中小企業向けの丸抱えSIほど儲かる
──SAPそのものが、すでにリッチな大企業向けERPという印象すらあるのですが、本場ドイツではずいぶん違うのですね。 いや、もちろんパッケージとして売るのではなく、SAPが蓄積してきた業務ノウハウに、アイテリジェンスのユーザー企業に対する経営分析能力、どうすれば成功するのかの洞察力、そして最後にシステムの実装、構築力が加わって成せるわざです。
ポイントはユーザー企業の経営を分析する能力の高さにあります。SAPがいくらすぐれた業務ノウハウをパッケージのなかに内包していても、その顧客だけのためにつくったものではないわけですよね。しかし、SIerのプロジェクト担当者にとってみれば、その顧客1社のためだけのプロジェクトであって、ここにSIerとしての価値がある。システムを売って終わりではなく、顧客がシステムを活用することで、これまで得られなかった利益を得て、その利益を折半してもらうところまでがビジネスなのです。
──手離れが悪い日本の中小企業向けのビジネスとはずいぶん違うようです。 コンサルティングの部分を「手離れが悪い」とみるかどうかが、大きな違いです。日本の中小企業向けのSIは、とにかくシステムありきで、売りたい気持ちばかりが先走る印象ですが、本来ならばそうではなく、「システムの活用によって、どれだけ顧客が儲けられるか」の部分にこそSIerとしての価値を置くべきなのです。正直、中小企業が楽に儲けられるほど世の中、甘くはありませんので、失敗することもあるでしょう。でも成功したときのリターンは、大企業のいちパートを担当するよりも大きくなる可能性が高いということです。
欧州にいたとき、ある大手製造業の顧客から、「うちのシステムのどのパートを担当したいのかはっきり教えてほしい」と言われました。つまり、上流のコンサルか、システム設計か、実装の部分なのか、あるいは海外オフショア的なコーディング中心のプログラミングの、どのパートがやりたいのかと──。それぞれのパートで仕事の難易度やリスクが違い、支払う対価も変わるので覚悟しろよということです。もちろんいちばん難易度が低く、リスクも低いコーディングの報酬がいちばん低いわけですけれどね。
──癖のある中小企業のオーナー社長と四つに組んでビジネスを成功させるには、体力が要求されそうです。 だからこそ、技術者はどんどん客先に足を運んで、「この顧客企業がもっと成功するには、どうしたらいいのか」を考えるべきで、むしろそのためのテクノロジーだと思うのです。SIerにとっての技術は、顧客のビジネスの成功のためにあるのですからね。

‘システムの活用によって、どれだけ顧客が儲けられるか──この部分にこそSIerの価値がある’<“KEY PERSON”の愛用品>システム手帳は持ち歩き重視で 文庫本サイズの小さなシステム手帳がお気に入りだ。「愛用のボールペンと名刺入れのセットで、かれこれ10年ほど使っている」。小型にしたのは持ち歩きを重視しているためで、客先で聞いたキーワードは、いつもメモに残している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
シンクタンクの日本総合研究所と、SIer国内最大手のNTTデータが「JSOL」という合弁会社を立ち上げたのは、コンサルティングとITの融合を目指したことが大きい。テクノロジーだけで顧客の売り上げや利益を伸ばすのは難しく、「テクノロジーをどう活用すれば顧客のビジネスがより大きく成長するのか」という“コンサルティング”の観点が欠かせないと中村充孝社長は考える。
ITが大きく発展した現代では、システムは「動くのがあたりまえ」だ。そうではなくて、ITに投資した分の何倍もの利益を得て、はじめて顧客は納得し、次の投資につながる。JSOLの合弁事業で求めるものは、まさに“顧客をどう儲けさせるか”の部分であり、そのためにはJSOLの営業、SEなどの職種を問わず、顧客のビジネスを徹底的に知り、顧客を成功に導くことを重視する。「失敗することもあるだろうが、うまくいくまで顧客といっしょに試行錯誤していく行動や意欲が欠かせない」(中村社長)。これこそがJSOLの強みにつながる。(寶)
プロフィール
中村 充孝
中村 充孝(なかむら みつたか)
1956年、京都府生まれ。79年、京都大学法学部卒業。同年、日本電子電話公社(現NTT)入社。88年、NTTデータ通信(現NTTデータ)へ移行。米M.I.S.IにNTTデータから出向。06年、NTTデータ東海社長。11年、NTTデータヨーロッパ社長。12年、NTTデータEMEAチェアマン。13年6月、JSOL代表取締役社長就任。
会社紹介
JSOLはNTTデータと日本総合研究所の折半出資の合弁会社である。シンクタンク系のSIerらしく、DWH(データウェアハウス)やビッグデータを活用した高度な解析技術をもち、これをマーケティング・オートメーションやIoT、ヘルスケアなど注力分野に応用することを進めている。年商はおよそ300億円規模で、従業員数は約1300人。