NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)のRPAツール「WinActor(ウィンアクター)」が、納入社数で3000社を突破した。「数年前は鳴かず飛ばずだった」というWinActorだが、人手不足対策や働き方改革への取り組みが追い風となり、ここ2年ほどで販売に火がついた格好だ。NTT-ATは次の一手として、深層学習や自然言語処理などのAI(人工知能)技術と組み合わせた「インテリジェント・プロセス・オートメーション(IPA)」に注力。これにブロックチェーンや情報セキュリティの技術を加えることで、業務プロセス全体のデジタライゼーションビジネスにつなげていく考えだ。
現場フレンドリーなRPA
――WinActorの累計納入社数が、3000社を超えたそうですね。
おかげさまで、2018年4月に累計納入社数1000社、10月に2000社、今年3月末までに3000社とうなぎ登りです。
実のところ、当初は鳴かず飛ばずでした。WinActorはNTT研究所の技術をベースに14年から当社で商品化を手掛けてきましたが、業務自動化や省力化の話をユーザー企業の経営者に持ちかけると、だいたい渋い顔をするのです。日本の経営者の多くは、今の雇用を維持できなくなることを嫌う。いくら「RPAが自動化できるのはパソコンの単純作業に限る」と説明しても、その単純作業で雇用が維持されている部分があるからだと思います。
潮目が変わったのは、人手不足がいよいよ深刻になったのと、国が推進する働き方改革が浸透し始めて以降です。単純作業はソフトウェアロボットにやらせて、人間はもっと大きな価値を創造できる仕事をしたり、残業を抑制したり、それによって子育て中の女性も働きやすくしたりと、考え方が大きく変わったタイミングでWinActorの販売に火がつきました。
――RPA市場が急成長したことから、国内外のRPAベンダーがしのぎを削っている状況です。パソコン1台から使えるお手軽なRPAから、企業の業務プロセス全体をRPAに適した形に変えるアプローチなど、さまざまですが、どう見ておられますか。
RPAに対しては、いろいろな捉え方があっていいと思います。WinActorのコンセプトは、ユーザー企業の現場で役立つ“現場フレンドリー”なのですね。現場の人が市販の表計算ソフトでマクロを組んでやっているような作業を、WinActorが覚えて代わりにやってくれる。作業内容が変わったら、その都度、自動化シナリオを変えて対応できる。
もちろん、業務効率化のために既存の業務フローを大きく変えるのも方法の一つですが、それではお金と時間がかかってしまいます。現場の人が助かるツールとしてのRPA需要も存在するし、こうした需要に的確に応えられるWinActor単体の良さも大切にしていきます。
――海外RPAベンダーは世界展開を急ピッチで進めていますが、NTT-ATではどうですか。
当社では、NTTグループの一連の海外事業の再編と強化に歩調を合わせる形で、WinActorの海外展開を進めていきます。NTTデータやディメンション・データは、欧州に有力な販路を持っていますし、中国やASEANにも多くの事業会社が進出しています。WinActorは、すでに英語や中国語といった外国語にも対応しています。
AIとの融合でRPAをIPAへ
――RPA市場が急拡大したことで、新たなニーズも出てきていると思います。RPAは今後、どのような方向に向かうとお考えですか。
当社では、深層学習や自然言語処理といったNTT研究所が強みとする技術とWinActorを組み合わせ、RPAをインテリジェント・プロセス・オートメーション(IPA)へと発展させ、国内外で競争力を高めていくことを視野に入れています。会社組織としても、AI・ロボティクスを担当する部門を、この4月に「事業本部」へと昇格させました。
――IPAへの発展が、ユーザー企業にどのような変化をもたらすのでしょうか。
コンタクトセンターなど顧客からの問い合わせに応える「問い合わせ業務」を例に挙げますと、自然言語処理と知識データベースによる支援でオペレーターの負荷を軽減できます。また、問い合わせで発生した顧客からの申請を基幹業務に入力する定型業務は、WinActorで自動化します。基幹業務に反映された内容を承認して実行する部分については、ブロックチェーンによる分散管理台帳の技術を使い、誰が、いつ、どのような承認をしたのかの“証跡”がしっかり残るような仕組みを構想中です。こうした一連の業務プロセス全体を“IPA化”していきます。
――RPAによる「定型業務の自動化」に、AIやブロックチェーンを組み合わせ、業務プロセス全体の効率化へと適用範囲を広げていくということですね。
問い合わせという非定型の業務から、基幹業務への入力という定型業務までの自動化を推進し、さらには証跡をしっかり残すことでコンプライアンス対策を強化できます。一連の業務プロセスから「紙と判子と蛍光ペン」を無くして、デジタライゼーションを推進することを旗印にしています。
――WinActorの販売チャネルについて教えてください。
当初は一部直販も手掛けていたのですが、今は間接販売に完全に切り替えています。NTTグループだけでなく、広く一般のSIerにも多く取り扱っていただいています。
WinActorは毎年ライセンスを更新していただく課金方式です。この更新率の高さが、すなわち評価の高さ、満足度の高さになります。納品して終わりではなく、業務自動化による成果が確実に出るように、ビジネスパートナーにはしっかりサポートをお願いするとともに、力を合わせて更新率100%を目指していきます。
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