Special Issue
サードウェーブをひも解く 綾瀬本社工場 多品種・変量生産を可能にする生産DXと人材育成
2024/08/29 09:00
週刊BCN 2024年08月26日vol.2027 第2部掲載
変動する需要に対応しながら 最短翌日出荷を実現
綾瀬本社工場は2013年、神奈川県綾瀬市に開設されたサードウェーブの一大拠点だ。日本通運との協業によって生産と物流を一体化した体制を築いており、最短翌日出荷を実現している。「受注生産のため生産量は変化するが、月産能力は4万台を想定しており、法人顧客からの注文が集中する3月でも生産能力がボトルネックになることはない」と飯生氏は説明する。この生産能力の背景にあるのは、デジタルやロボット、AIといった技術の活用だ。例えば、CPUとメモリーをマザーボードに組み付ける工程でロボットを活用している。繊細かつ高価なパーツであり、ピンを1本でも折ってしまうと使い物にならないため、PC生産で特に気を使う工程だという。作業自体は比較的単純だが、いかに職人といえどごくまれに破損してしまう。そこで同工場ではロボットに組み付け工程を行わせることで、効率的かつミスのない組み付けを実現しているのだ。
多品種・変量生産を実現する 生産DXと人材育成
サードウェーブではDXの推進によって、多品種・変量生産において課題となる品質管理と生産性向上に対応している。例えば各作業や使用したパーツは全てデータ化して記録し、そのビッグデータを生産や修理に活用している。また、PCが修理に出された場合は独自開発のシステムとAIを活用してイベントログなどを解析し、原因を部品単位で突き止める。同工場内で「結果品質の管理」と呼んでいるこの取り組みによって、同一ロットのパーツ使用の中止などによる波及性阻止を実現できているのだ。もう一つ、生産性向上のため行っているのが「投入順序制御」である。注文情報を受け取ると同時に、どの工程を誰が担当すれば生産性が高まるかを独自開発システムが的確に判断する。
そのような生産DXを実施しつつ、継続的なトレーニングによる組み立て担当者のスキル向上にも取り組んでいる。専属トレーナーによる1カ月間の研修を終えた従業員は、まずカスタマイズが比較的少ないライン生産に従事し、担当工程のスキルを集中的に会得する。
そこで1年以上の経験を積み、社内認定試験に合格すると「職人」と認められ、美的感覚も求められるLED搭載パーツや高額なグラフィックボードの組み付けなどを担当するようになるのだ。「難易度の高い工程では職人の技も光っている」と飯生氏は熱く語る。
ユーザーと開発陣の思いを裏切らないために入念なテストを実施
組み付けの終わったPCは、入念なテスト工程を行った後に出荷される。まずはBTOで指定された通りの構成になっているか、見た目に問題がないかをチェックする。その後に、独自開発の生産システムを用いて、当該構成に必要な検査項目を自動的に作成。OSをインストールした上で、仕様通りのパフォーマンスが実際に出ているかを確認していく。そして、LEDの発色や輝度、音声のノイズなど、現段階ではAIに任せきれない検査項目についても、人間による官能検査でチェックする。また、独自開発の生産システムによる自動検査を組み込み、人間と機械の両方の能力を活用して念入りにチェックを行っているという。サードウェーブによるこれらの検査をパスしたPCは、さらに日本通運の外観検査を行って傷や汚れのある製品を排除し、商品の一部である箱の外観検査も日本通運が行う。この検査もパスすれば晴れて出荷となるのだ。他社であり配送のプロフェッショナルである日本通運の確認を入れることで、検査基準の陳腐化や慣れによるチェック不足などを防いでいるという。
「ユーザーが必要なPCを、要求通りのスペックとクオリティー、そして適切な価格で素早く提供することが我々の使命だ。それは開発陣の思いをユーザーに伝えることでもある。ロボットやAIの活用と改善を続け、サードウェーブの成長につなげたい」と飯生氏は力強く語る。
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