全国の生産拠点を巡回して信頼感を深める
──前回のリーダー会議では、例えばどのようなことについて話されましたか。 ラピン (しばし沈黙)ビジネスパフォーマンスをいかに高めるかについてです。これ以上は、社外秘にさせていただきたいと思います。
──ラピンさんは、以前にもレノボ・ジャパンの社長を務めておられた時期があって、同社のトップに復帰されたという感じです。一方、NECパーソナルコンピュータの社長に就任したのは今回が初めてです。ドメスティックな企業であるNECパーソナルコンピュータの社員にはどのように受け止められているのでしょうか。 ラピン レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータの社員は、これまでも私を日本ビジネスのリーダーとして認めてくれていました。だから、「いきなり外国人が入ってきた。どうしよう」とか、そういう感じはまったくありません。過去の6か月間、数回にわたってラウンドテーブル・ミーティングを開き、社員と話し合う機会を設けて、互いの信頼関係がしっかりできていることを実感することができました。
もちろん、両社の背景や文化はかなり違いますから、今後も寄り合う努力が必要だと思っています。そのために、私はこの8月に、山形県の米沢工場など、全国の生産拠点を訪問して社員と一緒に過ごすことをスケジュールに入れています。夏祭りを開いたりするなど、気軽に意見交換ができる場も設けて、信頼関係の強化を図り、ビジネスの拡大につなげたい。
──パソコンのコモディティ化が進み、さらに販売台数も下がっている情勢にあって、世界のパソコンメーカーは苦戦しています。レノボは、中国でのシェアが高いこともあって、売り上げを伸ばしていますが、今後の日本のパソコン市場の可能性をどう捉えておられますか。 ラピン 日本は、とくにコンシューマ向けのパソコン市場は非常に厳しい状況にあります。しかし、来年4月のWindows XPのサポート終了によるパソコンの買い替え需要や、アベノミクスによる景気の回復感など、明るい兆しも出てきています。そんな情勢にあって、レノボ・ジャパン/NECパーソナルコンピュータも、まだまだ成長するポテンシャルがあると確信しています。
3年間で30%のメーカーシェアを獲得するという、合弁会社を設立したときに掲げた目標は現在も揺らいでいません。
とはいっても、パソコンだけでの継続的な事業拡大は難しいとみています。今回、経営体制を一新したことによって、パソコン事業を維持しながら、タブレットなどパソコン以外の製品に注力する「PC+」の市場をアグレッシブに攻めていきたいと考えています。これからの数か月間、タブレットの新製品を矢継ぎ早に発売する予定で、ラインアップの拡充に努めます。
求められる家族の絆、次の商機に
──中国など他の国では、レノボはスマートフォンや、インターネット機能などを備えた「スマートテレビ」など、幅広い製品を展開しています。今後、日本市場にも投入する予定ですか。 ラピン スマートフォンは、今年、世界10か国で展開していきますが、日本には当面投入するつもりはありません。その理由は、日本のスマートフォン市場は、パソコン市場以上にメーカー間の競争が激化していて、通信キャリアの発言力も非常に強いからです。今後、市場環境が変われば参入することも考えられますが、それはそのときがきたら決めたいと思います。
また、スマートテレビに関しては、中国ではシャープと合弁会社をつくって一緒に展開しているのですが、こちらも現時点で日本で展開する計画はありません。日本で力を入れたいのは、タブレットを含めて、多様なパソコンの展開です。
例えば、米国でローンチしていて、日本では未発売の製品に、27インチのタッチ画面を備えたテーブル型パソコン「IdeaCentre Horizon Table PC」があります。家族が集まって、大きなスクリーンで写真を見たり、ゲームをしたりすることができるので、家族の絆を深めるツールとして提供していきたいと考えています。
私には、3人の娘がいます。3人ともタブレットをもっているせいか、自分の部屋に引きこもりがちで、残念ながら、私と妻にほとんど話しにきません。自分のこうした経験を踏まえて、「IdeaCentre Horizon Table PC」の需要は必ずあると捉えています。
──今回の社長交代によって、Lenovo NEC Holdings B.V.で“レノボ色”が濃厚になった印象を受けています。NECブランドは今後も維持していくつもりですか。 ラピン はい、維持します。NECブランドは日本で深く根づいているので、当社の事業拡大のカギを握っています。今後も、レノボとNECの両方のブランドでパソコンを展開していきます。
・FAVORITE TOOL 米GPS機器メーカー、Garminのランニング用腕時計。走った時間や距離を表示するほか、GPS機能でランニングルートを案内してくれる。ラピン社長は、「走ると頭がすっきりして、いろいろなアイデアが浮かんでくる」という。東京では、青山周辺などをお気に入りのランニングスポットとしているとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ラピン社長はレノボ・ジャパンのサイトで、経営者としての活動を語るコーナー「Rod's Perspective」を掲載している。会社の方針について説明するほか、新年の挨拶で、冬休みは「出身地オーストラリアの隣国ニュージーランドで、家族や友達とともに過ごしている」と書いたりして、日本のユーザーや販売パートナーにラピン社長の人柄が伝わるよう、工夫している。
映像ギャラリーでは、NECと共同で開催したキックオフミーティングでラピン社長がNECの遠藤信博社長にユニフォームを羽織らせたり、NECパーソナルコンピュータの社員と交流したりする写真を載せて、レノボとNECの信頼関係をアピールしている。
圧倒的な存在感を醸し出すラピン社長の下、レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータはいかに密に連携するかが、事業を拡大するうえでのポイントになる。市場環境が日増しに厳しくなっているなか、これまで以上に、ラピン社長の経営手腕に期待がかかる。(独)
プロフィール
ロードリック・ラピン
ロードリック・ラピン(Roderick (Rod) Lappin)
1996年、米デルに入社。アジア太平洋地区や日本、オーストラリアで、グローバル・セールスやリレーションシップ・セールス、教育・官公庁向け事業を担当。2007年、レノボに移籍。レノボ・シンガポールで、日本を含むアジア太平洋地区の直販とマーケティング担当の副社長を務める。08年11月、レノボ・ジャパンの社長に就任。12年4月、Lenovo NEC Holdings B.V.の会長に就任。13年6月に現職に就いた。
会社紹介
Lenovo NEC Holdings B.V.は、2011年7月、レノボとNECの合弁会社として設立。レノボの出資率は51%、NECの出資率は49%。100%子会社であるレノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータの事業活動を統括する。パソコンのほかに、タブレットやサーバーなどを提供する。レノボ・ジャパンの本社は東京都港区、NECパーソナルコンピュータの本社は東京都品川区。