中堅システムインテグレータ(SIer)の都築電気は、クラウドやIoT市場の拡大に呼応して、業態を変革させている。2017年4月に就任した江森勲社長は、次世代テクノロジーのビジネスを推進する部門横断の「シンギュラリティグループ」を新設するなど、自社ビジネスを拡大すべく改革を断行している。いまや「メーカー系列販社」の色は薄くなった。自前主義からも脱却し、他社と共創するなかで、新たな価値を顧客に提供しようとしている。
資本政策で山が動いた
──都築電気さんに対し週刊BCNは、長年取材を重ねています。そのなかで、最近は会社のイメージが変わったように感じます。
当社は(1932年創業の)非常に歴史のある会社です。これまでは、露出の少ない会社でした。しかし、17年1月からは、資本政策もあって、大きな山が動き出したことで、株価が上昇傾向になりました。そういう意味で、当社の変化を感じ取られていると思います。
──資本政策に取り組まれたのはなぜですか。
こうしたことに手を抜いていたわけではありませんが、今まであまりにも、そのあたりの施策が手薄だったように思います。ただ、デジタル時代になり、1社でやるのではなく、いろいろな企業と共創してやり遂げるビジネスが増えています。3年から5年かけて形にしていく必要性を感じています。その戦略の一環として、17年1月に福岡県飯塚市の麻生グループと、直近では17年10月にコムデザインと次世代AI(人工知能)コンタクトセンター事業で資本業務提携しました。
──こうした動きは、とりもなおさず、「デジタル時代」に入り、変化に対応しなければという危機感からきているのですね。
そうです。当社が行ってきた従来のSI(システムインテグレーション)という領域は右肩上がりではないです。新しい領域に入るには、自社だけでは成り立たないんです。
──変化といえば、中期経営計画(中計、「Make New Value 2020」)を、初めて社外に開示されました。過去と比較できないのですが、どのような意思が込められているのですか。
これからのことをコミットしないといけないと感じ、社外への開示に至りました。今回の3か年(17年4月から20年3月)の中計では、売上高を拡大しようとしていません。どちらかというと「収益構造の転換」をねらっています。規模を求める時代でなく、中身が重要だと考えてのことです。
──中計では重点施策が三つあります。まず、その一つの「コアビジネスの収益向上」について教えてください。
当社が長年やってきたSIとネットワークの領域がコアビジネスになります。当社の強みでもありますので、これはいままで通り推進します。ただ、一般的にこの領域はサービスに転換されています。当社も、クラウドやセキュリティ、運用などの「サービスベンダー」への転換をねらっています。
富士通一辺倒ではない
──SIとはいっても、長年にわたりモノ売り中心のビジネスをしてきた都築電気にとっての「サービス」とは、どんなイメージをもてばいいのでしょうか。
例えば、当社ではネットワーク・インフラは、パソコン(PC)端末などを含め、月額課金制で提供しています。従来は、キッティングなどを別途見積もり請求していましたが、そういった積み上げ方式でなくなっています。この方式にしてからもう5、6年が経ちます。顧客はインフラ費を更新時などに予算化しやすいのです。
──インフラの提供ということでは、富士通系列の販社というイメージがありますよね。
富士通の資本が入っていますので、その部分は変わりませんし、「富士通パートナー」であることは事実です。ただし、こういう時代になりますと、そこだけ一辺倒では成り立ちません。当社は昔からマルチベンダーで複数メーカーの製品を扱っていますが、今後はよりその色が濃くなるでしょう。
──もう一つ、中計の「コアビジネス」の部分として、「電子デバイス事業の変革」を掲げています。この領域は、御社が長年培った経験とノウハウが生きると同時に、成長市場のIoT(Internet of Things)で活躍できるように感じますが。
12年に合併した都築電産で、半導体やセンサなどのデバイスを扱っています。この会社の資産をもとにIoT時代で強みを発揮できると考えています。17年12月には、トヨタ自動車と連携し、リハビリテーション支援ロボット「ウェルウォーク WW-1000」向けにリハビリデータをクラウド上に自動収集・配信を行う「クラウド化ソリューションユニット」の提供を開始しました。さらにその少し前には、「Edgecrossコンソーシアム」への参画をプレス発表しました。
──従来の電子デバイス事業は、それほど収益率が高くないように思いますが、それをどのように変革しますか。
当社は、メーカーの部品供給会社であり、製品供給会社でないため、SIに比べても利益率が低いのです。今後は部品単体の販売ではなく、製品に近い形にパッケージ化して提供します。そのため、SI事業に近い形になっています。これからは“センサ戦争”の時代になりますので、ここで勝ち抜く施策を打っていきます。(前述の)トヨタ自動車との連携では、当社がリハビリ用のロボットそのものはつくりませんが、ロボットからデータを自動収集し配信する機能を構築し担っています。
──中計に戻りますが、重点施策の一つとして、「成長新分野領域への挑戦」も掲げています。
AIやIoTなどに挑戦します。この部分に関しては、2年前に十数人が専任で所属する「シンギュラリティグループ」という新組織を立ち上げました。組織名は、内部で議論がありましたが、まだ「シンギュラリティ」という言葉が世の中に浸透する前でしたので、顧客から多くの質問を受けました。社員から挙がってきたのですが、通り一遍の名称にしたくなかったですし、もっとも斬新だったので決めました。
──シンギュラリティグループからは今後、何が生まれてくるのでしょうか。
テクノロジーの基礎研究をはじめ、さまざまなことに取り組んでいますが、いまは、顔認証を含めた認証系の部分に着手しています。当社がものをつくるわけではなく、海外の認証技術を取り入れ、徐々に国内企業に提案しています。
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