アジア地域で顧客倍増を目指す
──DCや通信ネットワークのビジネスはこれからどう変わるとお考えですか。 将来に向けて、DCユーザーに占めるクラウドプロバイダの比率が一段と高まっていくとみています。DCビジネスは、古くはコロケーション(場所貸し)やハウジング(ラック貸し)から始まったわけですが、これがクラウド中心の利用に変わることで、DCやネットワークのあり方まで変わっていくでしょう。
コロケーションは基本的に長期契約が前提となっていましたが、クラウドは1分単位の従量制で使えます。必要なときに必要なだけITリソースを供給するのがわれわれの仕事となり、これを実現するために柔軟なITインフラやネットワークを一段と充実させていくことが求められています。クラウドの基盤である仮想化技術は当然として、SDN(ソフトウェアによるネットワークの制御)系の技術も積極的に採用。例えば東京にいながらにして、ロンドンやシンガポールのIT/ネットワークのリソースを増やしたり、減らしたり自由にできるのがクラウド時代の前提となっていく。
──アジア太平洋の最大市場の中国には、まだ十分に進出できていない印象を受けるのですが、どうでしょうか。 中国への進出スピードは、これまでは少しゆっくりだったかもしれませんが、来年にも中国でパートナーシップを結ぶ相手を絞り込んでいき、早ければ18年には合弁方式も含めてさまざまなビジネスの可能性を追求していきます。日本や欧州の当社顧客の多くが中国に進出している現状を考えれば、中国市場にはより深く関わっていきたいと考えています。
──中国は規制が厳しくてインターネット系のビジネスは難しい印象です。 そこは郷に入れば郷に従えで、うまく地場のパートナーと組んでいくのがよいでしょう。正直、どこの国でも規制はありますので、そうした規制に対応していくのもグローバルで展開するノウハウであり、強みにもなっていくのです。
長年、このビジネスをしてきて感じているのですが、「人」がもつ課題って、実はけっこう共通した部分が多いのですね。だから、私は「人」の話をよく聞くことをとても重視しています。文化も習慣も違いますので、理解するのに時間がかかることもありますが、少しでも早く理解するには、一人でも多くの人と会い、よく話を聞くことがビジネスの成否を決定づけるのです。規制うんぬんは技術的な問題であり、実のところ本質的ではないのですよ。
──アジア太平洋地域でどのくらいのビジネス目標をイメージしていますか。 向こう数年で、この地域に数百億円単位の投資を予定していますが、一連の取り組みによって直近のアジア太平洋地域の顧客数約2200社を倍増させていきたいですね。

「人」がもつ課題って、実はけっこう共通した部分が多いのですね。
だから、私は「人」の話をよく聞くことをとても重視しています。
<“KEY PERSON”の愛用品>地球儀と羅針盤のカフスボタン 英Coltのカール・グリブナーCEOのお気に入りは、地球儀と羅針盤のかたちをしたカフスボタン。「常にグローバルの視野をもつことと、広い世界でビジネスに迷わないように」と、シンガポールの親しい友人から贈られたものだそうだ。

眼光紙背 ~取材を終えて~
世界規模でDCや通信ネットワークの設備を運営し、かつどこの通信キャリアの傘下でもない中立性を保つマルチキャリアなITインフラサービスベンダーは、実のところ意外に少ない。Coltグループはその一角を占める大手である。類似性が高いベンダーとして米エクイニクスが挙げられることも多い。
大手パブリッククラウドベンダーも、Coltのような国際的なDC/ネットワーク事業者のインフラを積極的に活用しており、クラウドサービスの屋台骨を支えるポジションにある。
Coltグループを率いるグリブナーCEOは、「国や地域を結ぶ接着剤のような役割を担っていく」と、さまざまな国や地域の規制や商慣習の違いをColtが吸収することで、ユーザーは自由にさまざまなサービスを展開したり、利用したりできるようにする。ひいては「人と人をつなげるプラットフォーム」を担っていく考えだ。(寶)
プロフィール
カール・グリブナー
カール・グリブナー(Carl Grivner)
1953年、米ペンシルバニア州生まれ。海兵隊を退役後、IBMに9年間勤める。その後、通信ネットワーク系の業界に転職。長年にわたって欧州やアジア太平洋地域での国際事業に携わってきた。シンガポールの大手通信事業者Pacnet(パックネット)のCEOを経て、2016年1月に英Colt最高経営責任者(CEO)に就任。
会社紹介
Coltグループの直近の売上高は約15億ユーロ(約1700億円)。従業員数は約5000人。顧客数は2万5000社(うちアジア太平洋地域は約2200社)。欧州を中心にアジア太平洋、北米でデータセンター(DC)や通信ネットワークのサービスを展開している。米投資会社フィデリティグループの事業会社。