バッファローが情報機器とデジタル家電機器の融合を視野に、「デジタル周辺機器メーカー」へと変貌を遂げようとしている。ホームネットワークの普及をにらみ、無線LANユーザーを増やすことに力を入れ、AV(音響・映像)機器や家電機器に対応した無線LAN製品の発売を計画する。さらに、今年7月にはマウスなどPCサプライ市場に新しく参入。パソコン周辺機器市場で確固たる地位を固めようとしている。
スピード重視のビジネス展開、無線LANトップベンダーのプレゼンス強化
──社長に就任されて約3か月が経過しました。バッファローの方向性は固まりましたか。
斉木 当社はメモリ、ストレージ、ネットワークなどの分野で製品を発売し、パソコンの周辺機器メーカーとしてビジネスを展開してきましたが、今後はパソコンの周辺機器という枠を超え、事業領域を拡大していきます。2004年度の国内パソコン市場は、上期はコンシューマ向けが依然として厳しく、デジタル家電に需要を持って行かれている状況です。しかし、決して需要の減少を理由に事業領域を広げるというわけではありません。市場環境は、家電機器のデジタル化にともない、情報機器と家電機器が融合する方向に向かうといえます。この激しい変化に対応するため、スピード重視でビジネスを展開していかなければなりません。そのため、パソコン周辺機器メーカーだけに留まっていてはビジネスチャンスを逃すと判断しました。2011年の地上デジタル放送への全面移行に向け、デジタル家電の周辺機器メーカーとして成長しなければなりません。
──情報機器と家電機器の融合には、無線LAN環境の普及が1つのキーワードといえます。
斉木 その通りです。今後“ユビキタス”や“ホームネットワーク”という環境を可能にするためには、無線LANを普及させることが重要です。
ブロードバンドの広がりは、現段階では有線が中心といえます。無線LANが有線ほど普及していないのは、「設定が難しい」、「セキュリティは安心なのか」などユーザーが不安に感じており、どの機器を選択すればいいのかが分からない環境にあるからです。当社を含め、無線LAN機器メーカーの説明不足であることは否めません。
しかし、裏を返せば、簡単設定やセキュリティ面で安全ということを訴求すれば、無線LANは普及していくと確信してます。当社は、無線LAN機器の先駆者でトップ企業と自負しています。トップ企業として、ユーザーに無線LANの利便性をアピールしていかなければなりません。まずは、パソコン専門店さんや家電量販店さんとのタイアップで無線LANの体験コーナーを設置し、ユーザーに対して無線LANが簡単ということをアピールし、有線ユーザーを無線LANユーザーへと移行させていきます。有線ユーザーの無線LAN化により、デジタル化の波は急速に押し寄せて来ると考えています。できるだけ多くの店舗で無線LANの体験コーナーを設置してもらえるように、積極的に提案していきます。
──無線LANを普及させていくうえで、他企業とのアライアンスは積極的に行うのですか。
斉木 無線LANユーザーを増やすために、アライアンスは重要な戦略です。パソコン関連メーカーとの協業により、店頭に展示コーナーを設置することはもちろんですが、今後はAV(音響・映像)機器メーカーや家電機器メーカーとのアライアンスも視野に入れていきます。当社では、ボタンを押すだけで無線LANの接続設定と暗号化設定が可能な「A・O・S・S(エアステーション・ワンタッチ・セキュア・システム)」を開発しています。現段階でも、当社の無線ブロードバンドルータをアクセスポイントとし、ネットワークメディアプレイヤーなどを通じて、パソコンで編集した画像や映像などをテレビで楽しむことが可能です。インターネットに接続できる「ネット家電」が登場すれば、今後はユーザーがパソコンからの情報発信だけでなく、家電機器やAV機器からの情報発信ができるようになります。
実際、ネット家電が出回る時期にならなければなりませんので、具体的なアライアンス案が現段階で決まっているというわけではないのですが、家電機器メーカーやAV機器メーカーに対し、ホームネットワークの実現に向けた無線LANのアライアンス話は持ちかけています。また、「A・O・S・S」製品のラインアップも広げていきます。当社にとって、「A・O・S・S」の技術を独自開発したことが強みといえます。今後は、さまざまなメーカーとのアライアンスを通じ、無線LAN機器のトップベンダーとしてのプレゼンスを強化していきます。
──ホームネットワークが普及してくると、サポート面の強化も重要になってきますね。
斉木 もちろん、サポートに関しては最重要項目としています。サポート面では、「BSA(バッファローサービスアライアンス)」を組織化し、全国で展開しています。この組織は、技術者が各家庭を訪問してパソコンや周辺機器の設定を行うというものです。最近では、女性向けの専門組織として、「BSAレディース設定サービス」も提供しています。すでに、BSAの技術者は1000人程度に達しています。ホームネットワーク化を進めるにあたって、この組織も強化していく計画です。
PCサプライ事業に参入、ワールドワイドでの展開も視野に
──ネットワーク以外のストレージやメモリについての強化策は。
斉木 ストレージ事業に関しては、パソコン市場で成長している分野でもあります。今後は、ネットワーク接続型ハードディスクのラインアップを強化していきます。メモリ事業については、メモリモジュールが安定事業ですので、さらに強化を図っていくために、USBメモリをいかに拡販していくかに力を注いでいきます。
──今年7月にPCサプライ市場に新しく参入しました。
斉木 これまで当社は、パソコンマニアやパソコン上級者など、パソコンに比較的詳しいユーザーを多く獲得してきました。しかし、今後は幅広い層のユーザーを獲得していくことが重要と考えています。PCサプライは、パソコンユーザーのなかでも“ライトユーザー”と呼ばれるパソコンにさほど詳しくない初級者を開拓するためのものです。サプライ事業に参入することにより、バッファローブランドを広くアピールできる体制が整ったといえます。ただ、サプライに関しては参入したばかりで、取扱店を増やすことが課題といえます。事業として育てていくことに力を注ぐのみです。
──事業を拡大するうえで、海外市場の積極開拓は重要だといえます。
斉木 当社が手がけているビジネス領域は、国内で約4000億円の市場規模といわれています。ワールドワイドでいえば、この10倍にあたる4兆円に上ります。米国や欧州での周辺機器の使われ方は、日本と比べるとまだまだ浅く、しかも今後は中国や韓国などアジアでの市場拡大が期待されるため、戦略次第でビジネスチャンスがつかめると確信しています。日本でパソコンマニアからパソコン初心者、非パソコンユーザーまでを満足させる製品を提供できれば、ワールドワイドでの展開も十分通用します。これまでの事業領域に加え、マルチメディアやサプライなど、新しい事業を含めて国内での基盤を固め、海外も視野に入れた戦略でビジネスをさらに拡大していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
バッファローが新しく手がけることになったPCサプライ。この事業は、斉木社長が発案したビジネスだそうだ。昨年夏からプロジェクトを組み、1年間かけて事業化した。それだけに、「ビジネスの柱に成長させる」と思い入れはひとしおだ。同社ではネットワーク事業を拡大していくため、無線LAN機器の拡販に力を入れる。地上デジタル放送への全面移行に向け、家電機器との融合も視野に入れた製品も開発していく方針。そのためには、「投資を惜しまない」という。莫大な投資額をまかなうには、利益率の高い事業を立ち上げ、早急にビジネスとして確立することが急務。利益率が高い分野と言われるPCサプライに目を向け、新たな収益源を確保しようという着眼点は鋭い。(郁)
プロフィール
斉木 邦明
斉木邦明(さいき くにあき)1948年9月22日生まれ、愛知県出身。71年3月、愛知大学法経学部経済学科卒業。同年4月、山田ドビーに入社。92年3月に同社を退社し、メルコ(現バッファロー)に入社。96年6月、取締役。99年5月、常務取締役。00年5月、専務取締役。04年5月、取締役社長に就任。親会社であるメルコホールディングスの専務取締役を兼務する。
会社紹介
バッファローの2003年度(04年3月期)の連結売上高は、前年度比18.5%増の1037億300万円と好調に推移した。事業別の売上高は、メモリが同35.8%増の339億6300万円、ストレージが同21.6%増の379億7700万円、ネットワークが同4.9%増の231億6600万円。ネットワークの伸び率が他の事業に比べ低いのは、有線ブロードバンドルータなど有線対応機器の低価格化が進んでいるため。今後、ネットワーク事業の拡大に向け、無線LAN機器を拡販していく。
今年度(05年3月期)の連結売上高は、前年度比17.6%増の1220億円を見込む。事業別では、メモリが同19.8%増の407億円、ストレージが同5.9%増の402億円、ネットワークが同17.0%増の271億円を予想している。今年7月から参入したPCサプライ事業に関しては、すでにマウスやケーブルなどを発売しており、取扱店の増加を図っている。売上高は初年度で10億円と控えめだが、06年度(07年3月期)には100億円規模まで引き上げ、第4のビジネスとして確立させる方針だ。