大興電子通信の悪いところはすべて私が直していく──。会社の長所・短所を知り尽くした生え抜きの社長が大改革を進めている。業種の深掘りや共通業務システムの強化、データベースを活用した販売戦略の展開など、これまで弱かった部分を徹底的に叩き直すことで業績回復を目指す。改革のスピードを上げるとともに、営業効率のアップを推進し、東証1部上場も視野に入れた攻めの経営を実践する。
営業活動を有機的に展開するための戦略的ロードマップを構築していく
──社長に就任されて今年4月で1年を迎えますが、社内の改革はどこまで進んでいますか。
山本 大興電子通信に入社して約35年、当社の良いところも悪いところも熟知しています。「私が社長になった限り、悪いところはすべて直す」と宣言しました。創業52年余の社歴がある会社だけに、年功序列型の人事制度や階層的な決裁制度など古いルールが一部に残っているのも事実。これまで20回余りも労使交渉を続け、人事制度など時代にそぐわなくなったルールの見直しに着手しています。
──特に重点をおいているのは?
山本 社長に就いてからは、特に業種にターゲットを絞った業務ソリューションの強化と、財務会計や人事給与など業種横断的に使える業務アプリケーションのマトリックスの構築にこだわってきました。“強い大興”をつくるためには、業種を縦軸、共通アプリケーションを横軸にしたマトリックスの強化が欠かせないからです。これまで、この会社に戦略的なフレームワークがあればもっとノウハウがたまるはずとか、この業種が伸びるのになぜ営業に行かないのか…と、プロパーだけにいろいろなことを感じてきました。今、こうした問題点をすべて洗い出して軌道修正している段階です。
──昨年度(05年3月期)は赤字で、役員報酬のカットを断行するなど厳しい状況が続いているようですが…。業績回復の決め手として考えておられることはどんな点でしょうか。
山本 年度ごとの経営方針や目標設定は従来から打ち出していましたが、これを実現するための具体的な戦略に欠けていた部分があったと思います。具体的な戦略を立てるためには科学的なアプローチが必要です。取り組みの1つとして、昨年6月から全国約6000社の主要顧客企業の情報化投資を分析するデータベースを立ち上げました。
例えば、ある顧客に財務会計システムを納入していたとします。この顧客の販売管理はどのベンダーが納入していて、サプライ品はどこで、人事給与はどんなソフトかという情報を収集するのが第一歩です。どうしたら他社が納入しているシステムを当社が受注できるかを徹底して分析するとともに、よりトータルな提案をするための戦略ロードマップをつくって具体化を進めています。
進行チェックを週単位で行うことで、提案しても見積もりの要求すらこないなど、うまく進んでいないことが明白な案件をすばやく見つけ出します。提案内容は的確か、顧客の誰にどういうアプローチをすべきか、仮に(当社の)営業担当者の商談相手が顧客企業のシステム課長段階にとどまっているようならば、経営トップに会って直接提案するように仕向けるなどの指導をします。
また、当社の売れ筋商材のEDI(電子データ交換)システムは、製造業を中心に約1万社のユーザーがあります。こうした顧客企業のうち、例えば従業員100人以上で利益がでているなどの条件で潜在顧客を抽出し、戦略性をもって営業をかけられるよう努めています。
商談案件の拡充が業績向上の決め手 当面は売上目標の2.5倍を徹底させる
──来年度は5か年計画の最終年度でもあり、改革をさらに加速させる必要がありますね。
山本 まだ十分とは言い難いものの、戦略を具体化する取り組みによって社員の意識は急速に変わり始めています。これまでは、顧客に対して部門システムの提案に終始する傾向が一部に見られましたが、今は株式公開を射程内に収めた伸び盛りの中堅企業から基幹システムなど全社的な受注を獲ってくる動きが活発化しています。こうした商談の中身をみると、顧客の成長を支える全体最適型のシステムを提案しているケースが多く見られ、社員の意識改革の成果に手応えを感じます。
売上高に占めるハードウェアとソフト・サービスの構成比をみると、昨年度は半々くらいでしたが、今年度は4対6とソフト・サービスの比率が高まる見込みです。業種戦略などソリューション提案をスピード感をもって強化していくことで、ソフト・サービスの比率を最終的には7割程度に高め、収益力の拡大に結びつけていきます。
──景気回復の勢いが増し、メインターゲットとする中堅企業の設備投資の拡大が期待されています。追い風を感じられますか?
山本 大企業から始まった業績回復の動きは、中堅企業まで波及し始めていると実感しています。これまで部門単位のシステムしか導入していなかった顧客が全体最適型システムの導入に踏み出したり、当社が見積もりを出してから顧客が発注を決定するまでのスピードが速まっている印象を受けますね。 当社は富士通のビジネスパートナーですから、基本的には富士通の商材をメインに位置づけているものの、近年ではIBMのプラットフォームに対応した売れ筋の製造業向けERPシステムの取り扱いも始めています。IBMを売ろうという狙いではなく、顧客に富士通のERPと比較してもらい、最適な選択肢を提供するのが趣旨です。顧客の要望にマッチした業務アプリケーションを打ち出せば、すぐさま4─5社から注文が獲れることも珍しくありません。提案手法と商材をうまくミートさせることで、業績回復への条件を整えていきます。
──現場での動き方にも変化が求められますね。
山本 データベースによる分析、テレマーケティングなどをフルに活用して、商談規模を拡大することも大切な要素です。今は営業担当者ごとに売上目標金額の約2.5倍の商談案件を持つことを徹底しています。02年頃は1.3─1.5倍しかなかったことを考えれば、商談を回していくスピードが飛躍的に高まりました。右肩上がりでコンピュータが売れていた頃なら、売上目標の1.5倍程度の商談を持つことで手堅く目標額をクリアできたかもしれませんが、競争が激化した今は商談案件の拡充が欠かせません。目標達成をより確実なものにするため、将来的には売上目標の3倍の商談案件を持つことを目指します。
──大興生え抜きの社長として社員や顧客からの期待は大きなものがあると思いますが、目指すべき経営指標とはどのようなものでしょうか。
山本 今後3年間で東証1部への上場が可能な強い財務体質を作り上げます。今年度の連結売上高は402億円、経常利益4億円を見込んでいますが、3年後の08年度(09年3月期)には売上高500億円、経常利益10億円に高め、上場基準をクリアできる水準に持っていく考えです。企業価値を示す今の時価総額は50─60億円ほどですが、これを3年後に100億円以上に高められるよう努めます。IT業界の再編やM&A(企業の合併と買収)が活発化するなかで、企業価値の増大によるメリットは大きいからです。“強い大興”にすることが次世代を担う社員の育成につながり、プロパー社長の輩出を継続する原動力になると確信しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
目標や方針を示すだけでは「不十分」だとして、より具体的な戦略づくりに力を入れる。顧客の情報化投資を分析したり、商談履歴を週次で管理するなど、さまざまなデータベースを駆使した「科学的なアプローチ」をかける。
創業52年余り、SIerとしての器の大きさが強みとなる一方で、時代にそぐわないルールも一部社内に残る。入社以来、大興電子通信の良いところ、悪いところをすべて知り尽くしたプロパー社長だからこそできる改革がある。
「強い企業になり、社員が夢を持ち続けられるようにする」と、継続してプロパー社長を輩出できる強固な収益基盤の確立を目指す。
時価総額など企業価値の向上も重要課題だ。事業拡大で「SEが足りなければ買収もあり得る」し、その逆の可能性もゼロではない。業界再編の緊張感を常に持ちつつ大改革を進める。(寶)
プロフィール
山本 泰久
(やまもと やすひさ)1947年、兵庫県生まれ。71年、大阪工業大学第二工学部卒業。同年、大興電子通信入社。92年、SI推進部長。96年、SIビジネス統括部長。98年、参与SIビジネス統括部長。99年、取締役営業本部副本部長兼営業統括部長。01年、常務取締役首都圏ブロック長。02年、取締役常務執行役員営業副本部長兼ソリューションビジネス統括部長。03年、取締役常務執行役員営業本部長兼ソリューションビジネス統括部長。04年4月、代表取締役副社長COO兼営業統括本部長。05年4月、代表取締役社長COO就任。
会社紹介
大興電子通信は、富士通ビジネスシステム(FJB)、都築電気と並ぶ富士通ディーラーのトップ御三家。東証2部上場。昨年度(2005年3月期)の連結経常利益は約6億円の赤字で、05年3月には役員の報酬カットや45歳以上の管理職を対象とした早期退職優遇制度を適用するなど厳しい経営状態が続いている。現在の主な株主は大和証券グループ本社、富士通、オービックなど。歴代社長のほとんどは社外から就任していたが、昨年4月にトップに就任した山本社長は大興電子通信に入社して今年35年目になる叩き上げのプロパー社長だ。創業期を除いてプロパー社員がトップまで昇り詰めたのは事実上今回が初めて。社員からの信任は厚く、強い指導力を発揮して全力で改革を推し進める。