エンバカデロ・テクノロジーズは、業務アプリケーション開発などに強い「Delphi」、組み込みソフトや機械制御などで広く使われてきた「C++Builder」といった歴史ある有力ソフト開発ツールを擁する老舗ベンダーだ。既存アプリケーション資産のモダナイゼーション需要をさらなる成長のチャンスと捉え、日本市場でも拡販のための環境づくりを進める。藤井等・日本法人代表に、いまだからこそエンバカデロが市場に提供できる価値を問う。
“難しい”こともできる“簡単”なツール
──エンバカデロ・テクノロジーズ(以下、エンバカデロ)の主力である「Delphi」や「C++Builder」は有力開発ツールとして長い歴史がありますよね。まずは国内でのビジネスの状況をおさらいさせてください。
もともとDelphiやC++Builderを手がけていたボーランドの開発部門をエンバカデロが買収したタイミングで日本法人を設立しまして、今年の10月でもう10年が経ちます。ただ、それ以前にボーランドは開発ツールのビジネスを1983年から始めていて、ボーランド日本法人も80年代にはできていましたから、10年、20年と長期間にわたって当社製品を使っていただいているお客様が多くいらっしゃいます。累計すると日本には10万人くらいのお客様がいらっしゃいますが、現在アクティブなのはそのなかの2~3万人というところでしょうか。
──それでもかなりの規模ですね。ユーザー企業のIT部門などがコアターゲットですか?
主要なお客様ではありますが、実はもっと幅広いんですよ。個人のお客様、ソフト開発会社、そしてパッケージアプリケーションのベンダーさんにもよく使っていただいています。
──ユーザーの幅が広いとニーズも幅広くなりますね。
われわれの製品の特徴はビジュアル開発ができるというところです。入口が非常にやさしいんですね。ソフト開発を専門にしている方でない限り、プログラミングを一生懸命勉強してコードをガシガシ書くというよりは、手軽かつスピーディに求める機能を実装したシステムができたほうがいいわけです。そこで当社のツールを選んでいただくケースはかなり多いです。
ただ、「簡単につくれる」という謳い文句の開発ツールでよくあるのは、ごく簡単なことはできるけど難しいことはできないとか、難しいことをやろうとすると急に大変になってしまうというパターンです。われわれのツールは、簡単なことは本当に簡単に、難しいこともそれほど大きくない負荷で実現できるというイメージですね。データを表示するだけのアプリケーションなら2~3分でできてしまうんですが、さらにスキルがあれば、例えば衛星の軌道を記録してそれをビジュアライズするようなアプリもそれほど苦労せずにつくることができます。そうした懐の深さというか、幅広いニーズへの対応力が評価されて、エンドユーザーに近いところから専門のソフト開発、科学技術の領域まで、さまざまな現場で広く使っていただいています。
モダナイズのポイントはサイロ化からの解放
──デジタル変革がバズワード化する一方で、足下のレガシーアプリケーションをどうするのかが多くの企業で課題になっています。エンバカデロの古くからのユーザーは、そこに苦労していませんか。
いま流行りのモダナイゼーションに対して現実的な解を出せるのがわれわれのツールの強みです。既存のソフトウェア資産を捨てずに未来に向けたアップデートを支援するというコンセプトですね。
――エンバカデロ自身は技術や市場環境の変遷を十分にキャッチアップできていると思いますか。
例えばDelphiは90年代に登場して、最初はWindowsにかなり依存したガチガチの環境でデスクトップアプリケーションをつくるという感じだったわけです。95年くらいにはそれが必要だったという側面もあるでしょう。その後Javaが登場して、OSに依存しない開発技術をつくってきた経験がエンバカデロにはあります。
アプリケーションのモダナイゼーションの一番のポイントは、サイロ化からいかに解き放ってあげるかということです。事実、最近のソフトウェアの構成は、いろいろなオープン技術につなぐ口を用意して拡張していくやり方に変わってきています。そこに当社の技術を使っていただいて、長い歴史のある変えづらいアプリケーション資産も新しい技術トレンドに対応したかたちで利用できるようにするということです。
プログラム言語についても、プラグイン型の言語機能みたいなものを用意して、従来の機能をそのまま使いつつ新しい機能を追加していくような書き方ができるとか、深いレベルでも積極的な取り組みをやっているんですよ。アプリケーション資産もそうですが、開発スキルも再利用できるのがエンバカデロ製品の強みです。
──エンバカデロが市場に提供しようとしている価値というのは何でしょうか。開発ツールのような商材だと、技術トレンドの変遷とともに変質してくることもありそうですが。
われわれが注力しているのは、ソフトウェアの開発者にいかにクリエイティビティを発揮してもらうかという点で、それは30年以上前からまったく変わっていません。
プログラマに対するイメージというのは、大きく二つあると思うんです。一つは謎のコードを駆使して普通の人が想像もしないようなすごいものをつくるクリエイターというもの。そしてもう一つは、工業生産的、労働集約的な苦役をしている人たちというイメージ。私は、プログラマは前者を目指すべきだと思っているんです。エンバカデロのツールを使えば、ボタンを押すと勝手に何かが出来上がるわけじゃありません。労働集約的な部分をできる限り自動化して、ソフト開発をより楽しく、楽な環境でやれるようにすることで開発者を幸せにしたいというのは、エンバカデロの一貫した哲学です。
[次のページ]日本企業も漸次的な開発をやるべき