Special Issue
アプリケーションのSaaS化にAWSが選ばれる理由――ソフトベンダー3社が語る
2018/11/09 08:00
ISVがAWSを選ぶと得られる多数のメリット
はじめに、アマゾン ウェブ サービス ジャパンのパートナーアライアンス本部テクノロジーパートナー部部長の阿部泰久氏が登壇し、アプリケーションのクラウドサービス化が求められる市場の潮流について解説した。「今、顧客のニーズが所有から利用へと変化する中で、求められているのはSaaS化だ。その背景には、アプリケーションをSaaS化することで、本業に集中したいという強い要望がある」と阿部氏は語る。実際、グローバル市場におけるパブリッククラウド支出のうち、SaaSが占める割合は2020年に6割になると予想されているという。
阿部氏は、「ISVもSaaS化で利益が向上する」と力を込める。SaaS開発では、コスト削減や俊敏性の向上に加え、これまで手の届かなかったエリアにもアプローチが可能となり、長期的な成長が見込めるというメリットがあると説明。「AWSには、SaaSベンダーの豊富な利用実績がある。ぜひAWSとSaaSジャーニーを共にしてほしい」とアピールした。
続いて、アマゾン ウェブ サービス ジャパンのテリトリー本部アカウントマネージャーの臼井一行氏が、ソフトウェアのSaaS化を実現するためのステップと成功のカギをテーマに講演した。
SaaS化の実現に向けては、「ソフトウェアのクラウド対応(BYOL=Bring Your Own License)、ビジネス領域を広げるシングルテナント型SaaS、競争力を強化するマルチテナント型SaaSの3ステップがあるが、各ステップでAWSがサポートする」と話す。
また、AWSがISVから選ばれる理由として、「初期費用無料で、必要なITリソースをわずか数分で調達」「ビジネスの伸長に合わせて柔軟に利用可能」「高いセキュリティーの実現」「SaaS事業を支援する豊富なマネージドサービス群の提供」などを挙げた。
SaaS化を実践し、成功したベンダーが語るAWSの魅力
続くセッションでは、実際にクラウドビジネスで成功したベンダー3社が登壇し、SaaS化を実践した理由や、サービス基盤にAWSを選んだ理由を語った。まず、登壇したのはロジスティクス関連ソリューションを提供するシーオスのSolution Delivery事業部の米里直樹氏。主力製品の一つであるWMS(倉庫管理システム)のSaaS化を紹介した。
同社はクライアント/サーバー型で提供してきたWMSをマルチテナント型SaaSへと発展させてきた。WMSは、入出庫や在庫管理などの業務を効率化するシステムだが、業種によって求められる機能が異なり、ビジネス規模で必要なインフラも変わる。SaaS型のWMSにしたことで、迅速に利用でき、従量課金のため必要分のコストで済むというメリットをユーザーに提供できるようになった。
クラウド化に当たり、当初は他社のサービスを利用していたが、14年頃にAWSに乗り換えた。以来、AWS環境が同社の事実上の標準になり、17年にはシングルテナント型からマルチテナント型に移行、データベースもオラクルから「Amazon Aurora」に変更したという。
AWSを選択した理由について米里氏は、「新技術には試行錯誤が不可欠だが、AWSはエンジニアからマネジメントレベルまで多様な接点があり、気軽に相談できるフットワークの良さがあった。また、課題について一緒になって考え、アイデアを提供してくれる提案力、さらに業界のリーダーであるため、事例やノウハウが豊富に集まってくる点を評価した」と説明。今後は、AWSをさらに活用し、「スケーラブルなサービスを効率よく開発していきたい」と語った。
次に、ウイングアーク1stの技術本部クラウド統括部の崎本高広氏が登壇した。同社は、帳票基盤ソリューション「SVF」、BIツール「Dr.Sum」、「MotionBoard」などの製品を提供。各分野でトップシェアを誇る。
クラウドビジネスへは、12年にセールスフォースの資本投資を含む業務提携を結び参入。MotionBoardのSalesforce対応を加速させ、15年にはSVFをクラウド化した。同社のクラウドビジネスは、16年と17年を比較して、MotionBoardが54%、SVFが170%の成長を遂げている。
SIerがクラウドビジネスを展開するに当たってパッケージビジネスと違う意識を持たなければならない点は、「自らのビジネスを変革するという覚悟を持つことだ」と崎本氏は語る。クラウド化のポイントは、マルチテナント対応、セキュアな運用、顧客環境に導入したアプリの自動アップデートができることにあるという。
AWSを選択した理由について崎本氏は、「帳票運用のための、高多重、高負荷に耐えられるクラウド基盤を実現可能なプラットフォームだったことだ」と説明した。AWSを選んだことで、「自社の強みに開発を集中できる」「アーキテクチャーの設計支援が受けられる」「高いセキュリティーを担保できる」ことをメリットとして挙げた。
続いて、法人向けクラウドファイルサーバーを提供するファイルフォースの代表取締役のサルキシャン・アラム氏が登壇した。07年にASP事業を開始した同社は、13年にクラウドストレージ事業にシフト。AWS上でクラウド型ファイルサーバー「Fileforce」を構築し、15年にAWSにサービスを統合した。
クラウド化する以前は、サービスのリソース計画やリソース拡張時のリードタイムの長期化、ハードの故障対応、運用負荷などに悩んでいたといい、その解消を目指して複数のクラウドサービスを比較した。当初は国内のクラウドサービスを選定したが、検証中にパフォーマンス、安定性、ネットワーク機能の制約などの問題が浮上し、急遽、AWSへの乗り換えを決断した。その理由について、アラム氏は次のように語る。
「AWSはWindowsサーバーの安定稼働で群を抜いた。また、マネージドサービスのラインアップとネットワーク機能が豊富なことや、マルチティアセキュリティー、コスト計画を立て易いといった点を評価した。セキュリティーについては、顧客の重要な情報資産を預かることから重視した」
アラム氏は、早くからサービスのクラウド化を推進してきた経験を踏まえ、「もはやSaaS化に向き不向きはない。あらゆるソフトウェアのSaaS化にチャレンジすべきだ。また、クラウドサービスの選定では、提供される機能が継続して利用できるかといった仕様の安定性を含め、長い目で選ぶべき」とアドバイスした。
AWSによるクラウド化支援プログラム
セミナーの最後には、アマゾン ウェブ サービス ジャパンのパートナーアライアンス本部テクノロジーパートナー部の速水由紀子氏が、クラウド化支援施策としてグローバルで数万社が参加する「APN(AWS Partner Network)」を紹介した。APNは、大きくSIerやコンサルファームなどを対象とした「コンサルティングパートナー」と、AWS対応ソフトやSaaS/PaaSソリューション提供ベンダーが対象の「テクノロジーパートナー」に分かれている。AWSではテクノロジーパートナーを「設計と構築」「マーケティング」「販売」の各ステージで支援すると速水氏は語る。
設計と構築では、SaaSビジネスを始める際の課題を解決するためのサポートやガイダンスを提供する「AWS SaaSファクトリー」を用意。マーケティングと販売では、製品の成長を助ける資料やツールを提供するとともに、SaaSの事前検証に当たりAWSのプランティングが使用できる「AWS SaaS Accelerateプログラム」を提供する。今年5月には、パートナーのSaaSを販売できる専門ストアとして「SaaSストア」をオープンした。一定要件を満たすパートナーには、SaaS構築に必要なリソースを提供する「AWS SaaSアクティブプログラム」も用意している。
速水氏は、「11月22日に、AWS上でSaaS開発を目指すベンダーに向けた『.NET DOJO』を開催するのでぜひ参加してほしい」と呼び掛けた。
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