利益増の先に未来が待っている
――IBMトップセラー時代、一時は年商1000億円も射程内に入っていました。それにもかかわらず、利益重視へと方向転換すると決めて、社内の心理的な抵抗も大きかったのではないでしょうか。
IBM自体もクラウドにシフトするなど、大きく変わりました。そうした中で、従来型の販社モデルやウォーターフォール型をメインとするSIが立ち行かなくなるのは明らかです。どうせ変わるなら早く変わろうと決めました。
アジャイル専門組織を立ち上げるときは、現場が「じゃあ、まずは10人から……」と言ってきたので、私は即座に「50人から始めよう」と指示。そんなやりとりの中から私を含む経営陣の本気度が現場に伝わり、前述の大手学習塾の案件をはじめ数多くの案件獲得につながっていきます。その後のアジャイル部門の人数は、あっという間に当初の何倍もの規模に成長しました。
――クラウドネイティブについては、どのような取り組みになりますか。
あるカーディーラーでは、車検の見積もりを2時間くらいかけてやっていたのですね。ワイパーやオイル、ブレーキパッドなど、消耗品の状態を写真に撮って、見積書に貼り付けるなどして、顧客であるドライバーに分かりやすいよう丁寧につくっていました。その見積書をつくる専用業務アプリをサイボウズの「kintone(キントーン)」上に200万円くらいでつくったところ、わずか10分ほどで処理できるようになりました。kintoneは、クラウドネイティブの業務改善プラットフォームだけあり、こうした日々の業務を改善する能力に長けています。
――クラウドネイティブのアプローチとアジャイル開発との相性はよさそうですが、やはり売上規模の小ささが気になります。
どの会社でも複数の現場部門がありますから、一つ一つの案件が小振りとはいえ、1社から複数案件を獲得できる可能性が高いのです。カーディーラーの件も旧AS/400時代から当社顧客ですが、クラウドネイティブのアプローチで現場に出向いたことがアップセルにつながった好事例です。
基幹業務は優先順位で小分けし、アジャイル開発によって迅速、的確に投資対効果を手にしていただく。そして現場部門にも出向いてクラウドネイティブの手法で生産性をぐんと上げてもらう。当社の営業やSEにとっては顧客内接点の拡大につながりますし、IT投資の範囲が広がることは、顧客の現場の方々の働き方改革や人手不足の解消にも役立ちます。
一時的に当社の売り上げが下がっても、利益額は着実に増えてきており、利益増の先には再び売上増のアップトレンドが待っていると確信しています。
Favorite Goods
銀座・天賞堂で購入したスイス時計「ゼニス」。天賞堂から新作案内が届くと「妻と一緒に買いに行く」とのこと。購買履歴を踏まえた接客がしっかりしている点がお気に入り。これまで「高級車一台分は購入していて、うち8割以上が妻向け」という愛妻家だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
土俵を変えて再びリーダーになる
JBCCの一連のビジネスモデル変革において、最も苦労したのは「全社社員の意識改革」だった。長年IBM製品のトップセラーだったJBCCは、どうしても売上金額や受注高に意識が向かいがち。それをアジャイルで小型プロジェクトを回したり、単価の小さいクラウドネイティブな案件をこなしたりできるように、利益重視型へと切り替えた。
まず、これまで売り上げや受注高で評価していた基準を「受注残」に変更。同時に、サイボウズの「kintone」などを使って、ユーザー企業の生産性向上や働き方改革に結びつけた件数を高く評価するという基準も取り入れた。
受注残は、多すぎても少なすぎてもダメな難しい基準。そこで、基幹業務を受注するにしても受注残を抱え込まないよう、案件を小分けにして、アジャイルを応用して早く本稼働へと導くことを評価の基準とした。また、ユーザー企業の現場部門の業務改革を通じて、JBCC自身の業務改革の意識も高めてきた。
トップセラーの看板は一旦引っ込めることになったが、「土俵を変えて新しいビジネスモデルのリーダーになる」と、成長に強い意欲を示す。
プロフィール
東上征司
(ひがしうえ せいじ)
1958年、大阪府生まれ。82年、名古屋工業大学工学部卒業。同年日本IBM入社。2006年、執行役員金融事業担当。07年、専務執行役員金融事業担当。09年、取締役専務執行役員。12年、JBCC代表取締役社長(現任)。19年4月1日、JBCCホールディングス代表取締役社長に就任(JBCC代表取締役社長と兼務)
会社紹介
JBCCホールディングスの2019年3月期の連結売上高は前年度比9.2%減の573億円、営業利益は同19.1%増の24億円の見込み。達成できれば5期連続の営業増益となる。21年3月期までの中期経営計画では、七つの重点項目を掲げて連結売上高600億円、営業利益27億円を目標にしている。