住商情報システムは、積極的な業務提携やM&A(企業の合併と買収)を視野に入れ、攻めの経営を実践する。今年8月1日に住商エレクトロニクスと合併した新生・住商情報システムの社長に就いた阿部康行社長は、現状を「スターティングポイントに立ったばかり」と表現する。総合的なソリューションを提案できる条件が整ったとして、今後、合併効果を最大限に引き出す組織づくりや提携戦略を強力に進める。
まずは社内コミュニケーションの改善 部門間の壁をなくした組織づくりへ
──今回の合併で、住商情報システムは新しく生まれ変わったばかりですが、その矢先に通期の業績予想を下方修正することになりましたね。
阿部 不採算案件の発生などで期初予想を下方修正せざるを得なくなったのは、経営者としてたいへん申し訳ないと思っています。しかし、悲観しているわけではないんです。むしろ、これでようやく事実上のスターティングポイントに立てたと思っています。8月1日付けで合併したといっても、まだ社内には旧住商情報システムを中心とするSCSカンパニーと、旧住商エレクトロニクスを中心とするSSEカンパニーの2つの組織があります。実態として、まだまったく異なる組織が別々に動いているのが実情です。来年4月からの新年度は、こうしたカンパニー制を取り払い、合併効果を最大限に引き出す組織をつくりあげてみせますよ。
──そのためには、まずどんな施策が必要だと。
阿部 社内のコミュニケーションづくりにつきます。前期の不採算案件についても、現場で何が起きているかを、会社が認知するのが遅れた。もっと早く気づいていれば、かなり違った結果になっていたはずだと思っています。ですから、部課長級を集めた会議ではコミュニケーションの改善というメッセージを明確に打ち出しています。部門間の壁が障害となってコミュニケーションが阻害されているなら、壁をなくした組織に変えなければならない。あやふやなまま仕事を受けたり、コミュニケーション不足のまま物事を進めるから問題が起こる。そうしたクリティカルパスをひとつずつ潰していくんです。
──それにしても、今年4月に旧住商情報システムの社長に就いてから、相次いで提携を進めてきましたね。日本アイ・ビー・エム(日本IBM)や製造業に強い東洋ビジネスエンジニアリング、リード・レックス、グループウェア開発のサイボウズなどと、これだけ短期間にパートナーシップを組まれた。これは2010年までに2000─3000億円の売上高を目指すという中期計画のための布石ですか。
阿部 一連の提携は、製造業分野へのチャネルを強化するのが狙いです。住商エレクトロニクスとの合併で、相乗効果が大きかったのは製造業の分野です。旧住商情報システムは、住商グループ関連の仕事を通じて流通や金融業の分野で実績がありますが、住商エレクトロニクスは90年代、製造業を対象にした日本SGIなどのワークステーションのトップディストリビュータでした。このときに培った製造業へのチャネルが脈々と生きていて、これをさらに強化する意味で、東洋ビジネスエンジニアリングやリード・レックスなどとの協業を決めました。日本IBMのプラットフォームにも対応しています。サイボウズは、当社の主力ERP(統合基幹業務システム)プロアクティブシリーズと相乗効果が見込めるのに加えて、株式を購入できる条件が揃ったからです。
──今後、中期目標の達成に向けて、大規模なM&Aも狙うのですか。
阿部 M&Aは、相手があることなのではっきりしたことは言えません。しかし、08─10年をめどに売上高を現在の倍近い2000─3000億円に伸ばすには、M&Aを念頭に置いた展開をしなきゃならんでしょう。ITサービス産業は、今後もどんどん統廃合が続きますよ。だから、我々と価値観を共有できて、同じ戦略を描けるのであれば、いっしょに伸びていこうということです。何が何でもM&Aでなければならないというわけではありません。しかし、出会いを大切にして、常に意識をしておかないと、来るものも来ませんからね。
──阿部さんは、ここ数年の合併で、M&Aについては、多くの経験を積まれていますね。
阿部 米国の住友商事などで15年あまり仕事をして、02年に住商エレクトロニクスの社長になった途端に、グループ5社の合併ですからね。今度も、住商エレクトロニクスと合併して、異なる企業文化の融合を手がけることになりました。合併に関しては相当経験を積んでいるつもりです。この経験がいつかM&Aにも役立つはずだと(笑)。企業文化の成り立ちや人間関係、いっしょに仕事がやりやすい分野、仕事がやりやすいパターンなど、M&Aに必要な要素はいくつかあります。
──合併で人が増えると、本意でなくともリストラを選択せざるを得ないという局面もありますが。
阿部 3000人を超える会社になって、確かにエンジニアの数は多いです。コミュニケーションを活発にして、皮膚感覚で仕事ができるようにしないといけない。これができないから採算に合わないプロジェクトを引きずってしまう。エンジニアにしても時代に合わない仕事を延々とやっていると、働く場所を失うことはあります。プログラマ一筋で常に新しい技術の習得に努めている人もすばらしいと思いますが、人間、年をとるわけで、すべての人がそうなれるわけではない。
ですから、来年4月からの新体制に向けて、今、キャリア開発プランを含めた新しい人事制度を策定しています。年功序列型で、実績に関係なくある程度までは給料を払うというシステムはなくなり、その人が持つキャリアの現在の価値と、将来に向けての価値の見通しにしか給料は払わないという大変な時代になっているんです。エンジニアにしても、マネージメントに進んだり、中には営業へ転身という人もいるでしょう。人事制度は透明性をもった分かりやすいものに変えていきます。
パートナーが幸せにならない計画は作るな 勝ち残りにつながるアライアンスの実現を
──ITサービス産業の統廃合の中で勝ち残っていくには何を意識すべきだと。
阿部 今回の合併で、よりワンストップに近いサービスが提供できる体制に近づきました。しかし、これからの時代、1社ですべてカバーできるとは考えていません。ITサービス産業は、当社のように流通、金融、製造とトータルでカバーできるベンダーと、セグメント別にナンバーワンを目指すベンダーとの2つに分かれていくでしょうね。こうした個別セグメントのトップベンダーと組んで、スピード感をもってソリューション力を高めていく姿勢が大切です。当社内で各事業を担当するトップには、こうした業界の動きをよく理解した上で、部下たちを動かしてもらいます。
また、プロアクティブシリーズのビジネスパートナーは約300社ありますが、パートナーが幸せになれないプランはつくるなと厳命しています。プロアクティブがターゲットとする中堅企業は、日本の産業構造を強くする重要なセグメントです。ここが強くなれば日本全体の国際競争力も高まり、当社やパートナーの勝ち残りにもつながる。だから、ワンストップでソリューションを提供するために、積極的なアライアンスも組む。M&Aも意識します。これが競争力を高め、統廃合の波にのみこまれない強い会社づくりのポイントだと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
赤字プロジェクトを抱えて苦しむIT業界で「昔はよかった」という恨み節のような声が聞こえてくる。
「マクロで見ればせち辛くなっているし、『ぼくたちが若いときはもっと余裕があった』などと言い始める人も多い」という懐古主義はどこにでもある。 世の中のルールや考え方は変わり、昔は予算の余裕があったかも知れない。しかし、「余裕があったという当時でさえも、『昔はよかった』と必ず言ってるんだよ。何年かすれば、今のことを指して昔はよかったと言うはずだ」と言い訳がましい理屈はあっさり切り捨てる。
世の中が変化しているのに、自分がその変化に適応しないのは危険だ。浮沈激しい米国流のビジネス経験を踏まえて統合を急ピッチで進める。強い組織に仕上げる強力なリーダーシップとその言葉を受け止めるコミュニケーション力が不可欠だ。(寶)
プロフィール
阿部 康行
(あべ やすゆき)1952年、東京都出身。77年、早稲田大学大学院理工学研究科修了。同年、住友商事入社。95年、米国住友商事機械・プラント部門長付。98年、米国プレシディオベンチャーパートナーズLLC社長(兼務)。同年、米国スミトロニクス社長(兼務)。01年、米国住友商事情報産業部門長(兼務)。02年4月、住友商事理事。同年6月、住商エレクトロニクス社長。2004年6月、住商情報システム取締役(兼務、非常勤)。05年4月、住商情報システム社長。同年8月1日、住商エレクトロニクスと合併した新生・住商情報システムの社長に就任。
会社紹介
住商情報システムは、今年8月1日、住商エレクトロニクスと合併。連結従業員数約3000人を超える大手システムインテグレータ(SI)が誕生した。ただ、今年度(2006年3月期)の連結業績の期初予想を合併後に下方修正するなど、厳しいスタートとなった。経常利益ベースで約20億円の下方修正の主な理由は、不採算案件の影響のためで、プロジェクト管理の強化が改めて問われることになった。阿部康行社長は「社内のコミュニケーションの強化」を進めることで、不採算案件の早期発見に努め、業績回復を目指す。今後は合併による相乗効果を最大限に発揮できる体質を作ると共に、特定分野に強いノウハウを持つベンダーとの提携やM&Aも視野に入れる。今年度の連結売上高は1180億円、経常利益68億円の見通しだが、2008─2010年には売上高2000─3000億円を目標にする。