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ネットワンパートナーズ シスコのCX戦略をテーマにトップ座談会 日本企業のDX推進をサポートする「やわらかいインフラ」と最高の顧客体験

2023/05/04 09:00

週刊BCN 2023年05月01日vol.1967掲載

(左から)シスコの望月敬介副社長、三井情報の浅野謙吾社長、
IIJグローバルソリューションズの井上喜延社長、ネットワンパートナーズの田中拓也社長

 シスコシステムズ(シスコ)が2023年度の重点戦略の一つに掲げるカスタマーエクスペリエンス(CX)。今回、ディストリビュータとしてシスコ製品をパートナーに提供しているネットワンパートナーズ(NOP)の田中拓也社長がホストとなり、シスコの望月敬介副社長、さらにパートナー企業からIIJグローバルソリューションズ(IIJ Global)の井上喜延社長と三井情報(MKI)の浅野謙吾社長を迎え、CXへの具体的な取り組みと市場展開における課題、シスコの支援策とパートナー協業などをテーマに幅広く意見を交わした。

まずは、お客様とゴールを共有 CXはもはや「MUST HAVE」

Q NOP 田中 今までのネットワーク(NW)製品は導入して終わりで、導入後は維持だけにとどまり、それ以上の価値を訴求できませんでした。しかし、リカーリングやサブスクなど販売モデルが変化し、NW製品自体もハード中心から、ソフト主導に変わってきたことで、利活用によってエンドユーザー様に利益を生み出せる可能性が出てきました。これはNW業界全体に共通することですから、ぜひ、より多くのパートナー様と一緒にCXを推進したいと考えています。そこで、あらためてCXをどう捉えているのか、お考えをうかがいたいと思います。まず、インテグレータの立場からMKIの浅野さんはいかがでしょうか。
 
田中拓也
ネットワンパートナーズ
代表取締役社長執行役員

MKI 浅野 CXに限らない話ですが、これまで私たちのインテグレーションビジネスは受託や業務委託契約が主で、お客様が求める業務要件をITで実現することで成長してきました。そのためお客様の立場に立ってIT投資の目的やゴールを理解して一緒に歩むというスタンスは正直、あまり文化として根付いていませんでした。お客様のITに対する満足は、そのIT投資に対する目的やゴールに到達、または近づくことで得られるという基本に立ち返り、2年ほど前から「お客様がIT投資に対して求めるリターンを理解し、目指すゴールをお客様と共有すること」を強く意識して取り組んでいます。これまでの売り切りのビジネスでは、納入して終わりでしたが、リカーリングビジネスになると購入時だけでなく、利活用時の体験など、お客様の求めるゴールがステージで少しずつ変化します。その変化を理解しながら、お客様が満足する提案を継続するなど、CXを意識した取り組みを強化している段階です。
 
浅野謙吾
三井情報
代表取締役社長

Q NOP 田中 サービスプロバイダーの立場からIIJ Globalの井上さんはいかがですか。

IIJ Global 井上 私たちもお客様のゴールを共有することを重視しており、特に、私たちが提案していることが、お客様にとってどのような価値があるのかを日々、問うようにしています。マネージドサービスもその一つですが、4~5年ほど前から「戦略ワークショップ」というエンドユーザー部門も含めたお客様や関係者と当社のコンサルタントやアーキテクトが一体となり、ITインフラにおける中長期の戦略策定、つまりお客様のITのロードマップ作りを支援する取り組みを進めています。
 
井上喜延
IIJグローバルソリューションズ
代表取締役社長

 この取り組みは非常に好評で、年間で100社以上のお客様と実施しています。お客様が真に求めるものは単純なITツールではないと思いますし、情報システム部門の要件だけでなく、お客様の経営層も巻き込んで、その要件までを組み入れたソリューションこそが真のカスタマーサクセスにつながると感じ、取り組みを進めています。

Q NOP 田中 お二人のお話を受けて、シスコの望月さんはどう思われますか。

シスコ 望月 お二方のいう通り、お客様のゴールを理解しシステム構築にあたることはとても重要だと思います。その上で一点追加させていただくと、この時代、お客様のゴールや施策は往々にして変わりますよね。DX時代の特徴か、外的環境の変化に応じて昨今、多くのお客様は中計を修正しながら運用されていると聞きます。つまり私たちも「5年間耐えるシステム」を構築してはならないのであり、これからは「進化し続ける柔軟なシステム」を強く推奨しお客様に納めなければならない時代かと思っています。これもお客様を成功に導く私たちIT企業の役割ではないでしょうか。そう考えると、まずはインフラを柔軟な設計に切替える必要がありますし、納品したシステムの「進化」を永く支え続ける仕組み(CXやライフサイクル型支援)も今や必須と言って良いのではと思います。
 
望月敬介
シスコシステムズ
副社長執行役員

Q NOP 田中 パートナー様との動きの間にギャップは感じますか。

シスコ 望月 ギャップということではなく、これから皆様に一緒に進めていただきたいことが二点あります。一つめは、一件でも多くのお客様が「進化し続ける柔軟なシステム」に移行できるよう、今後は弊社の提唱する「やわらかいインフラ」のコンセプトに準拠した設計・導入に切り替えていただきたいということ。二つめは、前述の通りCXやライフサイクル型の顧客支援体制を早急に立ち上げていただきたいということです。ご要望いただいたパートナー様には現在も可能な限り立ち上げの支援をさせていただいています。

CXを担う専門組織を設立 独自の取り組みを進める

Q NOP 田中 次に、当社を含めた販売に携わる立場からの考え方を共有したいと思います。まず、当社の取り組みを紹介すると、CXライフサイクル全般にわたるサービスメニューを立案し、その中で、CX支援や再販トランザクションの効率化など、パートナー様が必要な情報をスピーディに提供するため「NOP CXポータル」をリリースし、第一歩としてサブスクの契約管理機能の提供を開始しました。また、パートナー様へのCX啓発活動としてシスコさんと共同でウェビナーやワークショップを実施したほか、大規模ソフトウェア販売プログラム(EA)への参画やパートナーのCustomer Experienceスペシャライゼーション取得支援も行っています。そこで、IIJ Globalの井上さんには、ビジネスの変化にどのように対応しておられるのかを、MKIの浅野さんには社内における取引の体制についてお話していただけますか。

IIJ Global 井上 ビジネス環境の変化に伴い、当社でもサブスク型のクラウドサービスを提供する割合が大きくなってきました。外資系のクラウドサービスでは、お客様によるセルフマネージを前提としていることが多いですが、日本の情報システム部門は、人材やスキルの不足が慢性化しており、高度化する運用をプロにアウトソースせざるを得ない状況です。そこで当社では、情報システム部門の運用フェーズでの役割を含めたICT運用全体の再設計を行い、アウトソーシングサービスを含め、最適化するソリューションを提供しています。

 また、CXの観点からエンジニアを中心とする「カスタマーサクセス本部」を設置。そこでは運用部分で新しいことに取り組み、クロスセル、アップセルにつなげるなど、お客様に取引を続けていただく活動に注力しています。
MKI 浅野 会社の収益基盤の強化と安定化に向け、売上高に占めるリカーリング事業比率の向上を目指しています。そのリカーリング事業に欠かせないCXやカスタマーサクセスを意識したメニューを自ら企画・提案し、お客様との関係を長く維持する活動を強化するため、2年前にCXを意識したリカーリング事業を先導する組織「マーケット推進部」を立ち上げ、「Box」などのクラウド商材を中心としたサービス提供をしています。具体的には、お客様のサービス活用度合いや興味に応じた個別のメール配信や、ロイヤルカスタマー向けワークショップの開催、さらにシステム利用者の満足度調査を実施するとともに、Boxと米ServiceNow(サービスナウ)のプラットフォームとの連携をはじめ自らのPoCで得た知見をお客様にも利活用情報として提供するなど、CXを意識した活動を深化させています。

 また、シスコさんの製品でいえば、2019年に三井物産に導入した「Cisco DNA Center(DNAC)」の事例の知見を基に、より小規模な環境に適応できる「Cisco DNA Center Easy Start」というネットワーク基盤の簡易的な導入・管理・障害対応などの支援サービスを開始し、マネージドサービス化して月額で提供しています。

Q NOP 田中 シスコさんのパートナー様に向けた施策を説明していただけますか。

シスコ 望月 当社のビジネスはこれまでもパートナー様との協業モデルのもとで成り立っていますので、この根幹は崩してはならないと考えています。ただ市場の変化もあり、この関係は次のステージへと進化させる必要があると感じています。例えば、まずはポストセールスの仕組みを旧来のBreak & Fix型の保守からライフサイクルモデルへと切り替えていただくことが前提ですが、その上で当社からパートナー様に対し、お客様へのライフサイクル支援で必要となるデータや仕組みを多々準備しており、既に一部パートナー様へはご提供中です。

 また、マネージドサービスのニーズが高まる中、サービスメニュー化を急がれているパートナー様へは、例えば当社が裏方としてソリューションを部品提供させていただくことでパートナー様のビジネスに貢献したいと考えています。ただ、この場合も運用効率化やセキュリティに関わるソフトウェア製品群が主となりますので、同様にライフサイクルモデルへ移行済みであることが前提になります。

Q NOP 田中 シスコさんの新しいサポートサービスメニューであるPLS(Partner Lifecycle Service)はどのような位置づけですか。

シスコ 望月 旧来のBreak & Fixモデルの保守(PSS)からライフサイクルモデルへ切り替えられる上での移行先となります。23年の後半に正式に販売開始となる予定ですが、既にパートナー様2社には先行して移行のパイロットを実施いただいている状況です。

「やわらかいインフラ」への移行をパートナーとともに展開

Q NOP 田中 これまでのお客様のからのフィードバックも含めて、CXのライフサイクルを考えた時に、課題や不可欠と感じられていることはありますか。

IIJ Global 井上 顧客体験という意味では、これまでのお客様は情報システム部門の方々でした。最近では、DXの冠が付いた新しい部門になられているケースも多くなり、企業としてデジタルデータをしっかり活用し、ビジネス化していこうという動きが目立ってきました。その中にあっても、相対するお客様自身が認識できていない、課題と感じられていない潜在的なテーマに対して、私たちは前述した戦略ワークショップをはじめ、日々のコンサルティングやサポートの中から蓄積されて得た知見、つまりインサイトをどこまで深く、広く提供できるのかというのは課題になってくると考えています。そのためにも、また、お客様と長いお付き合いを続けていくためにも、よりビジネス価値にフォーカスを当てていく必要を強く感じています。

MKI 浅野 CXに限らず、お客様とIT投資に対する目的やゴールを共有することが重要とお伝えしました。しかし、お客様によっては、EOL・EOSといったタイミングに迫られてIT投資の検討を開始し、IT投資の目的やゴールを整理せずにIT導入するケースも少なくありません。その結果、各IT製品・サービスの一部機能の活用にとどまり本来の費用対効果が出せないとか、IT費用を先行投資ではなくコストとみなして金額の高い・安いだけで評価するなど、お客様と本質的なコミュニケーションが取りにくい状態になりがちです。そこで、当社のITコンサルタント・ITマネジメント人材を初期段階から活用し、ネットワーク、クラウド、業務システムを問わず、まずはお客様自身が抱える課題の可視化や整理から入り、IT全体の設計や各IT投資のゴール設定を支援し共有することで、認識の違いを生まないようにしています。

シスコ 望月 とても基本的なことですが、一つにはライフサイクルの起点は、まずはフロントの営業が新たなソリューション「New(新規)」をきちんとバリューセリングする習慣から始まります。会社が短期的指標を求める余り、現場が製品の価値を十分に説明しないまま販売し、結果、お客様の不信・不満を買い「Churn(解約)」されるケースは珍しくありません。特にさまざまな製品を盛り込んだエンタープライズ契約(EA)などは、現場が売り方を誤らないよう会社は十分に監視し続ける必要があります。これは過去に大失敗を経験してきた多くの先人たちに学ぶ必要がありますね。

 二つめに、最初に大きく売ることばかりを評価する時代は終わったということだと思います。井上さんや浅野さんが言及されているように「顧客価値」を捉えた提案を大前提とし、導入後の利活用を進め、効果を出し、確実な「Expansion(数量の増加)」や「Extension(期間延長)」につなげなければなりません。

 以上二点、どちらも経営者である私たちのマインドセット変革と覚悟が最も重要だと思うのです。ライフサイクルモデルへの進化とは、「顧客との向き合い方」を見直すことであり、私たちの「経営改革」そのもののように思います。

NOP 田中 当初、NW基盤に対するCX活動が何であるかイメージが湧きませんでしたが、CXライフサイクルとNW案件を当てはめた時、「導入後」から始まるのではなく「導入前」のフェーズの重要性に気づきました。SaaS商材では導入後の利活用支援がCXとしてフォーカスされがちですが、NW案件では構築期間中の技術支援もそれ以上に重要と強く感じています。そこで、当社ではサービスインに至るまでのパートナー様の支援をいかにサービスとして確立できるかも検討していきたいと思います。

オンプレ志向からの脱却 CX推進に人材育成は不可欠

Q NOP 田中 今後の取り組みについて教えてください。

IIJ Global 井上 日本のお客様は今もオンプレ志向が強く残っています。今はクラウドを活用する提案のみですが、現状のオンプレの継続を選択されるお客様が少なくありません。それでも、当社はお客様にとって「最も価値のあるものは何か」を常に中心に考えています。新しいテクノロジー、サービスの活用を勧める啓発活動を戦略ワークショップなどを通じて推進し、お客様の顕在化している課題の解決だけでなくお客様固有の環境、ビジネス状況に適した未来のロードマップを一緒に描いていく活動をしっかり継続していきたいと考えています。それが結果的にCXの目的にもつながると考えています。

 また、こうした活動に取り組む組織を拡大していくため、フロントセールスのほか、エンジニア、ITアーキテクト・コンサルタントなど新しいスキルセットを持つ人材の育成、増員を進めています。

MKI 浅野 お客様との継続したコミュニケーションを通じて課題と改善策を整理・共有し、CXを加速する製品・サービスを使いこなす人材育成が必要であり、前述したマーケット推進部を中心に教育と実業の両面を通じて、スキルと意識の変革を促しています。また、ITマネジメント・ITコンサルタント人材の育成については、三井グループの案件で培ったナレッジの可視化・資料化を通じて、実践的な教育メニューを整えています。会社全体の取り組みとして、4月から始まった第七次中期経営計画において、売上高におけるリカーリング事業比率の向上を経営目標に掲げて社内外へメッセージを明示すると共に、組織・個人評価のベースとなるKPIについてもリカーリング事業を意識した内容に変えています。

NOP 田中 ネットワングループでは、営業と技術の壁をなくし、コーポレート以外の職種をITビジネス職に統一しました。そしてサービスの比率を55%にするとコミットしています。一方、CXサービスもフェーズドアプローチ(段階的なアプローチ)に合わせていく必要性を感じています。

Q NOP 田中 最後に、当社への要望、期待することをお聞かせください。

MKI 浅野 ソフトウェア製品の複雑化で、ライセンス管理や更新時期の管理などの負担が増しているため、その支援があると助かります。また、当社の取り扱い製品のほとんどが海外メーカーですが、日本市場では海外と異なる機能・サービス・料金体系などが求められることも多いため、日本市場向けのメニュー作りからNOPさんと一緒になってベンダーに働きかけていきたいと思います。

IIJ Global 井上 当社も多くの海外製品を取り扱っているので、ベンダーへの働きかけはぜひ、協力をお願いしたいですね。また、私たちがお客様へ価値を提供する以上、より専門性を磨いていく必要があります。ITアーキテクト・コンサルタントなどを育成する上で、スキルを身につけるためにも情報提供をはじめ、技術的なサポートや保守・運用に関する知見や体制を提供していただきたいと思います。

NOP 田中 NOP-CXポータルにおいて、パートナー様がCX活動を推進するのに必要となる基礎データやマイグレーション情報、運用&テクニカルTipsといったコンテンツを提供したいと考えています。当初は契約管理からのスタートですが、いずれはCXの総合ポータルとしての役割を担っていきたいと思います。

 また、ライフサイクルに合わせた段階ごとのCXサービスも提供する方針です。NOP-CXポータルの次のサービスとして構築期間中(保守開始前)のQAサービスを検討しており、ご要望によってはパートナー様に代わってユーザー企業様にテックタッチでアプローチするなど、視野を広く柔軟なサービスを検討していきます。

シスコ 望月 当社としても、パートナーの営業の皆様が価値提案をより推進していただけるよう製品中心だった当社のコンテンツに「顧客価値」に根差した内容を加え発信していきます。「やわらかいインフラ」もその一つです。またパートナーの皆様がBreak & Fixモデルの保守からライフサイクルモデルへと切り替える上で必要なツール・情報・支援を継続的に提供して参ります。そしてこれらをNOPさんの付加価値と合わせてご提供して参る所存です。
 
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外部リンク

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