独立系システムインテグレータ14社(設立時)が集まって1995年にスタートしたITA(インフォメーション・テクノロジー・アライアンス)が10周年を迎えた。情報サービス産業界は、全般的に収益の悪化に悩んでいる。このほどITA会長に就任した内藤惠嗣・情報技術開発(TDI)会長は、「メンバー各社が、積極的でオープンな姿勢で情報を開示しあい、メンバーがより優れてパワフルになるようなITAグループとしてのプレゼンスと競争力を高めていきたい」と明言する。
独立系システムインテグレータが結集
組織はあくまでもフレキシブル
──情報サービス産業を取り巻く環境は、顧客の低価格要求で案件は多くても利益を拡大できないというジレンマに陥っています。
内藤 大手のシステムインテグレータでも我々のような中堅でも同じ苦境に立っています。情報化投資の回復もあって案件は増えているのですが、顧客からの厳しい低コスト化要請がすっかり定着していて、競争も激しくなっており、適正な利益を得にくい状況です。こうした状況を脱するためには、画期的な方法があるわけではないと思います。「言うは易く、行うは難し」ですが、構造的にローコストオペレーションを可能にする一策としてのオフショア開発の推進を、王道ともいえる高品質で高生産性を発揮する基盤の整備を地道ながらもしぶとく進めていかなければならないのではないでしょうか。
さらに、こうした情勢下では、資本力にも優秀な人材にも恵まれ、市場の信頼感も高い大手ベンダー系や大手のシステムインテグレータの受注機会が増えるものです。これに真っ向から対抗しようと頼るところのない独立系の中堅システムインテグレータが1社ごとあがいてみてもどうにかなるものでもないのです。だからこそ、いくつかの企業がお互いのスキル、ソリューション力を結集して発揮できるようなアライアンスが必要になるわけです。
──ITA(インフォメーション・テクノロジー・アライアンス)の設立目的がそれですね。
内藤 アライアンスの組み方として、1つの組合的な組織にするとか、ホールディングスカンパニーのようなものを設立して事業統合的な動きをして対市場プレゼンスを高めていくというような方法もあります。現在、ITAを構成する12社には上場企業もあれば完全なオーナー会社もある。それぞれの生い立ちや風土の違い、利害関係者の価値観の相違などもあって、こうした選択肢が必ずしも最も実効的で望ましいものとは言えません。
ITAは、メンバー各社の優れた面を結集して市場への対応力を強くしようという意図を持って設立されました。設立当時は、バブルが崩壊し独立系のシステムインテグレータは甚大なダメージを被った。そのとき佐藤雄二朗・アルゴ21会長兼社長が音頭をとって、当時14社が結集したのです。大手ベンダーやシステムインテグレータに対抗できるパワーを持つアライアンスづくりを目指したわけです。
──ITA発足から10周年となりました。まだ、目立った成果を挙げていないように見えます。異なる性格の企業が集まっても共通の目標を設定しにくいのではないでしょうか。
内藤 確かに際立った成果を示し得なかったかも知れません。でも、各社が互いの優れた面を吸収し合って立派な企業に、という点では地味ながら大いなる成果があったと確信しています。各社が結集して取り組んだもので、市町村合併への対応や自治体向けのソリューション提供を目的に設立したCDCソリューションズ(CDCS)は1つの成果と言えます。未だ出資会社の収益に貢献できるところまでは到っていませんが、設立時からメンバー以外のウッドランドの参画も得ておりますし、テプコシステムや松下電工インフォメーションシステムズなども出資しています。何もITAのメンバーに限るというような閉鎖的な形にはしたくないのです。課題によってメンバー企業の緊密な関係が必要な部分もあれば、比較的緩やかな関係で対応することが望ましい場合もあるのです。つまり、あまりにも多様な課題に効果的な対応ができるような弾力性を持っている組織でもよいのではと考えています。
メンバー企業それぞれが、ITA以外に相応のリレーションを持っていますし、そうした関係を極力活用することでITA活動をより大きなアライアンスに発展させることも可能になるのではないでしょうか。
経営課題や技術開発をオープンに
OSSとオブジェクト指向を推進
──現在は、メンバー企業は12社ですが、さらに参加企業が増えるということも考えられます。
内藤 20社から25社程度まで増やしてもいいという意見は少なからずあります。ITAがより適切でパワフルなアライアンスになるためには20社程度が適当かも知れません。これまでにITAに加わりたいというシステムインテグレータもいくつかあります。ITAのメンバーになる企業には、当然のことながら、経営がしっかりしている。独立系ITサービス関連企業である、理念を同じくするといったことが主要な要件として求められるでしょう。大手メーカーや大手ベンダー、大手システムインテグレータの系列企業では、ITAの性格そのものが変わってしまいかねないので無理でしょう。地方の有力な独立系システムインテグレータなども、ITAメンバーの候補として考えられます。
ITAはメンバー各社の経営トップで構成する運営会議の下に、各社の将来の重責を担う幹部の人たちで構成する実務会議があります。実務会議には営業企画会議、技術会議、経営管理会議、プロジェクトマネージメント会議、関西支部会議、中部支部会議があります。これらの実務会議の中では、各社それぞれの営業、技術、管理の幅広い分野にわたる経営課題について可能な限りオープンな姿勢でスキルやノウハウを交換し合って互いに良いところをとって、自社に生かそうと努めているのです。自由闊達な情報交換と議論、コラボレーションによる課題解決といったことを通してメンバー企業それぞれが少しでも強く優れた企業になることと併せて、ITAグループとしても各種連携策の積み重ねによって、よりパワフルにして市場での存在感が強いものにすることが可能と考えているのです。 もう1つの狙いは、各社の次代を担う経営幹部を育てるということです。ソフト関連産業は、結局のところ「人」の問題に尽きます。ITAとしてあらゆる機会をとらえて人材育成に注力しています。海外視察ツアーなどの企画もその1つで、このような機会を通してメンバー各社の優秀な人材間の相互啓発と相互理解が進んで連携意識が高まることになります。
──OSS(オープンソースソフトウェア)開発の推進など、ITAとしての課題もあります。
内藤 OSSについてもITAで積極的に関わっていきます。単なる勉強会ではダメで、それをどうビジネスにつなげていくのかという検討が必要になるでしょう。もう1つはオブジェクト指向技術です。メンバー企業が持っている財務パッケージを、徹底的にオブジェクト指向に作り変えようという活動もあります。1年から1年半の期間で、スキルの高い技術者をメンバーが何人か出し合って開発を進めます。見方を変えれば、このプロジェクトに参加する各社にとっては、自社の事業には直接つながらない仕事に人材を提供するという無駄とも取れます。タイトであったりルーズであったりする連携がITAの持ち味ですから、「総論賛成、各論反対」という場合もあります。そうしたプロジェクトには人を出せない、という企業も出てくるでしょう。それでもいいと思っています。複数の会社が参加して力を合わせて大手に対抗していくことが、これからますます必要になってくるのです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
内藤会長は、「そりゃあ10年も過ぎて、何をやっているんだ、という思いがないわけではない」とも。だからこそ「ITAをさらにパワフルに」という思いに満ちている。大手の下請けビジネスでも発注価格ダウン、顧客の情報システム投資が増えても低コスト競争で企業体力で劣る独立系システムインテグレータは苦境に立たされる。メンバー各社のそれぞれの経営方針も異なる部分は多い。
10周年の節目で、成果の出る方向へ舵取りをしなければ単に、“ルーズな企業連合”になってしまう。もちろん統合会社ではないが、「12社合わせれば5500人の技術者を抱えている」(内藤会長)。人が命の情報サービス産業にとって、この5500人は大手に対抗できるパワーになる。だからこそ、独立系システムインテグレータ12社が連携したITAの底力を見せるときなのではないだろうか。(蒼)
プロフィール
内藤 惠嗣
(ないとう けいじ)1937年6月生まれ。60年3月、名古屋大学理学部卒。同年4月、日本ユニバック(現日本ユニシス)入社。83年11月、情報技術開発に入社し取締役就任。84年2月、代表取締役常務取締役。89年3月、代表取締役副社長。同年6月、代表取締役社長。04年6月、代表取締役会長。
会社紹介
ITAは、1995年2月に「大手メーカーやベンダーにグループとして対抗し得る競争力を身につける」ことを目的に独立系システムインテグレータ14社が参加して発足。初代会長には、現在の情報サービス産業協会(JISA)会長である佐藤雄二朗・アルゴ21会長兼社長が就任。01年からは春日正好・アイエックス・ナレッジ最高顧問が会長を務め、05年1月26日に開いた第11回定時総会で内藤惠嗣・情報技術開発(TDI)会長にバトンタッチした。設立以来、メンバー企業群の一部に変化があり、ITAを構成するのはISIDインターテクノロジー、アイエックス・ナレッジ、アイネット、アルゴ21、コアサイエンス、SBC、情報技術開発、ソフトウェアコントロール、データプレイス、日本アドバンストシステム、日本データコントロール、ビッツの12社。