Special Issue
ユーザーの業務を知るからこそできるDX支援 複合機メーカーが語る オフィスITソリューション座談会
2024/12/26 09:00
週刊BCN 2024年12月23日vol.2042掲載
(司会・進行:週刊BCN副編集長 日高彰)
本体の台数は回復傾向 脱炭素への関心が高まる
本日は、複合機・プリンターを軸としたオフィス全体のITソリューション提案について、メーカー各社の皆さんにお聞きします。まずは複合機・プリンター市場の全体的な動きについてですが、コロナ禍以降、プリントボリュームの減少傾向に拍車がかかったと言われています。その後の推移はいかがでしょうか。佐々木(キヤノンMJ) コロナ禍での減少後、コロナ前の水準まで戻らずに微減が続いている状態です。複合機・プリンターの出荷は回復傾向ですが、集約して入れ替わる案件が増えています。
中川(富士フイルムBIジャパン) 当社で主力のA3複合機の出荷台数は、現状微増していますが、プリントボリュームはコロナ禍前までには回復しきれていません。
冨塚(リコージャパン) プリントボリュームがコロナ前に戻ることは無いことを前提に、ビジネスを考えています。個別の案件を見ると、事務所の集約などで台数が減少したケースもありましたが、一方で電子帳簿保存法(電帳法)対応でのスキャニングのニーズから、2022年にリコーグループとなったPFUが提供するスキャナーが伸びました。
直近で販売に力を入れた製品、サービスを教えてください。
中川(富士フイルムBIジャパン) A3機のハイクラス製品(印刷速度毎分60枚以上)より、それ以下のクラスの販売が増加しています。また、DTP向けに画質を訴求したプロダクションプリンターの「ApeosPro」は、今年上期に過去最高を記録しました。使用済み製品を分解・清掃・組み立てし、新品として品質を保証する「再生機」にも注力しており、23年上期から24年上期にかけて販売は伸びました。超大手のお客様は脱炭素の取り組みに積極的で、サプライヤーにも資源循環の促進が求められます。「(省資源化に向けて)提案できます」と話をするとお客様に興味をもっていただけるケースが増えましたね。
佐々木(キヤノンMJ) ミドル~ローレンジの製品が中心となって伸びています。プリントボリュームが減少する中で、台数を減らしてもミドルレンジ製品でプリント需要を賄えるという判断だと思います。昨年は、電帳法対応でスキャニングのニーズが高まりましたが、スキャン速度は上位機と下位機に極端な違いはないため、ミドル、ローレンジの製品でも対応可能です。環境対応ではカーボンオフセットへの取り組みに加え、環境対応に敏感な一部のお客様向けに再生機を提供しています。
冨塚(リコージャパン) 多店舗展開のお客様を中心にA4機のニーズが増加し、9月に発売した新製品が好調です。同じく今年投入した毎分70枚のA3対応高速機が、プリンターを集約したいという中堅~大手企業のニーズに合致し、好評を得ています。さらに環境対応では、現在A3、A4複合機ともに本体樹脂総重量の約50%に再生プラスチックを使用した優れた環境性能を備えた機種を発売しています。また、当社は再生機に20年以上前から取り組んでおり、環境対応にはかなり注力してきました。
複合機・プリンターという製品のこれからの見通しや、今後の事業の位置付けをお話いただけますか。
佐々木(キヤノンMJ) プリントが減少しても、スキャニングのニーズはあり、紙でないとできない業務や、ディスプレイよりも紙が優れる部分もあります。絶対数は減っても、複合機はなくならない。ディスプレイとのすみ分けが今後の提案のポイントになると考えています。
中川(富士フイルムBIジャパン) クラウドシフトで、複合機はその入り口と出口のインプット、アウトプットデバイスとして、業務インフラの一部に位置付けられていくでしょう。当社はスキャンデバイス、OCRや画像処理技術なども有しており、部分最適ではなく、アナログ部分を残さずにお客様の基幹システムにデータを取り込み、出力可能なソリューションを提案できることが強みになります。
冨塚(リコージャパン) 複合機はDXを支えるエッジデバイスであり、そこに何が求められるかを重視した取り組みに注力します。インプットでは、紙やファクスといったアナログデータのデジタル化が求められます。アウトプットでは、簡単にどこでも印刷あるいは閲覧・活用できるソリューションが必要です。インプットした情報を、アウトプットまでの間のプロセスを含めて業務に活用できるよう、「RICOH kintone plus」のようなデータ利活用を支援する仕組みも提供していきます。
単体の販売から総合的な提案へ ユーザー企業の業務を知る接点が強み
では、複合機・プリンターから話題の幅を広げて、ここからはオフィスITソリューション全体の取り組みについてお聞きします。オフィス業務の中で複合機に密接な領域では、先ほど電帳法への対応が話題にあがりました。佐々木(キヤノンMJ) 特に中小企業の方々に向けたご支援に注力してきました。当社の複合機と、戦略的業務提携をしているNIコンサルティングのクラウドサービスを連携した法令対応のほか、業務のデジタル化と生産性向上を支援するDX化の取り組みを進めてきました。電帳法は今年1月に対応が義務化されましたが、上期まで案件は続いていました。直近でも以前ほどではないですが、需要は残っています。
中川(富士フイルムBIジャパン) 当社も、電帳法対応の施策としてスキャンソリューションの提案に力を入れたほか、IT導入補助金の申請支援にも取り組みました。今は、導入後の運用課題として、DX推進を含めて「部分最適」をいかに業務の「全体最適」に仕向けていくかがかぎとなっています。中堅・中小企業では業務ごとにITツールの導入が進んだ一方、例えば会計をデジタル化してもその周辺にアナログ業務が残るといった課題があります。その解決に向けた提案を強化しています。
冨塚(リコージャパン) 23年から電帳法対応に注力した中では、電帳法に関わるデータを容易に保存できる「RICOH 証憑電子保存サービス」を提供し、好評でした。当社には、自社や協業パートナーの製品・ソリューションを組み合わせ、中小企業向けに業種・業務別の課題解決提案をパッケージ化した「スクラムパッケージ」があり、丸ごとお客様に提案できることが強みです。そこでの課題解決を切り口に、複合機販売につなげる施策を進めています。
大手企業のほとんどは何らかのかたちでDXに取り組んでいますが、中堅・中小企業ではIT活用の必要性を感じていても、まだ具体的な動きには至っていないケースが多いように見受けられます。
中川(富士フイルムBIジャパン) 中堅・中小企業のIT導入は、例えば電帳法対応やオンプレサーバーのクラウド移行など個別の取り組みにとどまっている状態だとみており、IT人材不足や業務の属人化といった課題がより顕在化しています。そこで当社は中堅・中小企業に向けて、ITの運用管理の代行や、利用環境の改善の支援を行う「IT Expert Services」などを提供しています。
佐々木(キヤノンMJ) 目先の対応に追われており、広い視点でITをどう活用すべきか分からないというケースが多いため、単発のソリューション提案ではなく、お客様のシステムを含めたIT関連のお悩みを丸ごと任せていただき、ソリューション導入から運用保守までを担う提案に力を入れています。
冨塚(リコージャパン) 外部にITを丸ごと任せたいという要望が強いですね。リコージャパンはPC導入やネットワーク構築から運用保守まで一貫して対応しています。後継者問題も切実ですので、属人化を解消しながら生産性を高められる提案が重要と考えます。
ITソリューションの販売や運用サービスは多くの事業者が手がけていますが、ユーザー企業がDXを推進するにあたって、皆さんのような複合機・プリンターメーカーを頼りにするメリットはどこにあるのでしょうか。
冨塚(リコージャパン) 複合機はどのオフィスにもあり、業務の要である紙のインプット、アウトプットの役割を担っています。言い換えれば、お客様がどんな帳票を使用し、何をスキャンし、印刷しているのかを知っているので、業務の流れが分かる。だから、課題が見えるという強みがあります。
中川(富士フイルムBIジャパン) 当社は、お客様の業務プロセスを理解し課題を共有することを特徴としていて、またそれを強みだと感じています。この強みを生かし、お客様が抱える問題の本質を理解した上で、最適な解決策を提供しています。また、販売パートナーを含む全国ネットワークがあり、数多くのお客様に細やかな対応ができるのも私たちの特徴です。
佐々木(キヤノンMJ) 複合機は一度導入いただくと、少なくとも5年程度はお客様とのお付き合いが続きます。その中で業務の課題を知り、提案に結び付けられます。実際、お客様からのご相談の幅も、最近はかなり広がっています。お客様のお悩みにフィットするよう、取り扱うソリューションの幅をさらに拡大していきます。
業種・業務に対応した独自のITソリューションを提供
オフィスITソリューション事業の戦略的な拡大に向けて、どのような取り組みをされていますか。佐々木(キヤノンMJ) 当社は、NIコンサルティングとの提携で「NI Collabo」を提供しており、当社の複合機から、グループウェア「NI Collabo 360」へのシームレスな連携が可能です。電帳法対応が落ち着く中で、今後はDX推進の一環となる営業力強化の提案をしていきます。中堅規模以上の企業に向けては、電帳法に対応した取引関係書類を管理する基盤となる「DigitalWork Accelerator」を軸に考えており、業務プロセス変革の支援をしていきます。
中川(富士フイルムBIジャパン) 複合機を起点に何らかのソリューションを加えることでDXを推進する「複合機DX」の取り組みを進めています。具体的なソリューションとして、ドキュメントの取り込み・仕分けやデータ共有のためのクラウドサービス「FUJIFILM IWpro」を組み合わせた課題解決、業務改善を提案しています。FUJIFILM IWproを用いることで、業務プロセスやシステムをワンプラットフォームでつなぐことが可能です。
冨塚(リコージャパン) 複合機単体の導入は難しくなっているので、業種・業務ごとの課題をいかに解決できるかを重視した提案を進めます。具体的には、スクラムパッケージを軸にした業種・業務向け提案です。また、ファクスの受発注が残るお客様には、エッジデバイスの機能を簡単に拡張できるアプリケーションを組み合わせた提案につなげるなど、業務カットから入り、途切れないアプローチをしていきます。
複合機を軸にしたITソリューションの提案で、引き合いが増している商材はありますか。
佐々木(キヤノンMJ) 23年まではインボイス、電帳法など法令対応が中心でしたが、最近は大手企業に向けては拠点間の効率化に向けたDXの提案が増えています。中小企業には請求業務、営業力強化などにフォーカスした提案をしていますが、25年10月の「Windows 10」サポート終了を見据えたPCの入れ替えニーズも高いですね。
中川(富士フイルムBIジャパン) 他社商材も含め取り扱い製品をさらに拡充しており、稟議フローソリューション、クラウドストレージ、セキュリティー関連、GIGAスクール端末とその搭載ソフトなどが伸びています。大規模ユーザー向けでは、ドキュメントハンドリング・ソフトウェアの「DocuWorks」で万単位のライセンスを導入いただいた自治体の事例が生まれています。中小企業向けでは、業種別・業務別に構成したDXソリューション「Bridge DX Library」のラインアップが100種類を超えました。
冨塚(リコージャパン) 当社は、中小企業のお客様へPCやネットワーク機器を数多く導入し、保守を含めて丸ごとサポートするサービスを提供してきました。最近は特に、RICOH kintone plusの販売が好評です。リコーは「kintone」認定資格保有者でNo.1の企業で、kintone支援センターを設立し、高度なアプリ開発にも対応しています。また、クラウドのファイル共有サービス「RICOH Drive」が脱PPAP対策やBCP対策で引き合いが増えました。一方、大手企業はAIへの関心が強く、当社で展開しているAIソリューションのご提案が増えています。
25年のPC入れ替え需要はチャンス 販売パートナーを幅広く支援
25年の市場をどのように見込んでいますか。また、需要が期待できる商材と、その販売施策の計画を教えてください。佐々木(キヤノンMJ) 大手企業ではクラウドが普及しており、複合機もクラウドストレージやクラウド認証基盤への対応が求められます。当社はすでに各種クラウドサービスに対応していますが、つなげた後の機能活用がポイントと考えています。中小企業では、PCの入れ替えと、それに伴うクラウド利用を含めたストレージ移行などのニーズが生まれます。そこに、簡単かつ運用を含めてお任せいただける総合的なソリューションを提案していきます。もう一つ、力を入れるのが業務・業種向けソリューションで、「業務DXシリーズ」の名称でリリースしていきます。
中川(富士フイルムBIジャパン) 25年のPC入れ替えのニーズをDocuWorksの拡販につなげます。もう一つはOCRやAIで、FUJIFILM IWproの価値を高めるため、ベンダーとの連携強化やクラウドストレージサービスの拡充を図るなど、ソリューションの幅を拡大します。大手向けでは、富士フイルムビジネスイノベーションが100%子会社化した富士フイルムRIPCORD(リップコード)の文書電子化サービスの提案にも力を入れ、大量の紙文書をスキャニングし、データとして活用できる環境を提供します。
冨塚(リコージャパン) 直近ではWindowsマイグレーションに伴い、PCの需要が大きく、各種サービスと合わせて訴求しています。また、郵便料金の値上げ対策のソリューションも強化しています。長期の視点ではAIに注力しています。中小企業に向けては「Microsoft Copilot」を中心に提案し、大手・中堅企業には今年新たにリリースした「RICOH デジタルバディ」というAIソリューションを提供します。これは利用者の質問に対し、生成AIが企業内のナレッジを活用して回答し、業務を支援するものです。GX(グリーントランスフォーメーション)も大きなキーワードで、長年のノウハウをもとにお客様環境を診断し、対応策を提案するコンサル的な活動に取り組みます。
これまで複合機・プリンターの取り扱いを主力としてきたパートナーに向けては、IT商材の販売をどのように支援していきますか。
佐々木(キヤノンMJ) クラウドサービスの販売では、当社の複合機をクラウドサービスに容易に接続できる「Cloud Connector」という機能拡張アプリがあります。複合機でスキャンした文書を各種クラウドストレージへ直接保存したり、ストレージ上のファイルを直接プリントしたりできるようになります。販売パートナーの方々にもお客様にも便利なツールですので、まずはこれを試用いただく取り組みを進めています。また、前述の業務DXシリーズではサポート窓口の体制を強化しています。お客様の業務を実際に知るパートナーに販売いただき、その後はしっかりしたサポートを当社がお客様へ直接ご提供できる仕組みとしています。
中川(富士フイルムBIジャパン) 販売パートナー様の提案活動の支援はもちろんのこと、商材を理解いただくための動画でのサポートのほか、FUJIFILM IWproや「業務別らくらくスキャン」を提案するためのトレーニングによるスキルアップ、さらに自社で実際にFUJIFILM IWproを活用してもらう取り組みを進めています。販売パートナー様のフェアに当社が出展・支援する活動もしています。また、9月に発売した複合機の新製品「Apeos C3067」は、スキャンやファクス受信などが行える機能がプレインストールされており、販売パートナー様がお客様先に複合機を設置する工数を低減した仕様としています。販売パートナー様のニーズや要望を製品・ソリューションの企画・設計に反映させることが、今後ますます大事になると考えています。
冨塚(リコージャパン) これまでお話した業種・業務向けの提案や、ICTの提案から複合機の販売につなげるシナリオを、販売パートナーの方々にも展開してもらう取り組みを進めています。特に、業種・業務におけるお客様のお困りごとをしっかり拾い上げ、それがソリューションにどうつながるかをパートナーの方々に説明し、ともに課題解決に向けた提案をしていく施策に力を入れていきます。
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外部リンク
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富士フイルムビジネスイノベーションジャパン=https://www.fujifilm.com/fb/company/fbj