海外拡大やクラウド着手を視野に
──組織体制が整ったということですが、課題はないのですか。
大橋 社内的な体制には今のところ課題はないとみていますが、ビジネス面での姿勢については課題があります。それは、ここ何年か大きなチャレンジをしていないということです。会社の方向性を変えるような新規事業に着手していない。
──何か策はあるのですか。
大橋 海外戦略です。中国や韓国、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアなどアジア地域での事業着手を模索しています。現段階では、現地のSIerとの業務提携を進めています。
今、アジアはIT関連市場が凄まじい勢いで伸びている。そういった状況を勘案すれば、日本市場だけでビジネスを手がけるのは得策ではない。当社は米国製品を扱うケースが多いのですが、米国市場が最も大きいからといって米国製品だけに目を向けていればいいというわけでもない。開発面や販売面においてアジアのベンダーは確実に成長しています。だから、アジアを見据えなければならないと考えたのです。
また、このような戦略を立てることができたのは、当社が双日の完全子会社になったことも理由の一つです。グループのコラボレーション強化を図るという意味合いがあります。これまで当社は、双日グループであったにもかかわらず、独立心が強かった。しかし、今は1社だけでは顧客の要望に応えることが難しい時代です。会社をさらに成長させるためには、グループの力を生かすことが重要だと判断しています。
──海外では、どのベンダーと、どのような提携を結ぶのですか。
大橋 まだ具体的には言えませんが、ジョイントベンチャーを設立したり、当社が扱う製品を売ってもらえるような販路の開拓、提携先との共同インテグレーションなど、さまざまな角度でアプローチしています。この取り組みは、2~3年後などといった中期的なものではありません。はっきりと決まったら、きちんと発表しますので、それまで待っていただけますか。
──事業の柱の一つとしてサービス事業がありますが、これについては、どのような拡大策を講じるのですか。
大橋 東京・東雲にある検証センター「NETFrontier Center」を最大限に使って、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)をはじめ、仮想化やクラウドサービスを視野に入れたビジネスを展開していきます。なかでもクラウドサービスに関しては、センター内に「C3(シーキューブ=Cloud Control Center)」というインキュベーション施設がありますので、パートナーとの開発や検証などを積極的に進めます。
──クラウドについては、どのようなサービスを、どの領域のユーザー層に提供していくのですか。
大橋 まだ試行錯誤している段階ですので、今後詰めていきますが、まずは双日グループ内のクラウド化を実現しようと考えています。「プライベート・クラウド」を構築するわけですが、それ以外にもリモートでの監視などを加えて検証していきます。このビジネスモデルを構築することに力を注ぎ、取り組みが成功した段階で顧客に対しても横展開していきます。
──サービスビジネスに力を入れる一方で、製品販売については、どのような考えをもっておられますか。
大橋 右から左に製品を流す“物売り”の時代はとっくに終わっていると言わざるを得ない。顧客は、技術を駆使したサービスやIT関連業務を支援してくれるサービスを求めています。
ただ、製品販売で当社が行えることは何か、ということは常に考えていなければなりません。例えば、製品調達。一般的な製品を売るのは難しいので、海外ベンチャーの製品を日本市場向けにカスタマイズして提供することはビジネスとして成立します。技術力を生かして製品をコーディネートするのです。
──独自製品を開発していくというのは、メーカーの役割を担うということですか。
大橋 それも考えています。ただ、自社ブランドということにはこだわっておりませんので、当社のエッセンスを入れた製品を提供するということです。顧客の求める製品が市場に投入されていなければ、当社が創りあげる。これがインテグレータの本来の姿なのです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「前社長はアイデアマン。一方、私はどちらかというと考えをまとめるタイプ」と自らを分析する。だからこそ、「社員にどんどん意見を出してもらう。社長の役目は会社をよい方向に導くためのハンドリング」と認識している。
市場環境は厳しいものの、「顧客に挨拶して回っていると、共通していえるのは、商売のチャンスを見いだそうとしているということ。ITをうまく活用しようとしており、必要なものには投資するという考えをもっている」とみている。今、ベンダーに求められているのは、「的確な提案」。顧客を利益増大に導き、自社の成長にもつなげることだ。
経験豊富で現場に出向くことが多かったことから、地に足がついたビジネスを展開しようとしている。さらに、新しい事業にも挑戦するにあたって、社員のアイデアを生かした全社一体型で飛躍を遂げようとしている。舵取りの手腕に期待したい。(郁)
プロフィール
大橋 文雄
1951年7月15日生まれ。83年7月、日商エレクトロニクス入社。以降、同社で電子機器事業部電子機器部長や米国支社への出向などを経て、02年6月に取締役に就任。執行役員や常務執行役員、専務執行役員などを歴任し、09年6月に代表取締役社長CEOに就任。
会社紹介
昨年度(2009年3月期)の業績は、売上高481億4000万円(前年度比11.5%減)、営業利益1890万円(18.7%減)と減収減益だった。今年度は、売上高500億円(3.9%増)と増えるものの、営業利益1800万円(4.8%減)と厳しい状況が続く見込み。このほど親会社の双日の完全子会社となり、上場を廃止した。そんななか、新社長の大橋氏はグループを生かした経営で成長路線を築こうとしている。