今年1月1日付で就任した日本IBMの橋本孝之社長は、世界的に展開する企業ビジョン「スマーター・プラネット(Smarter Planet=賢い地球)」の実現に向け、体制を強化している。長年の懸案である中小企業向けパートナービジネスでは、コンサルティング担当者の配置やパートナーが運営するクラウド・コンピューティングの拡大など、大胆な改革を視野に入れている。「売り切り型」が終焉を迎えつつあるなかで、パートナーに「次のビジネスモデル」を提供するための戦略が動き出した。
谷畑良胤(本紙編集長)●取材/文 大星直輝●写真
「標準化」して誰でも使えるITに
──IBMは以前、企業ビジョンとして「eビジネス・オンデマンド」を提唱していました。まずはこれを総括してください。
橋本 「eビジネス・オンデマンド」の功績としては、限られた人たちに使われていたインターネットを企業の中で「商用」で利用できるようにしたことがまず第一点。それまでは電話の専用回線が一般的でしたから。そこにIBMが投資してエンタープライズ(企業など)で使えるようにして、新たなネットワークをつなげた。これを使って、企業の次のビジネス成長に結びつけたのが「eビジネス・オンデマンド」の成果です。
──この提言はハードウェアをもたずに、「電気・ガス・水道」のごとくITを使うという衝撃的なコンセプトでした。
橋本 ハードをもたずに使用するという「ユーティリティ・コンピューティング」のことだと思いますが、ここに到達するにはもう少し時間を要しますね。「ユーティリティ・コンピューティング」は何かといえば、「標準化されて誰でも使える状態」を指す。つまり、標準化・単純化・自動化されていることが前提になる。ITだけで実現することではなく、ビジネス・プロセスを含めてのことになります。
──国内大手メーカーは、NECのような「ハードウェア指向」と、富士通のような「ソフトウェア・サービス指向」に二極化していると、私どもではみています。現在の日本IBMは、どちらでしょうか。
橋本 日本IBMはテクノロジーをベースとしたサービスを提供し、「ビジネス・イノベーション」を支援する会社です。どちらかに重心を置くというよりも、両方をバランスよく行っているということです。われわれの強みは、インテグレーションです。ハードやソフト、サービスということだけでなく、これらを統合して顧客を支援することにあります。
──そして、今は「スマーター・プラネット(Smarter Planet=賢い地球)」を提唱しています。ITシステムの何を変えようとしているのですか。
橋本 「eビジネス・オンデマンド」の世界では、安価なインターネットを使ってネットワークの空間を飛び越えました。今度は、ITを使う領域を、いままでのコンシューマや企業という限られた世界だけでなく、これまでITを適用できなかった領域まで「地球規模」で広げようという主張です。これからは、携帯電話やICチップなどがどんどん普及していく。ありとあらゆる人がデータを送り出し、つながる世界になります。われわれの言葉では、リアルタイムで状態が把握できる「Instrumented=機能化」といいます。一方でネット回線が高速化しコンピュータのスピードが上がりますと、ITの利用領域が広がりますよね。
従来と同じことをやっていれば、落ちるのは明白。パートナーも「次は何だろう?」と考え始めているので、ここを支援する。
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