アクセルとブレーキの使い分けがカギ
──販売チャネルについてお聞きしたいのですが。間接販売の比率はどのくらいでしょうか。
非常に優秀な販売パートナーに恵まれたこともあり、パートナー経由での販売は全体の6割ほどに達しています。その他の4割のうち2割が日立グループによる販売、2割が直販です。「PhishWall」は、金融機関を顧客に持つ大手SIerが多く、「GRED Web改ざんチェック」は、販売パートナーに加えて、自社製品やサービスにOEM方式で組み込んでくれているOEMパートナーも多いですね。
──青山社長ご自身のこれまでのキャリアでは、セキュリティとはどのような関わりがあったのでしょうか。
私が日立製作所に入社した1980年代のことですが、配属された先が電話交換機やPBX(構内交換機)の設計をしていた部署でした。当時はシャープペンでゴリゴリと交換機の電気回路図を書いて、これをCADのオペレータさんに渡して設計図を制作してもらっていましたね。後半になると、さすがに自分でパソコンを使って設計していましたが、そうした時代からネットワークに関わってきたこともあって、その後は長くネットワークのSEの仕事をさせてもらいました。
セキュリティについてですが、日立では伝統的にネットワークのSEがまず担当することが多かったのです。このためセキュリティ領域もSEとして多く関わってきた経緯があります。
──確かに、インターネットが登場して以降は、セキュリティが大きな社会問題となってクローズアップされることが増えました。
それだけネットワークとセキュリティは切っても切れない関係にあるということです。ファイアウォールなどのセキュリティ装置は、怪しい動きを検知したら基本的に通信を遮断するといった安全面に振りますよね。ところが、ネットワークは通信を維持する方向に動くことがあります。
日立は社会インフラを担うことが多いので、安易に通信を遮断してしまうと、逆に被害を拡大することにもつながりかねません。セキュリティ装置がブレーキだとしたら、ネットワーク装置はアクセルの関係となり、このブレーキとアクセルをうまく使い分けることが、社会インフラの維持に欠かせないことなのです。冒頭にお話しした日立システムズグループの総合力のなかには、アクセルとブレーキを使い分け、被害を最小限に食い止めていくことも含まれています。
もちろん、製品自体の機能も強化していかなければなりません。ソフトウェアの自動化によって防げるところは、極力、自動化をしていく。その上で防ぎきれない最後の部分は、SOCを中心とする人による対処を行う。自社製品の機能強化を継続していくとともに、日立システムズグループのサービスや人的リソースを組み合わせることで、より一段のレベルアップを目指していきます。
海外からの輸入商材が多いセキュリティ分野で、国産ソフトベンダーが
ここまでシェアを伸ばしてこられたことに誇りを覚える。
<“KEY PERSON”の愛用品>強い筆圧でゴリゴリと書くのが心地よい
社会人になったときに手帳を持つようになって今年で36冊目。見開きの左側はスケジュール、右側はメモや備忘録として使っている。「HBの薄めのシャープペンで、力を入れてゴリゴリと書き込んでいくのが心地よい」と、お気に入りの様子である。
眼光紙背 ~取材を終えて~
青山社長が経営トップに就任して、まず感じたのが、「最先端の技術開発にスピード感をもって臨んでいること」だ。フィッシング詐欺やウェブの不正改ざんなどの特定の領域で突っ込んだ研究を行う姿勢は、「これからも大切にしていきたい」と話す。
長らくネットワークSEとしてキャリアを積んできた青山社長は、「どんなセキュリティ対策も完全ではないし、社会インフラをはじめ脅威にさらされたとしてもシステムを止めることが許されない領域もある」とも言う。そして、最後に脅威と対峙するのは“人”であるとも。
セキュアブレインの優れた技術開発力と、日立システムズグループとしてのセキュリティ人員の動員力の両方を、「バランスよく駆使できることが強みにつながる」と青山社長は考えている。
尖った技術と、クループの総合力の両方を駆使して、日本発のセキュリティビジネスを一段と伸ばしていく。(寶)
プロフィール
青山健一
(あおやま けんいち)
1958年、神奈川県生まれ。82年、東京大学工学部電子工学科卒業。同年、日立製作所入社。2001年、ネットワークプラットフォーム事業部企画部部長。14年、情報・通信システム社通信ネットワーク事業部事業部長。16年、日立システムズパワーサービス執行役員。18年4月1日、セキュアブレイン代表取締役社長兼CEOに就任。
会社紹介
元シマンテック社長の成田明彦氏が2004年に創業したのがセキュアブレインである。金融機関向けの不正送金・フィッシング詐欺対策ソフト「PhishWall」や、ウェブサイトの不正改ざんを検知する「GRED(グレッド)Web改ざんチェック」などのヒット商材を世に送り出してきた。14年に日立システムズグループに迎え入れられた。