Special Issue
Peppolに対応したデジタルインボイスは社会をどう変えるのか、デジタル庁×ウイングアーク1st対談
2023/01/26 09:00
(※1)「Pan European Public Procurement Online」の略。デジタルインボイスなどの電子文書をネットワーク上で授受するための文書仕様、ネットワーク、運用ルールについての国際的な標準規格。ヨーロッパ各国、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、日本など30カ国以上が採用している。
データコンバーターであるSVFにデジタルインボイスの機能を追加
加藤 実は、これまでウイングアーク1stさんは帳票出力がメインの会社だと思っていました。ですから、Peppolのような構造化されたデータ(ストラクチャードデータ)の生成に取り組まれると聞いて、ちょっと意外でした。名護屋 確かに、当社は帳票出力をベースとした帳票ベンダーです。ただ、ヒューマンリーダブルな形ではあるもののPDF出力は古くから手掛けてきましたし、電子化された文書の保存にも10年くらい前から取り組んでいます。そのような背景もあり、請求書を大量に出力しているベンダーの責務として、デジタルインボイスにも対応するという意思決定をしました。
加藤 デジタルインボイスに対する企業側の関心はかなり高まっているのですが、それに対応するサービスがありませんでした。おそらく、企業の方々はフラストレーションを感じていたことと思います。
名護屋 デジタルインボイスに対する受け止めは、お客様によって濃淡があるようです。大企業は取引先から求められたらデジタルインボイスを発行しなければならないので相当に感度が高いのですが、受取側の企業はそれほどではないのが実情です。しかし、現場の経理担当者の方々は請求データの標準化を望まれていますので、デジタルインボイスは大きな可能性を持つテーマだと当社は考えました。
加藤 私も各地で現場の経理担当者の方々とお話をすることが多いのですが、皆さん、高い意識を持っておられます。例えば、「デジタルインボイスで“多画面問題”は解決できますか」など、日々直面している課題の解決を念頭に考えているようです。
名護屋 当社がデジタルインボイスへの取り組みを決めた背景には、われわれが帳票基盤ソリューションのSVFをデータコンバーターと考えていることがあります。ERPなどが作成した請求などのデータをプリンタ用のデータやPDFデータにコンバートするのがSVF、というわけです。
加藤 そのような考えから、データを自動変換する機能の一つとしてデジタルインボイスを作成するメニューを追加されたということですね。
名護屋 おっしゃる通りです。
デジタルインボイスのデータから情報を取り出して価値を生み出す
加藤 メニューを追加することにした理由はどこにあるのですか。帳票出力機能だけでもある程度の効率化は見込めるわけですから、メニューを一つ追加しただけでは他社と差別化するのは難しいと思うのですが。名護屋 このやり方であれば、当社の製品やサービスをお使いいただいているユーザーの方々がほぼ何も変える必要がないからです。デジタルインボイス作成に手間をかけるのではなく、お客様の本来の業務に時間と労力を割いていただきたいと考えました。
加藤 インボイスをデジタル化してストラクチャードデータとすることによって、ユーザー企業にはどのようなベネフィットが生まれるとお考えですか。
名護屋 ベネフィットを得るためのポイントは、受け取ったデータから情報をどう抜き出すかにあると思います。正しく行えば、請求データから抜き出した情報を可視化し、経営の意思決定を加速できることでしょう。当社にはBI領域の製品やサービスもありますので、ユーザーの方々をご支援できると思います。
加藤 また、請求データを出す側も、売り上げを得意先別に抽出したり集計したり、といった作業の自動処理が可能になり、容易になるはずです。出す側であれ受け取る側であれ、情報を抜き出しやすくなることは非常に重要なポイントだと思います。山のようにある情報の中から、自分に必要なデータをいかに簡単に選べるようになるか。情報そのものは紙に入っていてもデータに入っていても同じかもしれませんが、段ボール箱の中をかき回して探さなければならないのと、クリック一つで取り出せるのとでは、大きな違いがあります。
名護屋 はい、業務を効率化できますし、取り出した情報を活用することによって新たな価値も生まれますね。
加藤 海外のある金融機関では、デジタルインボイスを企業の与信管理に活用しているとのことでした。自社が堅実なビジネスをしているのだということを金融機関にリアルタイムに提示し納得してもらおうと、紙の帳票を段ボールに詰めて持ち込んでも、金融機関はまず相手にしてくれないはず。しかし、デジタルインボイスというデータの形でやりとりしていれば、金融機関にとっては優良な借り手を見つけることができ、企業にとっては自社の与信度を高めてもらえる、という双方新たな価値が生まれるわけです。帳票による与信管理には、やはり限界があります。
新版へのバージョンアップだけでデジタルインボイスを作成できる
名護屋 現在、SVFのPeppol対応を進めており、JP PINTのバージョン1への対応を進めている段階で、23年4月に提供できるよう計画しています。この機能を使っていただくにはSVFをバージョンアップしていただく必要があるのですが、いろいろな理由でそれができないケースも想定されます。そこで、最新バージョンではないユーザーでもデジタルインボイスを作れるようにするツールも計画しています。また、デジタルインボイスを得意先に送るための仕組みとしては、invoiceAgent電子取引というサービスを使っていただきます。こちらのPeppol対応も23年7月には完了する見込みです。さらに、ERPベンダーとも連携に関する協議を進めています。加藤 どのような場合にバージョンアップができないのですか。
名護屋 最も多いのは、印字位置がずれることがあるから、という理由です。
加藤 インボイスをデジタル化すれば印刷する必要がなくなるわけですから、印字位置のずれが大きな問題になるとも思えません。企業の方々にはマインドをチェンジしていただき、ぜひバージョンアップしていただきたいですね。
名護屋 SVFをご利用されており、かつinvoiceAgentをご利用されているユーザーがいらっしゃいますので、invoiceAgentのユーザーの取引先約11万社の10%にあたる1万社程度がデジタルインボイスをご利用いただけるのではないかと試算しています。
加藤 企業の方々には、デジタルインボイスを導入することによって二つの良いことがあると知っていただきたい。まず、受け取った側では、請求書の内容を自社の業務システムに入力しなおさなくて済むようになります。それによって生まれた余力を、ぜひ価値を生み出す領域に振り向けてください。余力を他の領域に振り向けるには、職種転換のための人材育成も必要になるでしょう。
名護屋 労働人口減が始まっている今、シニア労働力の活躍が期待されます。請求書からの入力しなおしのような手作業からシニアの方々を解放すれば、プロフェッショナルとしての経験や知見を企業の成長に役立ててもらえると思います。もう一つの点は、どのようなことですか。
加藤 これは中長期的なビジョンです。今般のPeppolに対応したデジタルインボイスは、グローバルな標準仕様です。したがって、日本国内だけでなく、世界各国で「通用する」ビジネスツールだということです。日本のサービスプロバイダーの方には、ぜひ、日本国内だけでなく、グローバルで活躍してもらいたいです。
いつでも使える状況で急速に普及する
加藤 23年のバージョンアップでデジタル化するのは、請求書だけですか。名護屋 そうです。
加藤 請求書だけでは取引の全体をカバーできませんから、今後は、見積書や受発注関係書類もデジタル化していく必要があるでしょう。それら全体をPeppolベースでデジタル化してネットワークでデータを交換できれば、ユーザー企業にとってのベネフィットはもっと大きくなります。
名護屋 請求書を除く見積書や受発注関係の書類についてはinvoiceAgentによって電子取引で送受信することが可能な状態で、すでに4年目に入っておりますし、それ以前からいくつかのクラウドサービスを展開してきました。当社にはそうした経験で培われたノウハウがありますから、Peppolサービスプロバイダーとしての自信があります。さらに、ERPや電子契約サービスとの連携についても検討を進めているところです。
加藤 全てを新しいものに一気にリプレースするのではなく、既存のものとつないでいくという発想は重要であり、その観点からもPeppolは理想的な存在でしょう。
名護屋 当社のPeppol対応は請求書から始まりますが、それによって帳票を標準化できることに大きな意義があると考えています。
加藤 invoiceAgentユーザーの取引先のうちバージョンアップするのは1割と予測されているとのことですが、やはり普及は大企業が先行するとお考えですか。
名護屋 はい、デジタルインボイスの発行に迫られているのは大企業ですので。
加藤 大企業は取引先が多いので、そこが率先してデジタルインボイスを発行すればやがては社会全体に広がっていくことでしょう。ただ、何社が採用した、インボイスの何%がデジタル化された、といった定量的な目標を追いかけていく必要はありません。デジタルインボイスをいつでも発行できる状況を作っておく、それが大事だと考えます。
名護屋 起爆剤の一つになるかもしれないとわれわれが見ているのは、請求データ受け取りです。今、多くの企業は複数のサービスを契約されているのですが、それをPeppol一つに置き換えれば効率的ですし、費用も抑えることができます。
加藤 デジタルインボイスのほうが楽だ、と気付いてもらえることが重要ですね。
名護屋 そのためには、Peppolサービスプロバイダーの存在を企業の皆さんに知っていただかなければなりません。
加藤 日本におけるPeppol Authority(管理局)として、デジタル庁は共通の材料は提供しました。これからは、Peppolサービスプロバイダーの皆さんがそれを使って具体的なビジネスを出していくフェーズです。デジタル庁としても、そのあたりをしっかり発信していく必要があると思っています。
名護屋 請求書のデジタルインボイス化に続き、仕入明細のデジタル化でも積極的に取り組んでいくつもりです。
帳票DX DAY ~帳票のデジタル化から始まるバックオフィスDX~
デジタルインボイスを中心に、「帳票」デジタル化の動向とその意義を解説。
具体的なデジタル化の方法と実際の取り組み事例についてご紹介いたします。
DXに向けて、バックオフィス部門・システム部門など各担当者が進むべき道のヒントをお伝えいたします。
日 時:2023年2月15日(水)13:00~14:05
場 所:オンライン(YouTube)
参加費:無料(事前登録制)
主 催:ウイングアーク1st株式会社
▼詳細・お申し込みは以下をご覧ください。
https://www.wingarc.com/event/chohyo-dx-day/?argument=RTXsp5Bn&dmai=a63c10f3821f09
https://www.seminar-reg.jp/bcn/survey_wingarc/
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