それでもあきらめず成功へ
──ほかにもまだ挑戦された新規事業はあるのですか。 廣瀬 えっ、この話、まだ続けるの?(苦笑)。そうですね、コミックの電子書籍サービス「コミックシーモア」を2004年から手がけているNTTソルマーレは、立ち上げ当初はとんでもなく赤字だったんですよ。私はNTT西日本の役員を務めながら、ソルマーレの非常勤社長──と、いうより再建社長として立て直しに取り組みました。
コミック好きで電子書籍の可能性に魅せられた若いスタッフががんばっているのを見て、なんとか成功させたいと思いました。非常勤なので実務はできなかったのですが、それでも数字を見る限り月商1億円を超えれば潰さずに済む。新規事業はうまく立ち上がればヒーローになれますが、そうでなければ周囲はとても冷たい。「おまえらが好きで始めたんだから、最後までやり通せ」とね。だが、そこがおもしろい。
──こちらは成功したのですか。 廣瀬 とにかく電子書籍を読んでくれる人を増やさなければ何も始まらないので、NTT西日本の子会社でありながらauやソフトバンク向けにもコンテンツを展開しました。携帯電話がどんどん高機能になり、ソルマーレのスタッフたちの奮闘もあって何とか月商1億円を突破。細かな数字はもう忘れましたが、その後、累損も解消して、かねてからスタッフが行きたがっていた海外出張にも行かせられるようになったときはうれしかった。その後、スマートフォンの追い風も加わって、今では最も成功した新規事業の一つですよ。
──NI+Cではどんな新規事業を立ち上げますか。 廣瀬 まずは社長直轄でビジネスの新機軸を打ち出すチームをつくりました。足下をみれば先述の急速に進化するハイバリュー・ソフトウェアを、従来のビジネスに上乗せしたり、あるいは2016年4月に電力小売りが全面自由化されるのに合わせて、当社がもつハイバリューソフトを電力システム改革に応用したりと、やることはいっぱいあります。NTT西日本は規制されてきた側ですので、30年前の通信自由化と重ね合わせて、自由化の際に、どこがビジネスのポイントになるのかも心得ているつもりです。
ただ、本当の新規とは、すでに具体化したものではないんですよ。まだ誰も手がけていない新機軸を打ち立て、市場を開拓するところに醍醐味がある。NTTやIBMのように大人数を投じられませんので大きなことは言えませんが、それでもこの会社のポテンシャルを考えると既存と新規の両方を伸ばすことで、直近の2倍に相当するグループ年商1000億円くらいまではやれるという手応えがあります。

‘新規事業はうまく立ち上がればヒーローになれるが、そうでなければ周囲はとても冷たい。だが、そこがおもしろい!’<“KEY PERSON”の愛用品>二次元で“夢の共演” コミックの電子書籍サービスなどを手がけるNTTソルマーレのスタッフが贈ってくれたベースを弾く廣瀬氏の肖像画(中央右)。音楽好きであることから“二次元”でイギリスの世界的ミュージシャンと“夢の共演”。後列のドラムとギターは歴代社長。
眼光紙背 ~取材を終えて~
貪欲にビジネスの新機軸を探し求めるのが廣瀬雄二郎社長の経営流儀だ。NTT西日本ではグリッド・コンピューティング事業の立ち上げを担い、その後はコミック電子書籍サービスのNTTソルマーレの事業を軌道に乗せた。新規事業の失敗で苦い経験もしたが、それでも果敢に新しい領域へと挑んでいく姿勢は揺るがない。
インタビューのなかで、「これってこうすれば儲かるよね、あれはああすれば大化けする」などと、自由奔放に語る。通信会社やSIerの幹部というよりは、一人の起業家であり、アントレプレナーと表現したほうが廣瀬氏によく馴染む。
実際、IBMが力を入れるSoft Layerを活用した商談はすでに100案件を超え、これまでIBMによる直販主体だったコグニティブ・コンピューティング「Watson」でパートナー販売の兆しを感じるや否や、即座に強い関心を示す。廣瀬氏の鋭い嗅覚とリーダーシップによって、NI+Cのビジネスが“大化け”するのではと感じた。(寶)
プロフィール
廣瀬 雄二郎
廣瀬 雄二郎(ひろせ ゆうじろう)
1957年、岐阜県生まれ。81年、京都大学修士電子工学修了。同年、日本電信電話公社入社。99年、NTT西日本法人営業本部ソリューションビジネス部担当部長。00年、新ビジネス推進部担当部長。06年、サービスクリエーション部担当部長。09年、取締役兵庫支店長。12年、常務取締役法人営業本部長。14年6月、日本情報通信(NI+C)代表取締役社長に就任。
会社紹介
日本情報通信(NI+C)はNTTと日本IBMが折半出資するSIerで、IBMの専門的で高度なハイバリュー・ソフトウェア商材を活用したシステム構築に多くの実績をもつ。グループ企業に付加価値ディストリビュータ(VAD)会社のエヌアイシー・パートナーズをもつ。直近のグループ全体の年商はおよそ500億円規模。