「取り扱うメーカーのトップには必ず自分が駆けつけて会う」早水潔社長の眼力の高さは、堅調に推移する売り上げが証明済みだ。2001年12月にはナスダック・ジャパンに上場し、全国規模での拡大を狙う。準備は着々と進行中だ。厳しい状況が続くIT市場にあっても、セキュリティ関連は相変わらず元気だ。「02年度は市場拡大のチャンス」歯切れは良い。
上場で資金調達、事業拡大に弾み
――2001年12月にナスダック・ジャパンに上場しました。上場前と上場後で一番の大きな変化は。
早水 正直言って変化というほどのものはないんです。私にとって上場というのは通過点に過ぎませんから。(就任)当初から上場ということは考えていましたし、上場したからといって何かが大きく変わるものではありません。ただ、市場から資金を獲得したことで、事業を拡大する弾みがついたことは確かです。
――IT市場は、米国はもとより、日本国内も依然としてかなり厳しい状況にあります。その中でセキュリティ市場は堅調な分野のようですが。
早水 昨年9月11日以降、市場の状況はITに限らないのですが、一層厳しいものになりました。しかし、皮肉なことに、セキュリティ市場は逆に活況を呈しています。当社の業績からもそのことは窺えます。昨年末に上場を果たし、資金を調達したこともあり、02年度は販路を全国に拡大する絶好の機会であるともいえます。総合的なセキュリティ・ソリューションを提供する企業で、日本全国に販路をもつような競合は存在しないと言って良いでしょう。東京を起点とした関東圏が市場の中心であり、地方都市への波及は今後の課題だと思います。というのも、中小規模レベルの企業におけるセキュリティ需要はこれまでほとんどなかったのです。
――販売パートナーがメインターゲットにしているのはエンタープライズレベルが中心ですね。
早水 企業のセキュリティに対する意識は年々拡大しています。中小企業も例外ではありません。最近では、中小規模の企業でも、セキュリティ対策には積極的な意志を示していますが、それを汲み取る販社が、とくに地方にはないんですね。そういう意味では、この市場はまだ手つかずの状態ともいえます。現在、当社の販売パートナーは55社あります。その大半が東京に本社を置く企業です。全国展開を行うには、できれば地場ディーラーが望ましい。今後1年間で、地場ディーラーを中心に45社の新たな販売パートナーを獲得する計画があります。
――具体的な拠点設置地域や以降の展開はどうお考えですか。
早水 4月1日の営業開始を目指し、大阪オフィスを開設します。ここを拠点に関西、中国、九州地域の市場を開拓していきます。10人程度を検討している人員についても、現地で採用したいと考えています。また、ほぼ並行して関東以北の市場へも進出を進めていきます。
――販路の拡大による売り上げの変化はどのように見ていますか。
早水 売り上げは年率20-30%増で調整するつもりです。急激に事業規模を拡大すると危険なので、“徐々に”です。確かに今後1年間は販売チャネルが拡がるでしょうが、それでも一気に広げるわけではありませんから。
――大企業から中堅、小規模企業まで、市場を包括するピラミッド型の構造を構築しておられますが、コンシューマ層への進出についてはどうですか。
早水 当社あるいは販売パートナーが直接コンシューマビジネスに参入することはないと思います。ただ、間接的にはあるでしょう。ISP経由でセキュリティソリューションを提供する計画があります。チェックポイントやウェブセンス、ソニックウォールなど、中小企業規模あるいはISP向けの製品は揃っていますし、今後新たに登場する予定もあります。当社の子会社であるイカルスソフトウェアのアンチウイルスソフトの導入も、ISP経由になる可能性は大きい。社団法人インターネットプロバイダー協会(JAIPA)にアクセスをするなど、かなり具体的になってきつつあります。
ベンチャー企業に投資、将来はその製品を取り扱う
――現在の営業利益率は。
早水 売り上げの5.4%というところでしょうか。
ただ、営業経費の中には投資関連の費用も含まれているために、これらを差し引けば10%前後になると思います。売り上げに占める保守の比率をさらにあげていくことで、利益率の向上が図れるはずと考えています。出荷に占める保守の契約比率は国内で65%、米国で85%です。しかし、セキュリティソリューションの保守契約率というのは本来100%であるべきなんですね。導入すればそれで済むものではないですから。
――ベンチャー企業に積極的な投資をされていますね。
早水 成長が見込めるベンチャー企業に投資し、将来的には当社でその製品を取り扱うことで事業展開していくことを見込んでいます。つまり、その企業が成長した場合、日本市場への進出を支援したりするわけです。通常のベンチャーキャピタルと当社が行っている投資の違いは、自社の営業部隊を使って、ユーザーの評価を確実に行える点でしょう。ベンチャーキャピタルは資金を提供しても、そこまではやりません。当社にとっても取り扱う製品の幅が拡大することもあり、高い相乗効果を生み出せるのです。過去4年間で約200万ドルの出資を行い、パフォーマンス(税引前利益)としては17億円というところでしょうか。ワールドワイドで通用する製品であり、さらに2年後くらい先を見据えた製品の開発を行っているような企業を探しています。年間100社ほどの情報が当社に寄せられまして、そのうち5社ほどに絞り込み、私が直接向こうのトップに会いにいくのです。ウェブセンスやソニックウォール、ストーンソフトなど、全部そうでした。
――フォーバルクリエーティブの社長に就任されて、これまで最も嬉しかったことは何ですか。やはり上場ですか。
早水 01年3月期の実績ですね。予想以上に売り上げが良かったのです。というのも、ソニックウォールやウェブセンスが新たに投入した製品群がうまくスタート、売り上げに寄与しました。自分で見つけて、自分で売り出した製品が市場で好評をもって迎えられるというのは、やはり一番嬉しいことです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
フォーバルクリエーティブの本社オフィスは、東京・青山のド真ん中に聳えるビルの15階にある。早水社長の執務室は、全面ガラス窓であり、新宿方面のパノラマが一望のもとに見渡せる。ビル自体が曲線を描いているために、全面のガラス窓はまさに簡易的な映写スクリーンのようである。写真撮影はガラスを背にし、どこまでも拡がる東京のビル群を背景に行われた。実際の写真を見てみなければわからないが、あたかも早水社長が空中を背にして写っている感じになるのではないか。実際、早水社長にはガラス窓の縁に座ってもらい、カメラはかなり寄った感じで撮影した。曇天が多い冬空が続いた幾日間のうち、偶然にもさっぱりと晴れた青空が広がっていたのが印象的だった。(薊)
プロフィール
(はやみず きよし)NECにおいてPC-9800プロジェクトに参画、同社のパソコン事業拡大に貢献したあと、1994年1月に日本DEC入社。取締役テクノロジ企画室長に就任。95年6月に製品企画本部副本部長に就任し、ウィンドウズNTおよびマイクロソフト関連製品の事業計画立案、実行を担当。取締役パーソナルコンピュータ事業本部副本部長などを経て、98年12月フォーバルクリエーティブ代表取締役社長に就任。現職。
会社紹介
1992年6月設立。TCP/IPセミナーを日本で初めて開催し、TCP/IP分野のリーディングカンパニーとして認知される。その後、95年12月にチェックポイント(イスラエル)のファイアウォールソフト「FireWall-1」の国内販売を開始。この頃から、企業のネットワーク分野における統合的なセキュリティソリューションのディストリビュータとして本格的な活動を始める。98年12月に早水潔氏が代表取締役社長に就任して以来、米国を中心とした世界各国の優れたベンチャー企業への投資活動が盛んになる。結果として、同社の取り扱うソリューション群の幅は拡大していく。01年1月、イカルス(オーストリア)のアンチウイルスソフトの日本導入を目的として、イカルスソフトウェアを設立するなど、事業規模も拡大。01年12月、大阪証券取引所ナスダック・ジャパンに上場。資本金を4億3925万円に増資し、国内市場の全国展開に向け、新たな拠点の設置を計画している。