Special Issue

ITビジネス研究会 進むデジタル活用と進まない変革 目指すべきは人材育成とデータドリブン経営

2024/08/08 09:00

週刊BCN 2024年08月05日vol.2025掲載


 2日目のBCNセッション(特別講演)には、IT産業ジャーナリスト兼ITビジネス研究会・代表理事の田中克己氏が登壇。「DXの現実~進むデジタル活用、進まない変革」と題して、企業のDXがどこまで進行しているのか調査結果をもとに語った。

IT産業ジャーナリスト兼
ITビジネス研究会 代表理事
田中克己氏

 田中氏は、「『DX白書2023』(独立行政法人情報処理推進機構、2023年2月)によれば、DXに取り組んでいる企業は22年度で70%弱。21年度に比べて大きく進展している」と総括。ただ、それが成果につながっているのか、中身はどうなのかが問題と指摘した。

 例えば「成果が出た」と回答した日本企業は58%あるものの、米国企業では89%。成果の中身についても、ただのIT化に過ぎない「アナログ・物理データのデジタル化」が76.1%、「業務の効率化による生産性の向上」が78.4%と高率になっているのだ。DX本来の狙いである「新規製品・サービスの創出」の成果は24.8%、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」は21.5%にとどまる。

 また、「情報通信白書」(総務省)によれば、ICT市場の規模はこの33年間で1.9倍に拡張しているものの、時間当たりの労働生産性は日本生産性本部の集計では、この12年で約15%しか上がっていない。労働生産性が高い欧州では同じ期間に約100%向上しているのに比べると、明らかに低い数字だ。その要因の一つは、デジタル人材育成への投資の不足にあるという。

 では、日本企業がDXでビジネスの変革をするには、何をすれば良いのか。その一つの答えがデータドリブン経営だ。データに基づいて戦略を立案し、施策を実行する。そのためには、データ管理環境を近代化して内製化することが重要になる。「データドリブン経営が“PoC死”に陥らないようにするには、収集したデータをきちんと活用し、勘や経験よりもデータが示す現実のほうを優先すべきだ」と田中氏は指摘した。

 さらに、あるコンサルティング企業の分析によれば、IT化は短期決戦型なので90%程度の成功率が見込めるのに対し、デジタル化は長期決戦型なので成功率が25%程度。データ活用を成功に導く主な要因はスキルと組織にあるという。

 ソフトウェアの内製化の目的を「経費削減」から「DX推進」に切り替えることも重要だ。日本企業に特有の習慣病である「進化しない業務」「硬直化した組織と人材」「ITや新技術に対する誤解」を克服することも求められる。

 田中氏は「DXソリューションを提供するIT業界も、自らがデジタル企業となって生産性を高めなければならない」と指摘した。
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外部リンク

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