トンネルは抜けた──。リーマン・ショックは、証券業向け売り上げ比率が高い野村総合研究所(NRI)に、直下型地震のような強い衝撃を与えた。だが、藤沼彰久会長兼社長は、「2010年は当社ビジネスの回復期」と位置づける。証券を含めた金融分野で新規のIT投資が見込めることや、医療や産業分野でのビジネス拡大が期待できるからだ。向こう3年間、NRIの過去の力強い成長に匹敵する業績の伸びを構想している。
向こう3年、力強く成長する
──2010年度(11年3月期)から再び右肩上がりの成長をイメージしておられるとのこと。受注環境が厳しいなか、どのような戦略をもって業績を伸ばしますか。
藤沼 世間的には、2009年が景気の底で、2010年は底這いか、少し上向くくらいとみられています。ですが、当社の売上高の7割近くを占める証券や保険など金融業のIT投資は、むしろ回復期に差し掛かる。日本経済全体が二番底に陥らないことという前提条件はありますが、金融サービス業向けのビジネスは必ず回復する。競争が激しいなかで、これ以上、新規のIT投資を先送りできないからです。
──今期(10年3月期)売上高はほぼ前年並みの見通しですが、その中味をみると野村證券からソフトウェア資産を約400億円で買い取った分の売り上げ増が今期から含まれており、実質的には落ち込んでいる印象を受けます。
藤沼 400億円は5年償却すると年間約80億円。これに適正な利益を乗せて顧客に請求させていただくわけですので、差し引くと証券業向けの売り上げは前年度比で落ちていることは事実です。ただ、既存顧客のIT投資マインドは戻り始めていて、暗いトンネルは抜けた感触はある。ざっくりとしたイメージに過ぎませんが、10年度からの3年間は、売り上げベースで前年度比3%、5%、7%増で伸ばせるとみています。
それに、ソフト資産を自社で所有することは、当社にとって大きな意味がある。自分の資産ですので、徹底的にチューンナップして、運用を効率化し、維持コストを下げる。特定業界向けのITプラットフォームとして、当社のITシステムを複数の顧客に使ってもらうケースでは、当社自身のコストダウンに加え、複数ユーザーでシェアすることで顧客の負担も減る。この仕組みが、当社の高利益率の源泉の一つなんです。
──顧客のIT資産を預かり、運用や追加の手直しなどを行うBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)は御社の強みとする領域ですからね。
藤沼 BPOは、顧客が社内で保有する業務システムを当社が代替して運用するタイプのビジネスですが、これに既存のシステム構築やアウトソーシングを組み合わせることで、2015年には200億円の売り上げを想定しています。隣国・中国の人材を活用してのオフショアBPOやオフショア開発も積極的に推進。顧客自身で管理するより安く、確実に運用する体制を強化します。
10年がかりで人を大切に育て、中国で“第二のNRI”をつくる。
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