Special Issue
東京大学 ウェルビーイングから見る、AI時代における学校教育の未来 「心のエンジンを駆動させる」教育が未来を創る
2024/10/03 09:00
週刊BCN 2024年09月30日vol.2031掲載
また同調査では、学力・公平性・ウェルビーイング(満足度・幸福度。以下WB)の3項目が上昇した国が、OECD加盟国の中で日本と韓国、台湾、そしてリトアニアの4国のみだったことも明らかになった。「GIGAスクール構想を通じてICTリソースの利便性も高まった。また日本では、学校を『学びの共同体』と位置づけ、学校・学級単位でのコミュニティ形成を図っており、学校への所属感についても良好だ」と鈴木氏は解説した。
しかし課題もある。WBにおいて最も重要なことは、との問いで一番に挙げられた「保護者との関係」について、日本は調査国中最下位。また、自律的な学習意欲や人生の意義・目的を感じている生徒の割合も最下位であり、鈴木氏はこうした背景が不登校の問題にもつながっているとしつつ、現代の子どもたちには「自分自身への肯定感や有用感がない」と論じた。
教育基本法に基づく教育振興基本計画の中には、このWBの向上を重視する姿勢が見られる。同計画においては最上位目標の一つに設定されており、多様な教育ニーズへの対応やSteam教育の充実、コミュニティスクールと地域学校協働活動との一体的推進といった施策や基本政策が盛り込まれている。
こうしたWBを実現する施策には、教育DX環境を通じた個別最適化が不可欠だ。生成AIの活用が急速に進んでいる現代社会において「覚えたマニュアルを正確かつ高速に再現する」という工業社会型の人材は、今後AIに取って代わられる。これからの社会では「生成AIを使いこなしながら探究をする力」が重要になるという。
「必要とされるのは、自問自答と他者との対話によって育まれる『問う力=探求力』。好きなことを探し、実体験で触れることでそれを見つける探究学習と、それを支える知識・技能学習との往還(ループ)が、自分の好きなことに夢中になれる、いわば『心のエンジンを駆動させる』ことにつながる。これからの学校教育は、従来の講義中心から、特性に応じた1対1を重視する探究・協働学習が中心になる。この実現のため、ITベンダーの皆さんには教育DXの環境整備に引き続き助力を願いたい」と、鈴木氏は講演を終えた。
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