ユーザーの要望に短期間で応える
――今、従来型SIの市場規模が縮小して、多くのITベンダーが事業をサービス中心型にすべく舵を切ろうとしています。そんな状況にあって、御社はクラウドコンピューティングなどのサービスにそれほど積極的ではないという印象を受けますが……。
黒川 当社はもちろんサービス事業に力を入れていますが、サービスの収益性がまだあまりよくないのが実際のところです。クラウドに関していえば、われわれはこれまでパブリッククラウドを中心にして展開してきましたが、今後はパブリックよりも収益性が高いプライベートクラウドにフォーカスして、クラウド事業を拡大したいと考えています。
正直にいえば、現時点で当社のクラウド事業は、当初の計画から2年くらい遅れています。しかし、今はようやく初期投資が終わった段階で、回収の時期に入ったので、クラウドはこれから売り上げの拡大に貢献するようになります。
また、プライベートクラウド事業を拡大すると同時に、従来のSIビジネスも強化していきます。
――従来のSI事業は、具体的にどのように強化するつもりですか。
黒川 日本ユニシスは金融業に向けたシステム構築に強いのですが、一方で、まだ開拓できていない市場分野をたくさんもっています。例えば、流通業です。小売りや通販といった業界をターゲットにして、SIの提案活動を強めたいと考えています。さらに、ターゲットの幅を広げるとともに、ビジネスのスピードをもっと上げたい。これが日本ユニシスにとって必須の課題です。提案から納入までの工程をもっと短縮化しなければならない。ITのユーザー企業は、もはや2~3年をかけての長期間にわたるシステム構築を求めておらず、1年または半年でシステムを構築したいというニーズが高まっています。だからこそ、短期間でお客様の要望に対応できるソリューションの開発・構築に力を注ぎます。
――インタビューの冒頭、「勝ち抜くために斬新なアイデアが必要」とおっしゃいました。今、どのようなことを考えておられるのでしょうか。例を挙げていただけませんか。
黒川 まだ具体的なかたちはみえていませんが、一つ考えているのは、地域の金融機関向けの情報収集・活用サービスの提供です。地域の金融機関は、競争が激しくなっていて、いかに顧客との密な関係を維持することができるか、すなわち囲い込みに危機感をもっていると当社ではみています。今後、異業種とのコラボレーションをキーワードにして、さまざまなデータを分析し、活用するソリューションを、地域の金融機関に積極的に提案していきたい。
――日本ユニシスの売上減少の要因の一つとして、「現場の社員が元気を失っている」ということをよく聞きます。黒川社長は、このインタビューの直前にも開発現場を訪れたとおっしゃいました。日々、社員の人たちからどのような声を聞いておられますか。
黒川 社員は今、ビジネススピードの向上や新規事業の開拓などに関して、「言葉としてはわかったが、具体的に何をするか」という、経営方針の具現化を求めています。12月に経営方針を対外的に発表するのですが、それに合わせて、社内向けにも具体策をはっきりと伝えて、社員のモチベーションを向上させたいと考えています。社員の話を総合すると、生え抜きの社長として相当期待されていることをひしひしと感じています。
・お気に入りのビジネスツール名刺情報を電子化できるキングジムのデジタル名刺ホルダー「ピットレック」。電車の車内広告を見て、去年の8月に購入した。「半分遊び感覚」で活用しているそうだ。ちなみに、会見で黒川社長と名刺交換した記者(私)の名刺情報も入っているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
生え抜きの新社長の登場で、日本ユニシスの変革は果たして進むのか。記者は、7月に開かれた黒川社長の就任懇親会の後、本紙のコラム欄でそうした趣旨の記事を書いた。開発現場のことはよく知っているのだろうが、経営方針にはいまひとつ具体性がない──そんな印象を抱いたからだ。
このインタビューでも、取材を日本ユニシスの中間決算発表の数日前に行ったということもあって、実績推移の数字などに関してなかなか具体的な情報が得られなかった。しかし、7月の懇親会と比べて、黒川社長の描く経営方針には、少しずつだが、かたちがみえてきたと感じた。例えば、地域の金融機関に向けた情報の分析・活用サービスだ。サービスの詳細はまだ検討中とのことだったが、日本ユニシスが太いパイプをもつ金融業をターゲットに、確かなニーズがある情報分析・活用ができるソリューションを提供することは、成功の可能性が高い。(独)
プロフィール
(くろかわ しげる)1951年生まれ、60歳。74年4月、日本ユニバック(現日本ユニシス)に入社。2003年、金融第一事業部システム統括部システム二部長に就任する。日本ユニシス・ソフトウェアで第一システムサービス本部金融第一統括部長、日本ユニシス・ソリューションで執行役員兼ファイナンシャルサービスグループ金融第一サービス本部長を経て、07年に日本ユニシスでSW&サービス本部リソース・マネジメント室兼SW&サービス本部長補佐に就任。執行役員、常務執行役員を経て、11年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1958年に設立された大手システムインテグレータ(SIer)で、三井物産の関連会社である。金融機関向けシステムの構築を強みとしている。グループ会社に、ICT(情報通信技術)ベンダーのユニアデックスやネットマークスなどを抱える。2011年3月期の連結売上高は2529億8900万円。従業員数は4539人(2011年3月31日現在)。東京・豊洲に本社を構える。