グローバル化を推進
──米国、フランスに拠点をもつ御社では、今、グローバリゼーションへのシフトをキーワードにしておられますが、とくに米、仏、日本の現地スタッフ同士のコミュニケーションによるグローバル人材の育成を重要視しているとうかがっています。
中谷 国内で足元を固めることも大事ですが、次の一手も考えなければいけません。営業スタッフに例をとりますと、1週間に1回は必ず電話会議を行って、英語が不得手な社員でも、自分たちの言いたいことを片言でもいいから一生懸命に伝えることに取り組んでもらっています。「知識集約」とも関連していますが、一生懸命仕事をしてプロフェッショナルであるというマインドセットで「何を相手に伝えるか」が最も大事です。機会があるごとに社員と話をするのですが、お互いの考え方を共有する文化の醸成が必要です。グローバリゼーションは今後の一大看板ですから、軌道に乗るまで、立ち止まることは許されないと思っています。
──グローバル化のメリットは?
中谷 さまざまな国の人たちと知識を共有していくと、異なった発想や得意なスキルを理解して吸収することができます。理想的には世界のさまざまな国に開発拠点があって、顧客がいて、ボーダーレスに知識を結集して仕事をこなす姿です。現実には、売り上げを稼いでいるのはほぼ日本だけなのですが、海外案件を拡大して、例えば海外の案件を7割に引き上げれば、リスクヘッジもできます。一国の特殊事情で影響を受けるリスクを減らせますから。当社はソフトウェア開発に特化していますが、組み込みソフトウェアから大手銀行の基幹システムまで、幅広く手がけているプロフェッショナルです。日本だけでなく、グローバリゼーションによって、ポートフォリオを広げていきたいですね。
──さまざまな顧客から要請されたどんな仕事も受け入れることができる体制にある、と。
中谷 「一分野一社」主義を貫いていまして、一産業分野からは1社のみ受注すると決めています。顧客との関係を深掘りし、長期的につき合うことで、「仕事内容をよく理解しているジャステック」と顧客から評価されることにつながります。顧客からすると、開発も効率化して、案件を増やせばコストダウンも期待できます。ただ、このままでは次に打つ手がなくなるので、海外にはぜひ進出しなければいけないと考えています。
──海外拠点は増やす予定ですか。例えば中国は?
中谷 ええ、今後はアジアも積極的に検討していきたいですね。確かに中国は面白いと思いますが、合弁会社を現地に設立して、現地の人たちと一緒にやっていくのか、近郊国に拠点をつくって進出するか…。どの市場が一番いいのか、どういった業態で入るかは議論の途中です。
──海外売り上げを7割というのは、具体的な目標に据えているのですか。
中谷 いいえ、まだパワーポイントでつくった構想の段階です。次にエクセルに、数字に落とし込まなければならない。今期中には始めたいと思っています。
──エクセルに落とすのが今期として、リアルの海外進出はいつ頃をめどにしておられますか。
中谷 頭の中では5年後。今は欧州と北米の顧客しかいませんが、アジアに拠点を置いて、顧客も獲得している状況にしたいです。また、海外はパッケージをメインとしているので、開発も手がけられる状況にしたいですね。
・こだわりの鞄 米国の通販サイト「eBags.com」のバッグで、米国赴任時代から使っているとのこと。機能性は高いが、重いのが玉にキズ。社員から「持ちましょうか」と言われたことがあるそうだが、重すぎて突き返された。「健康に差し障りがあると思ったので、今は別のバッグを使っている」。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ジャステックのホームページを開くと、キャラクターである能面「柳小面」のインパクトが強烈に迫ってくる。そのため、「日本」とか「和」というイメージをもっていた。海外経験が豊富な中谷社長。社長室には海外赴任時に購入したアンディ・ウォーホルの大きな絵が飾ってある。それだけではなく、ギターが置いてあったりして、創業40年のソフトウェア開発会社のイメージとはまったく異なる趣だ。
バブル崩壊に始まり、リーマン・ショック、そして東日本大震災。経済的にもますます元気がなくなる日本。中谷社長がデロイトに転職し、米国で働きはじめた1週間後、9・11テロが起きた。しかし、「みんな明るかったんですよ。意気消沈していたら、何のために悲劇を味わったか分からないので、元気に進んでいかなければいけないと思います」と力強く語る。
グローバリゼーションで勢いづくジャステック。元気な日本を世界にみせつける役割をぜひ担ってほしい(環)
プロフィール
中谷 昇
(なかたに のぼる)1964年、東京都生まれ。87年4月、キヤノン入社。94年、キヤノンリサーチセンターフランス メカトロニクス研究部長に就任。2001年6月、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校アンダーソン経営大学院修了。同年9月、米デロイト&トウシュを経て、03年1月にジャステック入社。04年5月、JASTEC International代表取締役社長(現任)、05年3月LTU Technologies会長、09年取締役兼執行役員海外事業推進室室長(現任)を歴任した。10年2月、代表取締役社長就任、現在に至る。
会社紹介
独立系ソフトウェア開発ベンダーとして1971年に設立。2000年、東証第2部、03年、東証第1部上場。同年10月、CMMI(能力成熟度モデル統合)レベル5を達成。04年、JASTEC International(米国子会社)を設立。05年には米国子会社による、仏LTU Technologiesの全株式を取得して子会社化。1分野1社主義のもと、金融、証券をはじめとし、幅広い業種のシステム開発を手がける。年商は85億5400万円(10年11月期)。