Special Issue
<プリンターメーカー座談会2019>業種・業務に特化してソリューション販売を強化する
2019/03/21 09:00
週刊BCN 2019年03月18日vol.1768掲載
オフィス全体における
印刷枚数は変わらない
――最近、オフィスの印刷枚数が減っているという声を耳にしますが、実際に、そうした変化を感じられたり、業種ごとに違いなどはありますか。北村 国内のPPC用紙の流通量からは印刷枚数の減少は見られません。ただし、印刷コストの削減に取り組まれているお客様がいることは事実ですし、プリンターを集約する動きもあるので、出力を抑制する方向にはあると思います。そのお客様のお困りごとに合う製品を用意していく必要があると考えています。
政岡 大企業は、働き方改革への取り組みから労働時間が短縮する分だけ、プリントの機会も減少していると考えています。プリンターの集約については、むしろわれわれメーカーが提案をしているので、その影響が大手企業を中心に表れていますし、ペーパーレスソリューションやクラウドソリューションなど、電子化の提案による影響もあると考えています。
古賀 今後、ミレニアル世代の方々が会社の中心になってくると、紙を媒介にしないことが当たり前になってくるので、出力の減少につながると思います。一方、以前であれば外注していたプリントが、プリンターが高品質になったことで内製化する動きも出ています。業界としては、もともと紙を使用しない傾向にあるITや金融の動向をウォッチしていく必要があると感じています。
石丸 私も市場全体としては、ペーパーレス化はそれほど進んでいないと感じます。コピーのカウント、消耗品の販売も減ってはいないので、実際のところプリント需要は減少していないと思います。ただ、従来の紙へのサインを電子化するケースも増えているので、業界によっては取り組みが進んでいるところもあると思います。
特定業種のニーズを
しっかりと拾っていく
――ここからは19年の販売戦略をお聞きしていきたいと思います。戦略の方向性として、注力する業種、機種とその売り方を聞かせてください。石丸 業種では従来通り、自治体、医療、金融、流通分野にフォーカスします。課題は、業種・業務のお客様に刺さる提案ができるかということです。その一つとして、カシオ計算機グループより譲渡されたPOP事業を拡大するため、アプリケーションの「MightyPOP」を軸に、ストコン(ストアコンピューター)用のモノクロプリンターにも拡大しながら、さらなる流通業のお客様の開拓を目指します。
医療では、19年に入れ替え需要が本格化すると見ており、そこをパートナーと組んで開拓します。営業が客先に足を運んでニーズを聞きながらベンダーの方々とニーズをすり合わせ、システム評価をして、安定した製品をお届けする売り方を今年も続けます。
もう一つ、お客様のお困りごとを確実に拾って提案することを考えています。例えば、当社には、「RICOH Rule Based Print」というソリューションがあります。これはプリントデータの中のキーワードを判別して、それを基に自動的に印刷先を振り分けて出力できるので、医療現場に効率化と安心を提供できます。
また、ネットワーク上の出力機器を監視するソフトウェア「Ridoc IO Device Manager」について、USBで接続したプリンターの情報も取得できる機能を開発しており、対応製品を順次投入する予定です。
古賀 当社も注力する業種の一つが自治体です。特に戸籍、納税、住民票関係で、依然としてマイナンバー絡みで窓口で出力に対応するケースが多いので、引き続き確実にフォローしていきます。
もう一つは医療、特に薬局での出力で、根強い需要があるので、薬袋などの用紙対応をしっかりとやっていきます。また、300床以上の病院の多くには電子カルテなどの医療システムが導入されていますが、患者に対しては、紙で情報提供するニーズが残っていますので、その出力需要をカバーしていきます。
教育市場では、以前から注力して多くの実績を持っている大学に加えて、小中学校・高校にもソリューションを拡大していきたいと考えています。例えば、テストの採点を紙に出力するニーズなどが多くあります。
医療・教育分野で共通するのは、プリンターにコンパクトな製品を求められることです。加えて、出力スピード以上にファーストプリントの速さを求められる。そうしたニーズに合った製品を核に提案していきたいと思います。
さらに、納税関係など非定型用紙を使用するプリントニーズも確実に網羅し、お応えしていきます。このほか、POPについては、クラウドサービスとの連携でコンテンツと合わせて提供していきます。
政岡 当社も注力業種としては医療、調剤、小売り、流通になります。加えて、金融のニーズも比較的多いので、引き続きしっかりカバーしていきます。
特徴的なサービスの一つが、複合機とサービス名を共通化したオンラインサポートサービス「NETEYE(ネットアイ)」です。これは、インターネットを利用してプリンターの状態を常に監視し、稼働状態や消耗品残量などをリアルタイムで把握できるようにするものです。故障や予兆監視、消耗品の自動配送、迅速な修理・保守サービスを提供することで、お客様の管理負荷を軽減します。特に多店舗展開されているお客様に好評です。
医療、調剤については、ベンダーと連携して機器の検証をしっかりやって安心して使用できるようにします。また、キヤノングループに医療に特化した企業があるので、そこと連携してソリューションを展開していきます。
また、キヤノン初のラインヘッドを搭載したA3ビジネスインクジェット複合機「WG7350F/WG7350FM」を昨年12月に発売しましたが、WG7350FMは定額制を採用し、月3200枚までプリントし放題のため、プリントの多いお客様のニーズにお応えできます。
北村 当社も皆さん同様に、教育、文教、自治体、医療が注力する業種です。これらの分野では、インクジェットプリンターが持つ特徴がお客様への価値につながると思っておりますし、環境への意識が高いお客様でもあります。また、消耗品についても交換に余計な時間を割きたくない、本来の業務に影響させたくないと望まれる方が多くおられます。そうしたお客様に、環境性能の高いインクジェットプリンターや、大容量タンクで交換頻度を少なくできる製品を訴求していきます。
また、文教では職員室で複合機やレーザープリンターを使用されていて、印刷室では孔版印刷機を使用されているケースがありますが、そこに向けて当社の高速インクジェットプリンターを提案して、複数台を集約する提案をしていきたいと考えています。
今後の新製品については、お客様の声を反映させた製品を継続的に投入していきます。
――キヤノンMJさんからお話が出た定額制(サブスクリプション)モデルが最近、増えているように感じますが、定額制モデルに対する考え方、ターゲットやユーザーの反応について聞かせてください。
政岡 当社が12月に開始したビジネスインクジェット複合機のWG7350FMの定額制は、WG7350FMと以前から複合機向けに提供していた中小オフィス向けIT支援サービス「HOME」をパックにして、定額で活用できるようにしたモデルです。反応はこれからですが、通常、出力数に応じて変動するコストを、定額化で平均化したいという要望も一定数あると考えており、そうしたニーズを掘り起こすことができると考えています。
石丸 当社では、1月に「RICOH Intelligent WorkCore」という中小企業をターゲットに働き方改革を支援するソリューションを発表しました。新世代複合機「RICOH IM C6000」など7機種16モデルと、クラウドプラットフォーム「RICOH Smart Integration」を介して提供する各種クラウドサービスを組み合わせて提供するもので、アプリケーション部分にサブスクリプションモデルを採用しています。今は複合機が対象ですが、いずれプリンターも対象にしていく可能性はあると思います。
北村 当社では、定額制の「エプソンのスマートチャージ」をかなり前から提供していますが、他社さんのように出力機をクラウド連携させてサブスクリプション型で提供するというサービスについては、やや遅れがちでした。まだ明確なお話はできませんが、プリント環境の提供に加えて、特定業務のアプリケーションをセットにしたサービスの提供を手掛ける方向ではあると考えています。
古賀 当社はサブスクリプションでのプリンターの提供は行っておりません。ただ、以前から大手企業に向けて出力機器や環境の運用・管理を行うアウトソーシング事業を展開しており、最適配置や環境配慮型の出力環境などを提案しています。この分野では、大手企業で高いシェアを持っていますが、中堅でもニーズが高いことから対象範囲を拡大していく方向です。しかし、中小企業については、プリンター本体の価格が非常に安価になっているのでサブスクリプションが向くのかどうかを考えなければならないと思います。その上で、クラウドをはじめ付加価値を載せた上で判断しなければならないと考えています。
業種のさらなる開拓に向け
パートナー連携が不可欠
――パートナー施策として、販社、ディストリビューターとの販促策などについて教えてください。北村 今年に限ったことではありませんが、ディストリビューターの方々とはお客様のプルを引き出すような施策を進めていきます。また、ビジネス系の販社の方々に向けては、販売の成功例やケーススタディーの紹介、効果的なセールスツールの提供などを充実させて、一緒になってターゲットとなるお客様を開拓していきます。
政岡 注力する業種に向けて、まずはベンダーの方々とシステム連携をしっかりとやっていきます。医療では電子カルテ、調剤では薬袋、流通ではPOPシステムのベンダーの方々としっかり協業していきます。
また、直販については業種別販売体制としており、中小を得意とするキヤノンシステムアンドサポート、流通・小売りに強いキヤノンプロダクションプリンティングシステムズとも連携してビジネスを展開していきます。
古賀 当社は、国内で100%子会社の31販社を展開し、それ以外の関連会社を含めて全国をカバーしており、基本的には各県単位で、地場の販売パートナーの方々と一緒になってプロモーションを展開しています。
全体的には、当社の国内販売組織が方向性を打ち出しますが、パートナーの方々の声を聞いて、有益な情報やツールをタイムリーに提供していくことをしっかりやっていきたいと思います。
石丸 事前の評価検証によって安心してお使いいただけるようにするため、システム系ベンダーとのアライアンスを重視しています。また今後は、プリンターの提案だけでは限界があることから、そこにプラスした商材なども必要になると考えています。例えば、360度カメラの「RICOH THETA」や「RICOH Interactive Whiteboard」を組み合わせた販売施策などを考えています。
――最後に、今年10月に予定される消費税10%の影響はあるとお考えですか。
石丸 影響はあると想定しています。ただし7月から8月かけて駆け込み需要が見込まれますが、10月以降は反動による落ち込みがあるので、年平均では変わらないと考えています。一方、システム変更に伴うビジネスチャンスもあるので、それに向けたPR活動も実施したいと考えています。
古賀 消費増税は、関連商材を絡めたビジネスチャンスになると考えています。当社には国内31販社に4000人近くの直販営業部隊がいて、プリンター以外の取り扱い製品も絡めた販売を行っています。その一つである販売管理や税管理のパッケージ製品は、数多く購入していただいており、消費増税に絡むシステム見直しが、プリンターも含めた商機になると考えています。また、その先にはWindowsサーバーのサポート終了も控えるなど、ビジネスチャンスが続くと思います。
政岡 われわれも駆け込み需要の後に反動がくると考えています。また、保守サービスなど、年間契約しているサービスは増税で期間中でも価格変更になる製品もあるので、お客様に迷惑をお掛けしないようご案内をしていきます。
北村 企業や自治体の前倒し需要はそれほど多くないと考えています。あるとすれば中小企業のお客様、個人のお客様で、消耗品のまとめ買いなどがあるのではと考えています。また、皆さんのご指摘のようにシステム改修はあるため、そのタイミングに合わせた機器の入れ替えに対応していきたいと思います。
――本日はありがとうございました。
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