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「KUSANAGI Stack」を共用型レンタルサーバーに技術供与、海外事業者向けにも展開~北米での先行募集開始~
2022/11/04 09:00
KUSANAGIでサーバー側を高速化 WEXAL/Davidで表示速度をアップ
「Googleが検索ランキングを決める際にCore Web Vitalsを重視していることもあって、Webページの表示・応答速度を高めることがサーバー事業者にとっての生命線になっている。この状況は、日本だけでなく、世界で共通だ」。プライム・ストラテジーの相原知栄子・企画開発部管掌取締役は、CMSをめぐる最近の状況をこのように分析する。プライム・ストラテジーは、KUSANAGIの開発・提供元として知られる。KUSANAGIの仮想マシンイメージをAmazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)などの28プラットフォームに提供。今年9月には、累計稼働台数が6万5000台を超えた。
KUSANAGIの実体は、高速化チューニング済みのLinuxベースのサーバーソフトウェア基盤である。これに含まれるのは、Linux、HTTPサーバー(Nginx/Apache)、スクリプト処理系(PHP/Ruby)、リレーショナルDB(MariaDB/PostgreSQL)、CMSソフトウェア(WordPress)などのソフトウェアコンポーネント。バージョンとして、KUSANAGI 8(LinuxにCentOS 7を採用)とKUSANAGI 9(LinuxにCentOS Stream 8/AlmaLinux OS 8を採用)の2種類があり、どちらのバージョンについても「無償版」「Business Edition」「Premium Edition」の3エディションを用意している。
この3エディションのうち、最上位のPremium Editionは同社の高速化エンジン「WEXAL Page Speed Technology(WEXAL)」と戦略AI「Onimaru David(David)」をKUSANAGIとセットにしたソリューション「KUSANAGI Stack」として提供される。WEXALが担当するのは、HTTPサーバーから送られてくるソースコード(HTML/CSS/スクリプト)と画像を圧縮して、Webブラウザーでのレンダリング(表示)速度を高める役割。その圧縮とレンダリングをどのように行うかをリアルタイムで決めるのが、Davidの役割だ。
KUSANAGI Stackは、Webページの速度を“上り”と“下り”の両方の経路で向上させる。具体的には、上りの経路でWebブラウザーから送り出されるHTTPリクエストの転送速度とサーバー側バックエンドでの処理速度をKUSANAGIが最適化。下りの経路で処理結果としてWebブラウザーに送られるHTTPレスポンスの転送速度とWebブラウザーでのレンダリング速度をWEXALが高める仕組みだ。
KUSANAGI/KUSANAGI Stackによる速度向上の効果はきわめて高い。「Webページの表示もバックエンド処理も速くなるので、Googleが最近重視しているCore Web Vitals指標を大幅に改善できる」と相原取締役。プライム・ストラテジーが社内で実施した比較テストでは、ページキャッシュを使用した場合のWebページ表示速度はKUSANAGI 9と標準のLAMP(Linux-Apache-MySQL-Perl/PHP)環境との比較で約2330倍(4仮想CPU・1台構成)、ページキャッシュを使わない場合でも表示速度は約20倍に向上するという。また、サーバー側のバックエンド処理の能力も、ページキャッシュ使用時は1秒当たりの同時リクエスト数が2万3000超、ページキャッシュ非使用時でも200超を確保できると相原氏は説明する。
既成の仮想マシンイメージをもとに超高速CMS実行環境を素早く構築
KUSANAGIの初のサービスインは15年7月。その時から、KUSANAGIはパブリッククラウドやVPS(仮想専用サーバー)用の仮想マシンイメージとして提供されている。ユーザー企業は仮想マシンを新しく作成する際にメニューからKUSANAGIを選ぶだけで良く、Linux、ミドルウェア、アプリケーションなどを個別にインストールする必要はない。具体的な手順はパブリッククラウドやVPSによって多少異なるものの、おおまかなステップは、(1)作成する仮想マシンの種類としてコンピュート型を選択する、(2)仮想マシンの原型となるイメージとして、マーケットプレイスからKUSANAGIを選択する、(3)仮想マシンに割り当てる仮想CPUの数やメモリー容量を指定する、(4)仮想マシンにその他の初期値を設定する、(5)仮想マシンを起動する――となる。
これらの作業はユーザー企業の情報システム担当者が行うのが本来の姿だが、SIerなどに代行してもらうことも可能。プライム・ストラテジーのエンジニアに専門的な立場からの助言や支援を求めることもできる。なお、KUSANAGI有償版の利用料金は、仮想マシンの費用と合わせて、パブリッククラウドやVPSの事業者にサブスクリプション方式(月額・年額)で直接支払う仕組み。一方、導入支援作業についてはSIerやパートナー企業、同社との契約に基づいて一括で精算することになる。
このほか、CMSが稼働を開始した後の運用管理をユーザー企業に代わって行う「KUSANAGIマネージドサービス」もBusiness EditionとPremium Editionの契約者向けに提供している。最大の特徴は、サーバー、ミドルウェア、アプリケーションのすべてのレイヤーに対する運用管理を一貫した体制で提供していること。パフォーマンスと信頼性を確保するためのサーバー運用管理、WordPressなどミドルウェアサーバーのチューニング、WordPressの保守の各サービスが一体のものとして提供されるので、ユーザー企業はコンテンツ制作などの本来業務に専念できる。
また、KUSANAGIマネージドサービスを利用することによって、システムの可用性も高まる。KUSANAGIマネージドサービスは24時間365日の監視体制に基づいて提供されるので、キャンペーンを実施した時などのアクセス集中にも素早く対応することが可能。複数リージョン間で広域分散の設定をしておけば、大規模災害発生時にも瞬時の切り替えが可能だ。この監視体制によって、外部からの攻撃や改ざんもリアルタイムに検知できる。
利用料金はアクセス数にかかわらず定額なので、情報システム部門がランニングコストを容易に予算化することもできる。
国内2社のレンタルサーバーにもWebページ高速化技術を供与
このようにKUSANAGIには数多くの魅力があるものの、CMSを使ってWebサイトを構築している全てのユーザー企業がその恩恵にあずかれていたわけではない。「仮想マシンのイメージを提供する」という仕組みであるがゆえに、単一のサーバー環境を複数のユーザーが共同で使う共用型レンタルサーバー(ホスティングサービス)では使えなかったのである。しかし、レンタルサーバーの世界でもユーザー獲得競争は熾烈であり、事業者は差別化の源泉となる新機軸を求めている。「もともとは、レンタルサーバー向けの製品を出そうとは考えていなかった。しかし、複数の事業者からWebページの表示速度や応答速度を改善したいとの相談があったので、その要請に応えられる方式を考えてみた」と相原取締役。その結果として生まれたのが、KUSANAGI Stackの技術を知的財産として供与するライセンスビジネスだ。
第1弾となったのは、エックスサーバーとの技術提携である。この提携に基づき、エックスサーバーはレンタルサーバー「エックスサーバー」の全プランと同じくレンタルサーバーの「wpXシン・レンタルサーバー」の全プランに、KUSANAGIの技術を適用して処理速度の向上を実現。WordPress専用クラウド型レンタルサーバー「wpX Speed」の全プランにもKUSANAGIの技術を取り入れた。
さらに、プライム・ストラテジーはGMOインターネットグループにWEXALのライセンスを供与。GMOインターネットグループは「ConoHa WING by GMO」と「お名前.comレンタルサーバー」の二つのレンタルサーバーでWEXALの機能をユーザーに提供している。
これらの共用型レンタルサーバーにKUSANAGI Stackの技術を適用するための作業は、エックスサーバーやGMOインターネットグループのエンジニアが実施。プライム・ストラテジーは、プラットフォームに合わせた追加の開発や技術的なサポートなどを提供している。相原取締役は「両社とも、KUSANAGIやWEXALを使うことによる付加料金はユーザーから徴収していない」としている。
知的財産ビジネスを海外にも展開 まずは北米市場での成約を目指す
国内サーバー事業者向けのライセンス供与を成功させたことをうけて、プライム・ストラテジーは同じようなライセンス供与契約を海外のサーバー事業者との間でも結ぼうと計画している。海外向けの最初の目標として想定されているのは、世界でもっとも多くのデータセンターが立地している北米のレンタルサーバー事業者だ。「現在は、まだ先行募集を開始した段階。北米は市場規模も大きくユーザーも多いので、より多くのユーザーに届く。来年11月までに、少なくとも1社とライセンス供与の契約を交わしたい」と相原取締役。プライム・ストラテジーはニューヨークに子会社を置いており、その子会社のエンジニアが現地での交渉に参画することを計画しているようだ。
さらに、その後に予定されているのが、アジアとヨーロッパへの展開だ。相原取締役は「シンガポールにも子会社があるので、アジアへの展開が先行する見通し」としたうえで、「ヨーロッパはGDPRへの慎重な対応が求められるので、もう少し先になりそうだ」と話す。
このようなライセンス供与の拡大と並行して、パブリッククラウドやVPS向けにKUSANAGI Stackを普及させていく活動も引き続き進められている。有償版(Business EditionとPremium Edition)を販売し、国内向けに有償版(Business EditionとPremium Edition)を提供するプラットフォーム事業者を来年11月までに2社程度増やすのが目標だ。「北米の共用レンタルサーバー事業者とライセンス供与契約の交渉を進める過程でパブリッククラウド/VPS向けの契約が取れる可能性もあるのではないか」と相原取締役は期待する。
ライセンス供与は、技術提供であることからレンタルサーバーだけではなく、ネットショップサービスのようなSaasサービス、CDNのようなネットワークのサービスなどにも応用が可能だ。特にWEXALはエンジンであるため、さまざまな提供形態を取ることができる。相原取締役は「当社の技術でプラットフォーム事業者がかかえている課題を解決し、プラットフォーム事業の今後の展開に貢献する。デジタルやITで世界をより良いものに変えていくため、賛同していただけるプラットフォーム事業者とのエコシステムをさらに拡大していくつもりだ」と強調している。
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