企業が一方的に自社製品・サービスの価値を訴求する時代は終わり、ビジネスが顧客起点で駆動される「顧客の時代」を迎えたと言われ、B2C企業はもちろん、B2B企業も、顧客接点となるコンタクトセンターをより重要視するようになっている。この領域で勢いを増しているのが、クラウド型コンタクトセンターの米インタラクティブ・インテリジェンスを買収した、米ジェネシスだ。日本法人の細井洋一社長は、いよいよ国内にも押し寄せたDXの波が、同社のビジネスには大きな追い風になっていると話す。
クラウド/オンプレに
ニーズは二極化
――インタラクティブ・インテリジェンスの買収が、業績に良い影響を与えているとお聞きしています。
両社の売上高が合計されるのは当然ですが、実際にはそれ以上になり、補完関係であるだけでなく相乗効果を出せていると考えています。日本は、欧米や他のアジア太平洋諸国に比べると、コンタクトセンターの応対チャネルに占める電話の比率が大きかったのですが、いまチャットが一気に増えてきている。その意味では、買収したクラウド型の「PureCloud」も、従来からのプラットフォームである「PureEngage」も、オムニチャネルに対応していますから、日本のお客様が今どんなソリューションを求めているかという動きと、うまくマッチしたのだと思います。2017年、18年と業績は伸びていますが、その分、本社から期待が高くて大変ですけどね。「東京五輪もあるんだから、もっと大きい数字を持て」と(笑)。
――特に顕著な伸びを示しているのは、やはりクラウド型でしょうか。
PureCloudには勢いがありますね。販売が伸びているというだけでなく、クラウド型なので実装のスピードが非常に速い。長くても1~2カ月、短ければ2週間で導入完了です。クラウド型は中小のお客様に最適とみられることが多いのですが、実際には、大規模な案件も多数あります。繁閑の差に対応できるクラウド派と、顧客データは社外には出せないというオンプレミス派とで、市場のニーズは二極化しています。両方のニーズにお応えできるベンダーは、当社含めわずかだと思います。
――競合他社や大手クラウド事業者も、クラウド型コールセンターには力を入れています。何が差別化要素になりますか。
当社は単にコンタクトセンターのシステムではなく、カスタマーエクスペリエンス(CX)のプラットフォームを提供するベンダーになるという方向性を明確に示しており、そのための研究開発に年間250億円以上を投資しています。オムニチャネルにしても、AIの導入にしても、「言うは易し、行うは難し」の世界であり、投資をしていないとすぐにはできません。また、各社からクラウド型コンタクトセンターは提案されていますが、まだ機能に特化した競争が起きている段階だとみています。我々は機能を提供するだけでなく、CXに取り組んでいる点に強みがあると考えています。
「お待たせしない」が
最適解とは限らない
――しかし「コールセンターはコストセンターではなくプロフィットセンターだ」とか、「これからは顧客の時代。B2B企業もCXが重要だ」とか、そのようなスローガンは今に始まったものではないですよね。
これは私の持論ですが、海外ならば、コンタクトセンターの管理者は「これ以上仕事を増やすなら、もっと投資してくれ」とすぐに経営層に訴えるのに対し、日本の管理者の方々はみなさん非常に優秀なんですよ。忙しくなっても、現場でいろいろ工夫してなんとか仕事を回してしまう。もう一つ、ご存じの通り、日本のシステムエンジニアはユーザー企業ではなくSIerに偏っており、日々の業務に忙しいユーザー企業は新しい技術の導入を発案しにくい。このため、CXが大事とは分かっていても、新しいソリューションの普及は欧米に遅れをとっていたのではないでしょうか。
しかし、労働力市場が“売り手市場”になり、人材の獲得がいよいよ厳しくなってきた。そして、若年層には電話に出ないという人も増えている。東京五輪を前に海外からの観光客も増えており、「どうして日本は何でも電話なんだ。全然つながらないぞ」という声も寄せられるでしょう。旧来の労働集約産業から脱却しなければいけないと考えているコンタクトセンターは増えており、チャットボットの活用や、AIの導入は当然の動きになっていくと考えています。
――AIに関してはどのような戦略をお持ちですか。
我々の戦略は「ブレンデッドAI」です。コンタクトセンターに必要なAIを一社で全てまかなうことはできません。IBMのWatson、セールスフォースのEinstein、グーグル・クラウドのAIエンジン、そして日本語対応に強いローカルのテクノロジーもある。お客様が使いたいAIと連携できるCXプラットフォームを当社は提供します。
加えて、当社は顧客サービスに特化した「ケイト」と呼ぶAIを開発しており、過去のやりとりやオペレーターのプロファイルをモデル化し、それに基づくルーティングを行うことができます。例えば「解約を防止したい」という事業目標を設定しておくと、解約の申し込みと思われるコールがきたら、唯々諾々と解約に応じてしまう新人オペレーターではなく、「恐れ入ります、何かご迷惑をおかけいたしましたか」と話を聞けるベテランに電話をつなぎます。
もっと言うと、これまでのコンタクトセンターはとにかく「お待たせしない」ことを優先していたのが、ケイトなら「少しお待たせしたとしても、このお客様はこのオペレーターにつないだほうが解約率低下につながる可能性がある」という判断ができる。AIの導入によって、コンタクトセンターにおけるKPIの考え方すら変わってくるんです。
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