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トップ対談 ネットワンパートナーズ 代表取締役社長執行役員 田中拓也 シスコシステムズ 代表執行役員社長 濱田義之 「AI」と「セキュリティー」で日本の成長に貢献する

2024/11/07 09:00

週刊BCN 2024年11月04日vol.2036掲載

 昨今、大きなテーマとなっている「AI」と「セキュリティー」。この両者を本年度のビジネスの柱に据えるシスコシステムズの濱田義之・代表執行役員社長を迎え、ハイバリュー・ディストリビューターとしてシスコ製品をパートナーに提供しているネットワンパートナーズ(NOP)の田中拓也・代表取締役社長執行役員がホストとなり、ビジネスの展望と取り組み、パートナーとの協業やサポート、さらに日本における人材育成まで幅広いテーマを取り上げ、意見を交わした。
 
(左から)ネットワンパートナーズ 代表取締役社長執行役員
田中拓也
シスコシステムズ 代表執行役員社長
濱田義之


使い続ける忍耐力が重要とにかく一歩を踏み出す

田中 今、生成AIブームで成長の機運が高まっています。当社でも、技術者向けの会員サイト「NOP TECH INFO」上のWeb経由の問い合せでは、関連FAQのレコメンドにAIを活用していますが、外販ビジネスとして考えたとき、パートナー企業、ベンダーの方々とどのように提案していくのか、試行錯誤が必要と考えています。プラットフォームを提供するベンダーとして、シスコさんの取り組みを聞かせてください。

濱田 大きく二つの取り組みをしています。一つは、シスコ製品における活用です。「Cisco Networking Cloud」「Cisco Security Cloud」など、私たちが元々持っているポートフォリオをプラットフォーム化してお客様に提供しています。その中で課題は、複雑化しているものをどのようにシンプルに提供するかです。特にセキュリティーは人力では対応が難しくなっており、AIアシスタントを実装することで、専門知識がなくても容易に導入・運用できるようにし、デジタル化を推進していただけます。もう一つは、AIインフラを構築したいお客様に向けてソリューションを提供し、その基盤づくりに貢献することです。

田中 特に後者(AIインフラの構築)について、シスコさんでは、自社の開発リソースによる対応と、エコパートナーシップの拡大、どちらを主に進めていくのでしょうか。

濱田 今のところ、自社開発と協業の両軸で取り組みます。今年米NVIDIA(エヌビディア)との戦略的パートナーシップ締結について発表しましたが、企業がセキュアなAIインフラをサーバー、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェアを含むフルスタックで、迅速かつ容易に展開・管理できるよう支援します。一方、GPUクラスターとしてサービス化を目指される事業者向けには、NOPさんと共に進めている基盤とソフトウェアの組み合わせをシスコが検証済みの構成として提供する「Cisco Validated Design(CVD)」を、お客様が選択しやすいかたちにして提供します。

田中 人間ができることを100%とすると、多少の前後はあるものの、ICTの力で50~60%はカバーできているかと思います。加えて、ここ数年の各企業の自助努力により可視化ツールの活用が広がり、見える化が進んだ結果、さらに10~20%がカバーできている。まだカバーできていない残りの部分をAIで補う。そのギャップフィルをどう捉えるかですが、同業他社とも話をする中で私が感じたのは、短期のROIを求めるべきではないということです。AI導入は単年度で成果が出るわけではなく、またスモールスタート向きでもない。経営者が不退転の覚悟で全社的に導入し、それを使い続ける忍耐力が重要と考えますが、濱田さんはどう思いますか。

濱田 同感です。インターネットの黎明期と重なるところがあり、自社ビジネスに役立てられるのかを考え、いち早く腰を据えて活用に取り組んだ企業が先行者利益を享受しました。その意味からも、まずはAI活用に一歩踏み出すことです。昨年実施したシスコのAI成熟度指標によると、日本企業は計画段階では他の先進諸国と同レベルですが、展開、活用に向けた準備状況は他社の様子見で、かなり後れを取っています。クラウドや時間貸しのサービスを活用するなどして、多くの社員にAIを経験させることが大切で、上流に当たるソフトウェアの作成を目指すべきだと思います。

AIへの取り組みが日本の勝ち負けを左右する

田中 AIへの取り組みは、企業だけでなく国としての競争力にも影響を与えます。今、日本が積極的に取り組まなければ、手遅れになり、途上国に一気に追い抜かれてしまう可能性もあります。濱田さんは、アジアにおける日本のリーダーという立場ですから、負けるわけにはいかないですね。

濱田 最近の日本政府の方針には勇気づけられています。AIへの投資拡大や、GPUをas a Serviceとして利用するための補助金によって、ベンチャー企業には立ち上げやすい環境が整いつつある。欧米では、AIに仕事を奪われるという懸念から規制の議論が先行しがちですが、日本は労働人口の減少への対処が急務であるため、そうした心理的な障壁がありません。また、英語版をそのまま使うことが難しいという特性もあり、日本には大きなチャンスがあると考えています。

田中 これまでの50年間、日本は欧米のテクノロジーを使って生活してきました。ようやく日本にもチャンスが出てきたわけですが、AIの活用が勝敗を左右するので、このモメンタムを大切にし、われわれも強く関わることが重要だと感じます。当社は、パートナー企業がお客様なので、パートナーの方々と共に、今後の日本をどのように活性化していけるのかを真剣に考えていきたいです。

濱田 シスコは米国企業ですが、根底のカルチャーはつなぐことで、そのテクノロジーとイノベーションを使い、次の未来を切り開いていくことを目指したい。少し昔の話ですが、私が2016年にシスコに入社した時、IoTに注力するという取り組みにいち早く賛同いただいたのがNOPさんでした。当時は、懐疑的な意見もありましたが、それが今や10倍のビジネスに成長しています。ただ、米国版をそのまま展開しても決してうまくはいかなかった。AIにおいても、日本の事業のやり方、商流にうまく合わせて、パートナーの方々と一緒につくっていくことが不可欠と考えています。

田中 AIはこれまで一部の専門分野での利活用が主でしたが、ここ数年で適用範囲が拡大し、さまざまな分野に導入されています。これまで限られた人々しか享受できなかった技術は、デジタル格差を感じていた方々を含む幅広い分野で活用され、日本社会に貢献できると考えています。

濱田 デジタル格差の解消については、政府の取り組みにも期待したいですし、日本がブレークスルーするための良いチャンスです。実際、AIの要素技術に使用されるものについては、日本はかなり強みがあります。

新たに「シスコセキュリティ」に触れるパートナーを幅広く支援

田中 次に、セキュリティーをテーマにしたいと思います。当社では、「シスコセキュリティ」のビジネス強化に向けて、セールスエンジニアリング部門内の組織改編を行い、ネットワークとセキュリティーのチームを統合したシスコセキュリティ専任チームを立ち上げ、ワンストップで技術支援ができる体制を整備しました。そして9月に、新たにシスコセキュリティを取り扱うパートナー企業向けに、PoCから構築・保守、活用を支援する「PoC & CXサービス」の提供を開始しました。サービスを利用することで、パートナー企業の皆さまはこれまで知見・ノウハウ不足によって提案ができなかった製品についても、質の高い提案や案件を遂行することができます。まず「Cisco Secure Connect」からスタートし、順次、対象製品を拡大していきます。

濱田 とても心強い取り組みと、感謝しています。シスコが、昨年買収した企業の大半はセキュリティー関連の企業で、米Splunk(スプランク)には4兆円以上も投資しています。また、「Cisco Secure Connect」「Cisco Secure Access」といったネットワークセキュリティーのソリューションをリリースしました。シスコはSSE(セキュリティーサービスエッジ)分野では後発ですが、その分、買収した企業のソリューションの寄せ集めではなく、一から設計した最新のソリューションになっています。実際、ネットワークとの親和性の高さ、既存環境との連携も容易であるため、お客様からもご好評いただいております。

主要な政府機関などと連携 人材育成を通じ日本の成長に貢献

田中 セキュリティー分野の人材不足について、どのような展望を描かれていますか。

濱田 シスコ単独ではなく、パートナーの方々、時には競合他社とも連携し、日本のデジタル化を加速する動きに貢献したいと考えています。AIと密接に関連するセキュリティー分野においても、NOPさんをはじめとするパートナー、政府機関とのパートナーシップを強化し、日本のサイバーセキュリティー対策、デジタルレジリエンス強化に向けた支援をしていきたい。今年6月に日本のナショナルセキュリティーとデジタルレジリエンス強化に向け「サイバーセキュリティー センター オブ エクセレンス(CoE)」の開設を発表しました。世界最大規模のデータ解析を行う脅威インテリジェンス組織「Cisco Talos」を日本でも展開するとともに、日本のサイバーセキュリティー人材の育成を推進します。

 CoE開設では、今後5年間で新たに10万人のITおよびサイバーセキュリティーの学習者に研修を提供する目標を設定しました。旧来、シスコネットワーキングアカデミーの対象者は学生でしたが、今回は社会人も対象です。日本のデジタル化が停滞すると、AIの活用だけでなく、日本のビジネスや国力低下につながり、さらにアジアの停滞も招きかねません。それはわれわれのビジネスにも跳ね返ってくる。そうした事態を避けるためにも今、取り組まなければならない危急の課題と考えています。

田中 日本における人材育成の強化に深く共感いたします。これは実情に精通したベンダーにしかできないことですし、一方、ベンダーの多くはROIを考えて足踏みしてしまいます。そこをシスコさんが日本で地に足をつけて取り組まれるのはとても頼もしいですし、われわれもその活動にぜひ協力していきたいと考えています。

 ネットワングループではイノベーションセンターを開設し、パートナー企業、ユーザー企業、ベンダーの方々との「共創」を軸に、イノベーションの創発を目指しています。開設にあたり、このような施設の必要性について、社内でも賛否両論がありました。ただ、多くの人が集い、交わり、コミュニケーションがとれる場をつくることで、新しい発想が生まれ、それが新たな価値を生むことにつながる。その意味からも、シスコさんが提供するセキュリティー人材育成の場は、とても重要な役割を果たすと期待しています。
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外部リンク

ネットワンパートナーズ=https://www.netone-pa.co.jp/

シスコシステムズ=https://www.cisco.com/c/ja_jp/