新端末の登場を促す技術も
──08年11月、デスクトップパソコン向けに「インテルCore i7プロセッサー」を発売されましたが、反応はいかがですか。
吉田 新製品の特徴は、やはり高性能で、アプリケーション動作やパフォーマンス、処理能力ともに速度を高めるという観点から開発していますので、多くのユーザーやパートナーから高い評価を得ています。また、グリーンITや地球温暖化対策が叫ばれているなか、パワーマネジメントがより優れているといった低消費電力機能も好評です。さらに、ユーザーがデータ容量の多い画像やコンテンツなどを同時に動かす状況のなか、8スレッドを処理できるというマルチタスク環境に対応している点は、従来にない製品との声を聞きます。
当社は2年に一度の割合で新製品を出しています。これは、大きな意味をもつ。変わるという意味をユーザーによく理解してもらうことが重要なのです。古い製品を使い続けているということはよくない。2年に一度の“ビッグバン”をしっかりと伝えることが重要で、新製品はその役割を十分に果たしています。
──機能や処理能力を理解するのは、パソコンのヘビーユーザーで、なかでもコンシューマ市場が中心ではないでしょうか。法人市場ではパソコンに対するニーズが今ひとつだという話をよく聞きます。
吉田 確かに、これまで法人市場で求められるクライアント端末は低価格機が中心でしたが、最近では付加価値を求めるようになっている。とくに、法人ユーザーはクライアント端末の管理に頭を悩ませている。それをプロセッサ単位で解決できます。新製品ではありませんが、解決策の一つとして当社には「vPRO」がある。これは、ネットワークにつながってさえいれば遠隔から監視でき、しかも管理者の業務効率化などといった付加価値が得られるのです。
また、新製品に関していえばデータの大容量化にともなって処理パフォーマンスのスピードが絶対条件になっている。ユーザーに対するサービスや社内の生産性向上という点ではクライアント端末の付加価値化も必要になってくるのです。
──ただ、パソコン販社にとってはクライアント端末を売っても利益が出ないという声も挙がっています。
吉田 今は低コストニーズもあるという二極化の状況ですので、必ずしもユーザー企業すべてが付加価値を求めているとは限らない。ユーザー企業にとって、3年後に活用するアプリケーションは分かりませんよね。そのためにも、ROI(投下資本利益率)をきちんと説明することが重要になってくる。そこで、「vPRO」ではユーザー企業に対して直接的に販売しているSIerを対象に販売面を含めたトレーニングを実施しています。付加価値の高さを伝えるため、SIerとのパートナーシップを深めて市場開拓に注力していきます。
──パソコンやサーバーなどIT以外の領域に事業を拡げることは意識していますか。
吉田 それには、「Atom」が最も適した製品です。これは、ネットブックなど低価格パソコンを対象としたプロセッサだと認識されがちですが、実は家電をはじめ車載機器の組み込み分野、モバイルインターネットデバイスなどで搭載される可能性が高い。実際、カーナビゲーションや薄型テレビなどのメーカーから問い合わせがきています。また、今まで登場していなかった製品が生まれる可能性も秘めています。PCベースのプロセッサであることから、インターネットにつなげることを意識していますし、新しい領域への参入は大きなビジネスチャンスです。
──ビジネスチャンスといえば、無線の新しい周波数帯「WiMAX」もありますね。運営会社のUQコミュニケーションズに出資しているということもあり、どのような可能性を考えていますか。
吉田 まずはパソコンへの搭載が中心になりますが、今後はさまざまな展開が考えられる。WiMAXは端末側の規格であることからも、パソコンだけでなく、モバイルゲーム機や自動車関連などの機器にWiMAXが搭載されれば、当社にとってはビジネスチャンスにつながります。また、世界では400以上の通信事業者がトライアルしています。そういった点では、ITを中心に多くの業界を活性化させるものと確信しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インタビューでは、「『できる』『できない』を明言する。できないことについても、マイナスをプラスの方向性に進める持ち主」という印象。とくに感じたのは、単独の代表取締役就任に対する意識を質問した時だ。「アカウンタビリティを明確にする」。社員への信頼度が高いことを意味する。こうした意識が全社に根付いているのだろう。これがインテル日本法人の成長源だ。
事業領域の拡大も徹底的。近く到来する「クラウドコンピューティング」時代では、「パソコンやサーバーだけでなく、さまざまな端末に当社の製品を搭載させることで、クラウドコンピューティング市場の早期立ち上げを当社が作り上げる。確固たる地位を築いていく」という。「常に“フロントランナー”のポジションを確保」という発言からも、先進的な技術で業界活性化をもたらすことに期待がかかる。(郁)
プロフィール
吉田 和正
(よしだ かずまさ)1982年、米コロラド西州立大学 社会学部卒業。84年、米インテルに入社。マイクロコンピュータ製品マーケティング事業部に配属。88年、インテル日本法人のプロダクト・マーケティング部長兼地域営業部長に就任。その後、米国本社でOEM関連やコンシューマ関連の事業、日本法人で通信製品やアーキテクチャ関連などの事業に従事し、03年6月1日に日本法人の代表取締役共同社長に就任。04年12月、米インテルのセールス&マーケティング統括本部副社長を兼任する。08年10月、単独の代表取締役社長に就任。
会社紹介
2008年10月、インテルは共同社長体制に終止符を打ち、吉田和正氏の単独トップ体制を敷いた。従来の体制が03年から5年ほどにわたって続いていただけに今後の体制に注目が集まりそうだ。
また、08年は同社にとって革新的なデスクトップパソコン向け新プロセッサ「インテルCore i7プロセッサー」を発売した年でもある。「デスクトップパソコンは元気がない。市場拡大に向け、新しいイノベーションの提供で再びブレイクさせる」と吉田社長は力強く宣言する。