サービス・サポート分野に、ハードベンダーやソフトベンダーなど、IT大手各社が次々と参入を始めている。競争が激しくなった今、富士通サポート&サービス(Fsas)は東京を核にしたビジネス基盤を強化し、足元をしっかり固める。マーケティング力強化のために、社員1人1人に適した個人レベルの教育にも注力している。市場で勝ち抜くためには、富士通のシステムだけでなく、サードパーティも拡大していくことが必要」大瀧達彦社長は将来像を語る。
昨年7月、営業組織を強化、東京を核に地方へ展開
――2001年度の中間決算をみると、好調に推移していますね。
大瀧 確かに、売上増で推移していますが、2ケタに満たない増加ですので、不景気と相まって厳しい環境にあると受け止めています。とくに昨年秋以降、風向きが少し変わりました。
理由としては、市場自体の需要減も確かにありますが、どの企業もサービス・サポートに力を入れ始めており、競争が激しくなったことが大きいといえるでしょう。
――市場自体が縮小しているのではなく、参入企業が多くなったと。
大瀧 そうです。従って、新しい市場を創出しなければ勝てないでしょう。また、市場では、低価格化が進んでいます。当社でも、既存の資産管理システムの機能を分けて提供することで低価格を実現し、中堅企業向けのアプローチを強化しています。顧客企業に最適なシステムの提案ができれば、いくらでも受け入れられ、市場で勝ち抜いていけると考えています。
しかし、単に価格を下げればいいというわけではありません。低価格でも、いかに利益をあげられるかが重要です。
――社長に就任して半年が経過しました。組織や体制としては、どこに注力していますか。
大瀧 東京の基盤を固めることが市場で勝ち抜くカギだと考えています。
これまで東京の拠点は「東京本部」のみでしたが、昨年7月に「プロジェクト営業部」を発足させ、同部をベースに10月には「営業本部」を新たに設置しました。
その結果、第3四半期(01年10-12月)の東京本部と営業本部を合わせた売上高は、前年同期比で約25%増となりました。設置する前は、東京における売上高が平均で全体の33-34%の比率でしたが、第3四半期は全体の38%まで伸びています。今年度中には、東京における売上比率を4割まで引き上げ、近いうちに5割までもっていきます。
とくに営業本部は、司令塔的な役割をもたせ、東京での成功例を水平展開し、地方でも勝ち抜くというのが戦略です。そのために、マーケティングを徹底させます。東京の戦力を強くすれば、売上高が100-200億円は上がるとみています。
東京でのビジネス基盤をしっかりと固め、それを地方でも反映させるのが理想的といえるでしょう。人員を減らさずに、今の人員のなかで売上増加につながる配置を行うことが重要となってきます。今年度は、人員のシフトをさらに推進していくつもりです。
――社員への教育トレーニングに関してはどうですか。
大瀧 社員に複数の教育トレーニングを受けさせれば、延べ3000人が教育を受けることになります。この3000人がいかに効率的に教育トレーニングを受けられるかが重要となってきます。
そのため、個人レベルに合わせた教育を徹底させます。各拠点の責任者は、社員1人1人の特性などを踏まえ、何をトレーニングすれば良いのかを細かく報告しています。02年4月からは、個人レベルにあわせた教育プログラムを実施する計画です。
地方自治体ビジネスは拡大、将来的にはブランド確立へ
――「e-Japan重点計画」にFsasとしても力を入れていますが、自治体関連のビジネスの状況はどうですか。
大瀧 今年度の売り上げで、210億円を見込んでいます。上期で80億円の売り上げを達成し、下期は130億円を見込んでいますが、もしかすると目標を上回ることができるかもしれません。
総務省などの大型案件もありますが、電子行政関連は地方自治体への導入が大半です。なかでも、市町村での実績が着実に増えています。ホームページの作成指導なども細かく行い、ネットワーク構築も手がけています。地方が取れれば、それに関連する医療や企業への導入もしやすくなると期待してます。
昨年、営業本部内に「e-Japan推進室」を設置しました。人員としては、20人を配置し、全国各地への指示を出すことに注力しています。また、全国の各拠点にも総勢約100人の担当者を配置し、取り組みを活発化してます。
――自治体関連は、来年度以降も期待がもてますか。
大瀧 市町村は、まだまだ開拓の余地があります。今後3年間は、さらにビジネスが拡大していくとみています。
――最近は、中国やインドのIT産業が躍進著しい状況にあります。Fsasのビジネスとして、こうした国々との関係構築は考えていますか。
大瀧 現在、直接発注することはほとんどありませんが、今後は中国やインドにソフト開発を発注する可能性はあります。
以前、中国の南京大学とソフトウェアを共同開発したのですが、製品の質が非常に高い。ソフト開発では中国は発展してくるのではないでしょうか。インドの技術も優れているのは事実です。
今後は、日本以外での発注も検討しなければならないでしょう。もっとも、それは開発に限ります。サポートやサービスは地域密着型ですので、やはりビジネスの軸足は日本にあります。
――富士通グループは、過去の例からも、子会社の独立心が非常に旺盛です。Fsasという会社に対し、社長就任前に親会社からみていた時の印象に比べ、実際、社長として内部でみてどのような実感がありますか。
大瀧 確かに、親会社である富士通からの干渉が少ないのが特徴ですね。業績が悪かったとしても、「売上高が上がってないから頑張りなさい」ぐらいではないでしょうか(笑)。それだけ自由だということです。
市場が厳しい状況ですので、ハードの販売でも、ほかの企業の製品を取り入れなければならないということを富士通自体が痛感しているため、縛りがないと実感しています。
――社名についてですが、対外的には「富士通サポート&サービス」よりも「Fsas」という名称を前面に押し出しておられます。富士通ブランドからの脱却が狙いですか。
大瀧 現状では、「富士通」で受注がとれるケースが多いのも事実です。現在、富士通を通じての案件は売上高全体の46%です。
ただ、富士通への依存比率が2割になれば、「富士通」ブランドがない戦略、例えば、ほかの企業のシステム関連ビジネスを増やし、Fsas独自のブランドを確立させていくこともあり得ます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
Fsasの顧客企業は約5万4000社。このうち、売上高の約7割が上位約200社で占めているという。
大瀧社長は、「顧客企業の大半が富士通の顧客でもある。親会社の力に頼っているという点は否めない」としながらも、「3年後には売上高が5000億円に達し、富士通というブランドがなくても十分に事業展開していけるほどの組織体制を実現させる」と意気込む。親会社からの脱却は、富士通も認めている。
「『3年後には実現』ということは、今後3年間、最低でも2期4年は社長を続けるということですね」という記者の問いに、「そのつもり」と受け取れる笑顔で応えた。
今年度は、基盤作りに尽力しているが、来年度からは“大瀧体制”の独自色が本領発揮されるに違いない。(佐)
プロフィール
(おおたき たつひこ)1940年10月19日生まれ。64年3月、慶應義塾大学商学部卒業。同年4月、富士通信機製造(現富士通)に入社。83年11月に情報処理事業本部第一事業管理部第一工務部長、91年6月に情報処理事業推進本部長代理、94年6月に取締役、97年6月に常務取締役、00年4月に専務取締役情報機器ビジネス担当。01年4月に富士通取締役と富士通サポート&サービスの顧問を兼任する。01年6月に富士通サポート&サービスの代表取締役社長に就任
会社紹介
2002年3月期の9月中間決算は、連結で売上高が前年同期比6.1%増の1016億5400万円、営業利益が同2.4%増の43億8900万円、経常利益が同9.8%増の36億6600万円、当期純利益が同9.7%増の18億8700万円と好調に推移した。
昨年、東京に「営業本部」を新設。東京を核にしたマーケティング戦略を本格化している。また、地方自治体への販売を強化するために、昨年から営業本部内に「e-Japan推進室」を設置しており、地方自治体を中心にシステムの提案からネットワーク構築までを手がけ、官公庁関連の売上高を拡大させていく方針。今年度は、官公庁関連で約210億円の売上高を見込んでいる。
今年2月からは、地方自治体や中堅企業向けに低価格化、簡単接続を実現した資産管理システム「Fsas資産管理統合システムLight」を発売し、新しいマーケットの開拓に注力している。