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ネットワールド × ITRアナリスト対談 製品と市場のエキスパートが語る クラウドプロフェッショナルサービス CloudPath Servicesの「使いどころ」

2021/10/14 09:00

週刊BCN 2021年10月11日vol.1894掲載


 エンタープライズIT領域でクラウド活用意欲が高まり、ユーザー企業のシステム構築を担うSIerは商機を迎えている。そうした状況を踏まえ、ディストリビューターとしてさまざまなメーカーの最新ソリューションを取り扱い、パートナーのSIerを支援してきたネットワールドが、新たに多岐にわたるクラウドインフラの構築と移行を支援するプロフェッショナルサービス「CloudPath Services」を開始した。サービスのリリースに際して、アナリスト兼コンサルタントとしてクラウドコンピューティングの市場動向やユーザーのクラウド活用の最前線に触れているアイ・ティ・アール(ITR)の甲元宏明プリンシパル・アナリストと、サービスを提供するネットワールドのマーケティング本部の平松健太郎副本部長、SI技術本部ソリューションアーキテクト課の工藤真臣次長に、市場の動向やクラウド移行アプローチの最適解などについて語ってもらった。
 
 

大企業で進むクラウドの活用 利用企業数ではAzureがトップに

――まず、クラウド市場の状況をご説明ください。

甲元 ITRでは毎年、「IT投資動向調査」を発表しています。2021年版ではクラウド系の製品・ソリューションへの投資意欲が高く、今後も伸びていくと予測しています。
 
甲元宏明
アイ・ティ・アール
プリンシパル・アナリスト

 クラウドサービス事業者の市場シェアは、売上規模でみると「Amazon Web Services(AWS)」が圧倒的で、「Microsoft Azure」が続くという2強状態です。ただし、昨年11月に売上高300億円以上の大企業に実施した調査結果でみると、利用企業の数的なシェアでは僅差ながらAzureがトップになります。AWSの場合、スタートアップやデジタルネイティブ企業も使っているので売上高は大きくなりますが、エンタープライズ市場に限って見ると大差ないんですね。

 それらの企業がクラウド系ソリューションをどれだけ使っているかを見ると、約4分の3が「SaaS」を使い、次に「PaaS」、僅差で「IaaS」と続いています。意外に思われがちですが、DXブームで手軽にアプリケーションが作れるPaaSの人気が高い。ただ単価が小さいので、市場規模としてはIaaSのほうが大きい。その後に「プライベートクラウド」が続いています。

――ユーザー企業の側での活用形態については。

甲元 「単一パブリッククラウド」「マルチクラウド」「ハイブリッドクラウド」の中で、一番多いのがハイブリッドクラウドです。3年後の予測でも伸びていて、国内ではハイブリッドクラウドとマルチクラウドが主流。さまざまなサービスを使いたいという企業が増えてくるでしょう。

 ユーザー側の意識としては、クラウドは使うのが当たり前で、どう使っていくかに悩んでいる企業が多い。その上でIaaSへの単純な移行以外にも、クラウドネイティブな使い方を模索している企業が増えているのが現状です。
 
 

クラウド移行効果が示せない現場 まずは短期間でのリフトで成果を

――甲元さんはIT導入コンサルも行われていますが、実際のユーザー企業の声は。

甲元 クラウド活用意欲は高いものの、移行時の効果を経営陣に示せず二の足を踏む企業が多い印象です。ほとんどの企業がシステムの契約やサポート切れのタイミングで移行しようとしています。これでは、クラウド化による真の効果は得られません。

――現実解として、どうすればいいでしょうか。

甲元 既存の非クラウドネイティブなアプリケーションをクラウドに完全「シフト」しようとすると、システム構造を含め全て作り替えなければならなくなるので難しい。そこでまずクラウドに「リフト」し、次にクラウドネイティブ化すべきと判断したシステムをシフトする、いわゆる「リフト&シフト」をお勧めします。

 その際、リフトを包括的に短期間で実施したほうが効果は上がります。今までさまざまなインフラ上で運用していたシステムが、クラウド環境になると標準化されて統合運用や自動運用が可能になり、移行費用や移行期間も抑えられますからね。

 そういったイメージを持ち、さらにセキュリティ対策や海外ビジネスの展開が早まるなどのメリットを出していけば、クラウドへの移行効果が示せます。そのため私が支援する企業では「お金をかけてでも早く移行したほうがいい」と経営陣に理解していただけていますが、実際は対処療法的に粛々と移行している企業が多いです。 

パートナーの支援に特化した CloudPath Servicesが誕生

――その辺りの課題を踏まえてネットワールドはCloudPath Servicesを開始されました。

平松 当社のパートナーであるSIer各社様は、当然クラウドに関する知見や経験はお持ちです。ただ、これまで多くのユーザーのクラウド活用は、SaaSや一部システムの移行など、手軽に活用できる領域にとどまっていましたが、ご指摘の通りユーザーがハイブリッドクラウドやマルチクラウド環境を視野に本格的にクラウド移行を目指す状況では、求められる知識や技術領域も広がっていきます。
 
平松健太郎
ネットワールド
マーケティング本部
副本部長

 それらを1社でカバーするのはリソース面も含めて難しく、当社でもパートナーの構築案件を支援するケースが急増しています。そういった背景から、今伸びている領域を中心にサービスメニューを整理拡充し、提供を開始しました。

――サービスの内容をお話しください。

平松 アセスメントからアフターサポートまで幅広いメニューを提供します。一つめは、20以上のメーカー、80以上の製品やサービスに関する「クラウド上への移行・構築メニュー」です。ここまで多くのメーカーのサービスを提供できるディストリビューターは我々だけです。

 また、ユーザーがクラウドを活用する際には、ネイティブサービスだけでなく、それまで使ってきたサードパーティーのツールを使いたいというニーズが多い。過去から使ってきている技術や製品群をAzureやAWS上で動かすため、我々がインフラのさまざまな製品技術を取り扱ってきた従来の経験が生きてきます。

――そこがクラウドSIerとの最も大きな違いですね。

平松 二つめはパートナーとユーザーが一緒に環境を作っていく「ワークショップ」です。両者の間に入って共通のクラウドに対する理解を醸成し、ヒアリングを通じて最適な移行方法を提案し、構築に進んでいただくメニューを用意しています。

――甲元さんのお話にあったユーザーにクラウド移行効果を理解してもらうという部分も含まれると。

平松 はい。そして三つめは「多彩な移行サービス」です。仮想マシンをクラウド上に持っていくだけでなく、オンプレ側にあるさまざまなタイプのデータや製品を移行させるサービスも用意しています。

 最後は「アフターサポート」です。お客様の環境を理解しているエンジニアに継続して質問できます。

構築前から後まで自由に選べる 実績ベースの幅広いラインアップ

――想定されるサービス利用の流れは。

工藤 まず、アセスメントを行いその結果をベースに移行提案を行います。その際にデータ移行のPoCサービスや「Azure Virtual Desktop(AVD)」の導入を検討するワークショップがあり、必要に応じて構築・設計まで請け負います。
 
工藤真臣
ネットワールド
SI技術本部ソリューションアーキテクト課
次長

 各サービスは切り取って利用していただける形になっていて、パートナーであるSIer様に見ていただければ、「これは任せよう」「これは自分たちでやろう」と判断できると思います。またコスト配分に関しては、我々の知見を生かして適切な割り当てをアドバイスできます。

――当該領域での支援実績にはどのようなものが。

平松 AWS環境へ「FortiGate VM」をアクティブ-アクティブで導入した冗長化事例、AWSに「NetApp Cloud Volumes ONTAP」を導入したクラウド上でのストレージ構築、官公庁ユーザーに対するAVD導入案件支援などがあります。

甲元 技術支援の場合、組み合わせは天文学的になりますよね。どんどんと寄せられるユーザーの要望を取捨選択し、優良なサービスに振り分けていくのは難しくないですか。

平松 大丈夫です。以前から我々が販売している製品に関しては、基本的にお客様からのリクエストをベースに技術を拡充しています。クラウドに関しても、我々がお手伝いをして技術を学び、メニュー化したものがほとんどです。元々多くの製品の知見を持っているので、それらをクラウドで動かしたり連携させたりする際の重要ポイントのフォローも提供できます。

――クラウド環境でも担保されるようになるのは大きいと。

工藤 また、ベンダーニュートラルなソリューションの選定を支援してほしいという相談も多く受けます。そこも当社の強みです。

クラウド技術者100人体制へセキュリティ領域も強化

――今後の展開についてお話を。

平松 まず、メニューは随時増やしていきます。特に甲元さんの指摘にもあったシフト案件に備え、Azureを中心としたさまざまなパーツサービスの連携や運用自動化メニューを提供していく計画です。SE体制も年内に、AWSやAzureの資格保有者を100人体制に増員します。

甲元 ユーザーニーズに合わせてサービスをカスタマイズできると受けると思います。それをコンテナで提供してもらえるとさらにいいですね。あとネットワーク系はどうでしょうか。実際に、私が担当する企業ではパブリッククラウドを意識したWANの再構築案件が多いのですが。

工藤 コンテナでは、Kubernetesサービスをメニュー化する予定です。ネットワークではSD-WANに関しては既に準備済みで、最近ではセキュリティと合わせた検討が非常に増えています。SASEのようにネットワークとセキュリティを統合したサービスに関する支援を拡充していきたいと考えています。

平松 今回のクラウド領域におけるサービスは、パートナーやマーケットに対する支援そのものが大きく変わるもので、ネットワールド自体が大きく変化するくらいの覚悟で発表しています。多くのデマンド、複雑な要件がパートナーに寄せられているなか、需要をいち早く吸収しつつ、支援する体制を作っていきます。

甲元 クラウド技術者100人体制はすごいですよね。私も新たなサービスに期待しています。
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