Special Issue
サードウェーブの経営戦略 さらなる成長にはパートナー企業との密接な協力関係が不可欠
2024/08/29 09:00
週刊BCN 2024年08月26日vol.2027 第2部掲載
急成長する法人市場 実績あるコンシューマー市場も引き続き注力
2024年8月1日からサードウェーブは会計新年度を迎え、それと同時に井田晶也氏が取締役社長兼COOに就任した。これまでの副社長としての経験を生かし、同社の成長をさらに推進する意欲を井田氏は示している。「42期目となる今期は、組織の大改革を行い、コンシューマー市場だけでなく法人市場にも注力していく予定だ」(井田氏)同社はコンピューター関連機器の販売から始まり、ユーザーのニーズに応じてパーツを組み合わせオリジナルのPCを提供するBTO(受注生産)ビジネスで発展、さらにはゲーミングPCやハイエンドPCの提供などでも高い評価を得て、今ではPCメーカーとして盤石の地位を築いている。23年に井田氏が入社してからは、法人向けPC市場でもその存在感を急速に高め、23年秋には同社PCのリブランディングを実施した。そして現在、コンシューマー向けハイエンドブランドのGALLERIA、ビジネス向けハイエンドブランド「raytrek(レイトレック)」、そしてビジネス/コンシューマー向けメインストリームブランド「THIRDWAVE(サードウェーブ)」の3軸でPCを展開中だ。
法人向けに関しては、映像関連やCADなどの設計系、そしてゲーム開発など、同社が以前から得意とする業種業態にフォーカスを当て、ビジネス向けハイエンドPCブランドのraytrekで訴求していく。同時にパートナー企業との協力関係も強化し、大規模展開を図っていく構えだ。
また、昨年から大きな注目を集めているAIに関しても、AI対応デバイスの迅速な提供に加えて、「raytrek cloud」のようなAI活用クラウドサービスを展開し、さらにはローカル生成AIのサービスとして開発キット(SDK)も提供していく。新たなハイエンドワークステーションやAIの学習・推論が可能なPCの展開も視野に入れており、現在開発を進めている最中だ。
コンシューマー向けの戦略も明確で、「長年の信頼と実績を誇るGALLERIAブランドのゲーミングPCを軸に、アプライアンスやソフトウェアなどにより多様な製品を展開していく予定だ。法人向け事業についての発言が増えたことを受けて『従来のコンシューマー向けは縮小してしまうのでは』という不安の声をいただいているが、心配は全くいらない」と井田氏は説明する。
人と組織の連携度を高めてさらなるクオリティーへ
サードウェーブは神奈川県海老名市に企画開発拠点を持ち、同県内の綾瀬本社工場でPCを生産、そして同県平塚市にある物流倉庫で出荷を行っている。このように三つの拠点を同県に集約させているため、企画開発から製造そして物流までを効率的に進めることが可能だ。加えて海老名にはカスタマーコールセンターがあり、顧客の声を迅速に反映する仕組みも整っている。近接した地域での一貫生産体制があるからこそ、高品質のPCを迅速に提供できているのだ。サードウェーブがさらなる進化を遂げるにあたって「クオリティー」「ワン・サードウェーブ」「リザルトオリエンテッド」「イノベーション」の四つを重要なキーワードとしていきたい、と井田氏は語る。クオリティーは全てのベースラインであり、他社に負けない製品の提供は当然のこととして、その上でさらに抜きん出るためにあえて明言化しているという。ワン・サードウェーブは、約1200人の従業員がそれぞれの役割を全うしながら、全国の部署間での連携をより密にしていくことを目指してのことだ。
リザルトオリエンテッドは「結果主義」の意味である。「従来のサードウェーブはプロセス主義の文化が強かった。それは今後も維持しつつ、あわせて結果にも重きを置いていくために『リザルトオリエンテッド』という言葉を打ち出した」と井田氏は説明する。そして、AIの普及に伴ってPCの用途も多様化しつつある中、今後さらに必要となってくるのがイノベーションだ。
環境保護に向けてリファービッシュ事業を強化
持続可能性への取り組みが世界的に進む中、サードウェーブでも環境保護の一環として廃棄物の最小化に取り組んでいる。具体的には、他社のPCも含め、使用可能なパーツをリサイクルするリファービッシュ事業を展開中だ。現在はそれをさらに拡大するべく、平塚の物流倉庫内にリファービッシュ用のファンクションを設ける準備を進めている。PCの引き取りは通常だと有償なことが多いが、同社ではこれをサードウェーブPC購入者には一部無償で行っており、さらに対象PCのスペックによっては逆にサードウェーブ側が買い取り、回収することさえある。これは「トータルサービスを目指すのであれば古いPCの引き取りも役割の一環」という同社の考えに基づくものだ。特にゲーミングPCはサイクルが早く、1年程度で買い替えられることが多いため、リファービッシュ事業の重要性は高い。
このリファービッシュ事業は、SDGsの側面はもちろんのこと、ビジネスの面でもパートナー企業にメリットがある。「当社のPCを取り扱ってもらえることになった際に、古いPCの無料引き取りサービスを付加価値として提供できるだろう。そのようにしてディストリビューターの方々にも貢献していきたい」と井田氏は述べる。
さらなるパートナーとの協力が力強い成長のかぎに
このようにサードウェーブが目指す新たな市場展開において、極めて重要な要素となるのがパートナー企業との協力だ。「例えば法人市場に向けてraytrekの知名度をもっと上げていくためにも、パートナーとの協力が欠かせない」(井田氏)。サードウェーブの強みの一つは、顧客のニーズを踏まえた細かいカスタマイズへの対応力と短納期の実現だ。これは製品の信頼性と顧客満足度の向上につながるため、パートナー企業にとっても大きなメリットとなる。
また、全国に47店舗を展開していることから、保証やアフターサービスの提供も迅速に行える。このネットワークが構築されていることにより、パートナー企業からのサポート要請にも素早く対応可能だ。
特に教育分野では、学校に導入するPCだけでなく、生徒一人一人のニーズに応じた提案を検討しているという。「各地域にある”学校指定の文房具屋”のような存在に、ドスパラなどの実店舗がなれたらと考えている。また、小学校入学時に祖父母からランドセルを買ってもらうのと同じように、中学や高校入学時にはGALLERIAを買ってもらうといった”文化”を定着させていきたい」と井田氏は語る。
さらにサードウェーブでは、教育現場へのPC導入と合わせて、各地域のニーズに応じたサービスを全国の店舗を軸として提供することも目指しているという。例えば、中小企業が多い地域では企業へのサポートを強化し、住宅地では持ち込み修理のニーズに応える、といった具合だ。
「店舗に直接来て相談できることへの安心感は、特に従業員規模が50人以下の企業なら強く響いてくるはずだ。実店舗は言わばPCの駆け込み寺で、こうしたオンサイトでのサポート体制を整えることで、その地域の企業からの信頼を得ることができる。ユーザーのニーズへ応えられる場所を選定し、地域の特性に合った店舗やスタッフを増やしていく方針は今後も維持し続けていく」と井田氏は語る。
パートナービジネスの観点からも、ディストリビューターからリセラーへの展開は重要だという。「パートナーを通じて全国に数百カ所の拠点を持つことになる。そこで得たユーザーの声をフィードバックして反映させるという循環を、より迅速かつ柔軟に行えるようになると期待している」(井田氏)。
AIが市場を大きく変化──ニッチがメジャーになった!
AI対応型のPCに対して市場の注目が集まっていることを踏まえ、サードウェーブとしてもパートナーと協力しながら多彩な事業展開を図っていく予定だ。「AIを走らせるハードウェアはもちろんのこと、AIを使ったソフトウェアに関しても現在取り組んでおり、最終的にはインハウスでの開発を目指している。AIの進化に伴い、PCの買い替え需要が高まると予想されているので、その波を起こすような存在になれるよう励んでいきたい」(井田氏)。また、業種業界特化のAI戦略として、映像制作やCAD、ゲーム開発などの分野、そしてAIに関する大学や専門学校の研究室など教育分野へも訴求していくという。
「これまで当社はどちらかというとニッチなニーズに応える製品を作り続けてきた。それがAIのムーブメントで市場が大きく変わり、以前はニッチだったものがメジャーとなる時代となった。サードウェーブの製品もメジャーな市場で求められるようになるため、パートナー企業との協力を強化し、より高品質な製品と迅速なサポートを提供しながら、共に成長していきたい」と井田氏は今後の展望を熱く語る。
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