Special Issue
ウチダエスコ 設立50周年のウチダエスコ 顧客体験価値(CX)の創造をさらに推進し、社会に貢献する
2021/07/01 09:00
週刊BCN 2021年06月28日vol.1880掲載
今年、設立50周年を迎えたウチダエスコ。ICTとオフィス環境にかかわる各種サービスをワンストップで提供することを強みとして業績も堅調であるが、「業績という結果だけではなく、お客様の体験価値向上を推進し、“心のこもったおもてなし”で社会に貢献するプロセスを重視している」と、同社を率いる江口英則社長は語る。トップ就任からの取り組みとその成果、そして今後のビジョンを聞いた。
根本は人材開発にある「おもてなし」で差別化
――まずは、50周年を迎えるウチダエスコのビジネスの現状と、2013年の社長就任から力を入れてきた取り組みについて教えてください。現状のビジネスは、親会社の内田洋行とともに取り組んできた教育分野がGIGAスクール構想による特需に支えられたこと、一方、民間分野ではテレワークなどの働き方の見直しに対応する需要などもあり、増収増益を達成しました。当社は、ICTとオフィス環境にかかわる各種のプロフェッショナルサービスをワンストップで提供することやマルチベンダーサポートを強みとしており、「働く場」や「学ぶ場」のお客様の課題に対応する忙しい1年でした。
ただ、8年前の社長就任時からを振り返ると、社長就任時は、各組織が短期的な業績結果である「財務の視点」に重心を置きすぎている印象がありました。中長期的な視点で、業績結果に至るまでの過程や、良い結果を導き出す原因となる企業や組織にとって必要な「体幹」を強化する経営に注力してきました。
具体的には経営や事業管理にバランススコアカードを取り入れ、その戦略マップで、下から「学習と成長の視点」→「業務プロセスの視点」→「顧客の視点」→「財務の視点」という4段階の視点に合計14個の重点課題を設定。まず、根本となる「学習と成長の視点」の人材開発に力を入れ、学習と成長を続ける社員が業務プロセスを改善し、そのことが顧客満足をうみだし、最終的に「財務の視点」の売上や利益につながるという思考回路の取り組みを進めました。そのような因果関係の思考回路と行動を社員一人ひとりに定着させることに注力してきた8年でした。
――現行の第11次中期経営計画では、「顧客体験価値(CX)の創造~心のこもったおもてなしの提供~」を重点基本方針に掲げていますが、そこに込めた思いとはどのようなものでしょうか。
顧客体験価値、CX(Customer Experience)、心のこもったおもてなしは、それぞれ、漢語、英語、大和(やまと)言葉の表現で、いずれも同じ意味合いですが、なぜ、それをあえて言葉にするかと言えば、われわれのビジネスの多くは、システムインテグレーターやハードウェアメーカーなど元請企業様から仕事を依頼いただいて、各種の機器やシステムに関する技術サービスをお客様に提供しています。お客様が導入されるモノやサービスは同業他社からも提供可能な汎用的な領域ばかりで、差別化は難しいです。
だからこそ、エスコから製品やサービスを提供すると、何か一味違うというおもてなしを感じていただき、次もエスコに任せたいと思ってもらうことこそが、生き残り戦略になるのです。われわれは黒子ですから派手なことではなく、例えば、お客様との接点となるエンジニアや営業の日々の心遣い、ふるまいなど、地味なことの積み重ねによってしか成しえないというのが、重点基本方針に込めた思いです。
お客様の声(VOC)から生まれた独自のサービス
――具体的には、どのような取り組みをされていますか。まず、マイナスのCXを減らして品質改善を図るため、ヒューマンエラーゼロを目的とした危険予知に関する教育研修や研修内容を活かした継続的な品質改善活動に取り組んできました。次いで、プラスのCXを増やすために、現場活動でお客様への質問を掘り下げ、お客様の声(VOC:Voice of Customer)、言い換えればお客様の潜在ニーズや真のニーズをしっかり把握し、どうすればお困りごとやお悩みを解決できるのか、どうしたらもっと喜んでいただけるのかを深く思考した上で、必要な施策を立案し、計画、実行するという活動に力を注いでいます。それを具体化したのが、PDCAの前にS(See:調査・観察)とT(Think:思考・分析)が付いた「ST-PDCA」の採用です。
当初、当社が外注先という立ち位置で仕事をする場合、現場のSEやCEは、元請企業のお取引先様に気遣いして、お客様からの難しい宿題を受けすぎないように忖度してしまう心配を感じました。エンドのお客様が困っていたり、クレームを受けても元請企業様に迷惑を掛けるのではと考え、お客様と会話して質問する活動にブレーキをかけてしまうケースが見受けられました。しかし、長いスパンで見ると、その時は波風が立たなくても、5年後のリース期間の終了時にお客様が黙って契約先を変えてしまう、という結果を招くこともあるのです。その意識を変え、把握したVOCを元請企業様にていねいにお伝えすると、自分たちが気付いていなかった大切なことをエスコのエンジニアが拾い上げてフィードバックしてくれたと、喜ばれることが多くありました。今では、お客様に最も近いところにいるわれわれだからこそ可能な活動であるという認識が定着してきました。
――進捗状況はいかがですか。成功事例など、文教分野、一般企業向けのそれぞれについて教えてください。
地道にVOCをキャッチして、それを社内で共有するため、各部、各課の月例会議で報告し、汎用的なものを中心にそこに込められた真の意味を探るために議論する、という習慣がかなり浸透してきました。その成果も、実際に表れてきています。
例えば、エンジニアがこれまで自分の経験値だけで済ませていたことを、ドキュメントに落としてマニュアル化することでエンジニア共通の知見にする。それをお客様にも活用していただくなどの取り組みが進んでいます。学校では、先生方が毎回ヘルプデスクに問い合わせていたものを取り上げてマニュアル化したり、専用FAQサイトを作成するといった企画・立案も現場主導で盛んになっています。
GIGAスクール構想で1人1台環境が進む中、オンライン学習など端末を家庭でも使用するケースが出ています。そうすると保護者向けのヘルプデスクのニーズも生まれるので、一部の自治体に保護者向けのヘルプデスクを設置した事例もあります。
一般企業向けでは、PCの社内展開でも今は多くのケースで大量の端末への各種ソフトウェアのセットアップ展開、つまりキッティングサービスが求められます。しかも、地方拠点では異なるソフトウェアが必要でオンサイトでのキッティングや設置、さらにエンドユーザー部門に対応するヘルプデスクも求められることもあります。ハードウェアの購入、キッティング、導入設置作業、保守、修理、ヘルプデスクなどのサービスをそれぞれ個別手配するのは大変ですから、1台当たり月額いくらという提供形態を設定にしてほしいという声に応えて、PCサブスクリプションをメニュー化しました。日本では従業員数の多い中堅企業でも情報システム部門が少人数のスタッフでIT運用をしているケースが少なくありませんから、このようなアウトソーシングサービスはとても重宝がられています。
大規模キッティング拠点「ESCO 船橋-BaySite」
――キッティングサービスのニーズは、かなり好調のようですね。2014年に千葉の二俣新町に開設したキッティングセンターが需要の拡大で手狭となったことから、20年1月に大規模拠点「ESCO 船橋-BaySite」を新たに開設しました。ESCO 船橋-BaySiteには、キッティングだけでなく、機器の一時的な保管のための倉庫エリア、代替機器の保管・キッティング・リペア・廃棄など一連のアウトソーシングサービスを担うライフサイクルエリア、また、お客様専用の回線やキッティング展開用サーバーを収納し、入退室管理を徹底したセキュアな環境でお客様自身が作業できるセキュリティエリアなども設けています。
また、ヘルプデスクセンター代行などを行うバックオフィス機能「E-BOSセンター」も、以前は各部署に設置していた機能を統合したことで、お客様からの相談、依頼をお聞きして、いち早く最適なソリューションを提案できる体制を整備しました。これらも全てVOCを反映させたものです。
――人材開発にも力を入れられているようですが、具体的に取り組んでいることは何ですか。
前述したバランススコアカードにおける根本が「学習と成長の視点」の「人材開発」です。そこで、新人の育成だけでなく中途採用にも力を入れています。当社のビジネスにおいては、各部署で必要なスキルや人材像がはっきりしているので、現場の裁量でキャリア採用の活動をできるようにしました。
一方、新卒社員の育成では、まず4カ月ほどをかけて、全ての職種に関して研修をさせています。そのためのカリキュラムを新たに作成しました。SE希望の人が営業を、逆に営業希望の人がプログラミングやネットワークの学習をすることを通じて、当初描いていた職種像とは違う面白さを見いだすことも少なくありません。本当に自分に合った職種はなんであるかを考えてもらい、最終的な希望をできるだけ吸い上げて配属先を決めることでミスマッチも減らせていると思います。
心のこもったおもてなしで「社会に貢献」する企業理念は不変
――現在、取り組まれている第11次中期経営計画が来年7月に終了しますが、CX戦略における次のステップとして、どのような取り組みをお考えですか。当社の本業のビジネスは社会に貢献することが根本にありますが、CXをさらに深堀りすると同時に、EX(Employee Experience=従業員体験価値)の向上にもしっかり取り組みたいと思います。EXと似た言葉にES(従業員満足)がありますが、ESの働きやすさ、居心地の良さに対して、EXは働きがい、自身の成長にとっての高い体験価値を感じる場といった概念になります。
私自身もそうでしたが、若い人は社会の役に立ちたいという思いを持つ人が多い。今なら、地球環境やSDGsへの貢献など、自分もそうでありたいし、それができる会社で仕事がしたいと考えています。EXの推進も、多種多様な「働く仲間の声(VOE :Voice of Employee)」、潜在ニーズをしっかり拾い上げて、ST-PDCAの回転に取り組みます。
また、お客様も地球環境やSDGsを意識した経営課題をお持ちなので、そこにどのようにお役に立てるかを追求していきます。同時に、クラウドをはじめ働く環境におけるテクノロジーも大きく変化しているので、常にキャッチアップしていくことが欠かせません。
ただ、本質的に変わらないのは、お客様の役に立つ、経営課題にミートすることを通じて、「働く場」「学ぶ場」へ「心のこもったおもてなし」を提供し社会に貢献する、という企業理念です。これは過去50年も、これからの50年も一貫しています。
当社には、人を大切にする文化がしっかり根付いています。私は、従業員という言葉は使わず、「働く仲間」と呼んでいますが、「お客様と働く仲間を幸せにする」というSDGsともリンクする経営理念を追求していきたいですね。
社内に向けて言い続けているのは、「好奇心、向上心、利他心」の三つの心と、「把握する力、考える力、伝える力」という三つの力を磨くことです。中でも、利己心と対義語になる利他心は、自分目線でなく、相手の目線、立場で考えることであり、お客様に心のこもったおもてなしをする上で不可欠です。提供する製品や技術だけに目が向いていては、真にお役に立つことはできません。利他心を大切にする会社でありたいと思います。
7月19日号で、ウチダエスコの大規模拠点「ESCO 船橋-BaySite」を紹介します。
- 1