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トップ対談 サイボウズ×オービックビジネスコンサルタント 部分最適で終わらせない! 企業とベンダーが向き合うべきDXの方向性
2023/04/27 09:00
週刊BCN 2023年04月24日vol.1966掲載
取り組みは道半ば企業の「迷い」が課題に
──コロナ禍で企業のIT活用が大きく変わりました。現在の企業を取り巻く環境について、どのように認識していますか。和田 企業の間ではクラウド化の潮流が生まれていると感じています。クラウドは、企業に新しい価値を提供する上で重要な役割を果たしますが、しっかりと活用しなければ大きな効果は期待できません。各企業の状況を見ると、クラウドによって業務のデジタル化はできているものの、そこで終わってしまい、その先にあるDXにつなげられていないケースが非常に多いと思っています。
DXの意味とは、データとデジタル技術を活用し、イノベーションを起こして競争上の優位性を確立することだと理解しています。現在、すべての産業にとってDXが必要になっており、データを活用し組織の強化や競争力の向上といった目的を果たす上で、クラウドの活用が注目されています。当社への新規の問い合わせのうち、ほぼ100%がクラウドに関する内容になっています。クラウドに対するニーズの高まりを感じるとともに、企業がクラウドを前提にすることは今後のDXの実現に向けた起爆剤になると期待しています。
青野 私も和田社長の考えに近い部分があります。これまで日本のデジタル化は遅々として進まないことを目の当たりにしてきました。しかし、少子高齢化による労働人口の減少が大きな課題となり、そしてコロナ禍もあってデジタルの重要性が広く認識され、一気にDXに注目が集まったと思っています。ただ、デジタル化とDXは少しニュアンスが違います。DXは、デジタルで便利になり、そしてビジネスが進化し、さらに組織の文化も変わることが本質だと思っています。アナログの業務がデジタルになったからといって、それでDXが実現できたとはいえません。そういう意味では、日本のDXは始まったばかりだとみています。
和田社長がおっしゃったクラウドの文脈で言えば、10月に始まるインボイス制度と、12月に猶予期間が終わる改正電子帳簿保存法の二大改正に向けてクラウドの活用が加速しています。それに加え、ようやく政府がクラウドを使ってもいいとの方針を出したことも追い風になっています。クラウドはだめだといわれていたので、これは大きな変化です。リモートワークをする上では、クラウドがなければ働けない状況がすでに明らかになっているので、法改正の部分と社会的な部分が同時に進んだことで、企業のクラウドやDXに対する関心はより高まっていると感じています。
「奉行クラウド」と「kintone」の融合で最適解を提供したい
──企業がDXの実現を目指す中、どのようなことが課題になっていますか。青野 お客様の迷いが課題だと捉えています。クラウドは便利なので、部分的に導入できます。ファーストステップとしては、それでいいかもしれませんが、そこで止まってしまうのは大きなリスクになります。いろいろな部門や業務にクラウドを適用していけば、会社全体としてDXの実現に近づくことができますので、適用範囲が一部にとどまるのは非常にもったいないですね。
大きく懸念しているのは、データがサイロ化する方向に向かっていることです。営業管理や販売管理、経費精算のシステムを導入し、さらにビジネスチャットやマーケティングツールも使い始めたと仮定します。それぞれを見ると、便利になっているもののデータがばらばらになり、全体として活用されていない状況が生まれてしまいます。データをしっかりと流通させるためには、それぞれのシステムやツールを戦略的に組み合わせることを考えていかないと、個別最適になってしまい、クラウドの良さは十分に発揮できないと考えています。
和田 青野社長がおっしゃったことには同感です。出発点としては、全体を考えて行動するか、分かる部分から始めていくかの二つの選択肢がありますが、目的地は同じDXなので、そこに向けたプロセスは非常に重要です。管理部門や現場部門などに限った状態で最適化が進むと、それぞれのサービスの情報や業務プロセスがつながっていない状態が存在し、二重入力の発生やマスタの不整合といった課題が発生してしまいます。その結果、連携するための個別開発が必要となり、高額な投資が必要となります。一部でデジタル化が進んでいるからといって安心してはいけないと思っています。
──OBCの「奉行クラウド」とサイボウズの「kintone」は、連携用ツールによってシームレスなつなぎ込みが可能とうたっています。各企業の課題解決にはどのように貢献できるのでしょうか。
青野 kintoneと奉行クラウドをつなげると、現場部門がkintoneで入力した情報を、管理部門が使う奉行クラウドにシームレスにつなぐことができます。顧客や商談管理、受発注入力、物品購入申請などのデータについて、多重入力や管理をせずに正確かつリアルタイムに共有でき、業務品質の向上や工数削減が可能になります。奉行クラウドとkintoneの融合は、基幹業務システムの安定性と、変化への柔軟な対応を両立することができ、企業が抱える課題解決の最適解になるといえるでしょう。
和田 私からは具体例を説明します。建設業を例にしますと、現在、一般企業に定められている「時間外労働の上限規制」が2024年4月から建設業にも適用され、時間外労働の上限や割増賃金率の増加など、順守しなければならないことが増えます。建設業の勤務形態は、日ごとに現場が変わったり、直行・直帰が多かったりして、現場の正確な労働時間が把握しづらいです。そのため、残業抑制のマネジメントや原価管理、収支確認に苦労している企業は少なくありません。
例えば、現場部門がkintoneで勤怠や経費などの現場日報を入力すれば、奉行クラウドに自動連携されるので、バックオフィス部門で正確な労働時間の把握や原価管理などが可能となり、利便性が高まります。「建設業のDX」と聞くと「難しいのでは」と思われがちですが、現場とバックオフィス部門が連携する業務から少しずつデジタルシフトを提案していけば、ビジネスチャンスになるはずです。
パートナービジネスも変革を選択と集中、役割分担がより重要に
──説明していただいた連携による価値を企業に感じてもらうためには、パートナーの存在が重要になると思いますが、その点についてはいかがでしょうか。青野 私たちベンダーは、それぞれの領域でソフトウェアを提供していますから、全体の業務システムを自分たちが描くのは難しいです。なので、パートナーにお客様の業務全体を見ていただくことが非常に重要になります。
その上で、変わりつつあるkintoneのパートナーのビジネスについて話したいと思います。これまでのSIerのビジネスは、決まった要件に沿って受託開発して、お客様に納品するかたちが主流でしたが、クラウド時代は、納品型ではなく伴走型のほうが合っていると感じています。具体的には、どこかの業務にkintoneを適用した後、お客様と定期的にミーティングをしながら少しずつ拡張していくイメージです。つまり、お客様と一緒にシステムを改善していくような役割が求められており、これができているパートナーはビジネスを発展させられています。この方向に変わることができれば、お客様のDXを止めることなく、着実に進化させられると思っています。
和田 おっしゃる通りですね。クラウドの時代を迎え、私もパートナーはビジネスモデルを変えるチャンスだと考えています。クラウドを販売していく上では、ベンダーからすると直販が一つの選択肢としてあります。部分最適を目指す場合は直販でも対応できますが、総合的にシステムを考える場合は、直販では先ほど申し上げたような課題を生み出してしまうという問題があります。だからこそパートナーは、お客様に寄り添って、一緒に考えて、伴走できる存在だと思います。新しいパートナービジネスの確立に向けてお互いに力を合わせることで、ビジネス自体もトランスフォーム(変革)していけると考えています。
青野 100%パートナービジネスを掲げるOBCさんが、クラウドでもそれをやろうとしているのはすごいことですね。パートナーをみんな引き連れていくことになるわけですから、ご苦労もあると思います。だって、今までのビジネスが儲かっていたら、なかなか変えるのは難しいですから。ただ、これは非常に大事なことです。パートナーが変わっていかなければ、伴走してくれるパートナーが増えないので、結局はお客様が困ることになりますね。
──パートナーが変わるために、ベンダーにはどのような役割が求められると考えていますか。
青野 kintoneと奉行クラウドの連携に関する成功事例をパートナーに見せて、こうすればできるんだ、こうすれば儲かるんだ、と感じてもらうことに力を入れています。そうすることで、パートナーは勇気を持って踏み出すことができます。クラウドは技術がどんどん進歩し、使える機能が増えたり、新しい法律などへの対応が必要になったりします。終わりはないと思っているので、私たちもパートナーに伴走し、パートナーもお客様に伴走するという三位一体のかたちを実現したいです。
和田 お客様のニーズは非常に多く、変化が絶え間なく起こっています。ベンダーとしては、何が提供できて、ビジネスにどのように貢献できるかを明確にしないと、お客様の要望に振り回されることになります。奉行クラウドにおいても、できることはしっかりと示し、足りない部分はkintoneをお使いくださいと伝えています。これからは、選択と集中に加え、役割分担がより重要になります。パートナーがお客様に寄り添うように、ベンダー同士もお互いに協力して、一緒に市場をつくり上げていくことが大切です。そうすれば、パートナーのビジネスも成長させられると思っています。
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