英NTTリミテッドがぶら下がる体制となりました。当社はネットワークやクラウド基盤などを提供することで国内に本社を置く日系企業の海外ビジネスも支えていますが、実際問題として海外でのサポートにはNTTリミテッドの力が不可欠です。ましてや、当社の注力分野の一つでもある複数の企業が参加するサプライチェーン全体を海外も含めて支えていくとなると、連携の度合いをより一段と高めていく必要があります。
NTTリミテッド発足以来、当社役員はもちろん各部門の担当者レベルに至るまで密接に連携しており、すでに成果を上げています。SDPFに代表されるように、当社には商品開発力があり、NTTリミテッドはグローバル規模での営業力やサポート力があります。日本で開発したサービスをNTTリミテッドが海外で展開する。海外顧客の声を国内に戻してより良いサービス開発につなげる好循環をつくり、NTTグループ全体の海外ビジネスの拡大につなげていきます。
Favorite
Goods
元プロ野球選手のイチロー氏のサイン入りボール。NTT民営化20周年のお祝いとしてもらったボールを今でも大切にしている。イチロー氏にはNTTグループのイメージキャラクターになってもらうなど「思い入れがある」存在だという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「日本発、グローバル着」のビジネスを増やす
1990年代後半、NTTコミュニケーションズ発足に向けた大詰めの準備が進むころ、丸岡社長はNTTの経営企画を担う部門に在籍していた。NTT法の規制対象となる既存事業とは距離を置いて、「自由な発想でビジネスができる新会社、NTTコムが生まれた」と、当時を振り返る。
その後、2011年に営業本部長としてNTTコムに着任。新しいビジネスの中でも、とりわけ海外ビジネスは「自由度や伸びしろが大きく『日本発、グローバル着』のサービスを一段と増やしていきたい」と考えるようになる。旧ディメンションデータを母体とし、海外事業を担うNTTリミテッドが昨年7月に英国で設立され、NTTコムとは横並びの兄弟会社となった。環境は整った。「“One NTT”として、NTTコムの技術や商材をNTTリミテッドを通じて世界中の顧客に使ってもらいたい」と話す。
長引くコロナ禍の中、「デジタルをもっと活用しようという意識が世界規模で高まっている」とも。ネットワーク層からアプリケーション層に至るまで抜本的な見直しが進む気運がある。自由な発想で新しいビジネスを立ち上げることを志向するNTTコムの真骨頂を発揮できるか。
プロフィール
丸岡 亨
(まるおか とおる)
1958年、熊本県生まれ。82年、九州大学法学部卒業。同年、日本電信電話公社(NTT)入社。93年、企画室担当課長。2001年、米国マサチューセッツ工科大学留学。02年、第一部門担当部長。07年、経営企画部門広報室長。11年、NTTコミュニケーションズ第一営業本部長。12年、取締役ボイス&ビデオコミュニケーションサービス部長。15年、常務取締役。18年、代表取締役副社長。20年6月19日、代表取締役社長就任。
会社紹介
NTTコミュニケーションズは、長距離電話やインターネット接続「OCN」のサービスを手がけるとともに、近年ではデータセンターやクラウド基盤を活用したビジネスを伸ばしている。中でも企業活動や社会全体のデータ活用基盤として開発した「Smart Data Platform(SDPF)」は同社の成長エンジンとして期待されている。グループ従業員数は1万1500人。